第38話 妖刀は策を巡らせる
俺は駆け足で街へと接近していく。
外壁を回り込むようにして移動していった。
盗賊達とは反対方向から街に侵入したいと思う。
反対側の門も開かれていた。
人々は列を作り、門兵による荷物検査を受けている。
それを突破しなければ出入りできないようだ。
長蛇の列を目にして舌打ちするも、俺は気分を落ち着けた。
ここで苛立っても意味がない。
俺はビルから借りたローブを取り出すと、それを軍服の上から着込んだ。
ローブは全身を覆うような形状だった。
目深に被っているので、顔も覗き込まなければ分からない。
俺はひとまず列に並んだ。
門兵のところまでは、まだ距離がある。
ビル達の移動速度を考えると、大人しく並んでいても猶予があるだろう。
気長に待てばいい。
俺はその間に潜入方法を思案する。
このまま馬鹿正直に荷物検査を受ければ、まず間違いなく素性が割れるだろう。
聖女の容姿はきっと周知されている。
加えて刀も持っているのだから、門兵もまず見逃すはずがない。
なんとなく並んだものの、荷物検査を通過する手段は持ち合わせていなかった。
しばらく考えても名案が浮かばなかったので、俺はネアに相談する。
「なあ、どうすればいいと思う?」
『……まさか考えていなかったのですか』
ネアは驚いている。
俺が無策で列に並んだとは思わなかったらしい。
もし彼女が身体の主導権を握っていれば、深々とため息を吐いたに違いない。
俺は外壁を指差して言う。
「忍び込むつもりだったが、外壁にびっしりと魔術が施されているんだ」
仮によじ登ろうとすれば、すぐさま感知されるだろう。
たぶん電流なども流れる仕組みにもなっている。
かなり整った設備だった。
当初は門から離れた場所からよじ登るつもりであった。
しかし、一目でこれは無理だと分かったのだ。
想像以上に厳重である。
聖女の暴走を深刻に見て、防衛設備を充実させているに違いない。
「あんたの魔術でどうにかできないか?」
『不可能です。私が扱えるのは、補助系や攻撃系に限るので』
「それは仕方ないな」
俺は肩をすくめて諦めた。
残念ながらどうしようもない。
俺達の能力では、気付かれずに侵入するのは困難だった。
開き直って待っていると、列が消化されて俺達の番がやってきた。
槍を持った二人の門兵が、鋭い眼差しを向けてくる。
一方が俺に話しかけてきた。
「街に来た目的は何だ」
「……仕事が欲しくて」
俯いた俺は、ぼそぼそと答える。
少々の沈黙を経て、門兵は次の質問を投げてくる。
「職業は?」
「……傭兵」
「ローブを脱いで顔を見せろ」
門兵が命令をする。
俺は俯いたまま固まった。
すると門兵の視線が強まる。
こちらを敵意に近い感情を向けてきた。
「どうした。何か見せられない理由があるのか」
「…………」
俺は答えない。
ただその場に棒立ちし続けた。
門兵は大きく息を吐くと、手を差し出してきた。
「もういい。武器を持っているようだな。先にそれを見せろ」
ローブの膨らみで武器の所持に気付かれたようだ。
もはや誤魔化しようがない。
俺はゆっくりとローブの裾をまくり上げていく。
やがて姿を現したのは、一振りの刀だった。
ちらりと視線を上げると、門兵は目を見開いている。
「これは――」
その瞬間、俺は刀を引き抜いて一閃させた。
弧を描くように門兵の首を切り裂く。
噴き上がった返り血が、ローブを濡らしていった。
兵士は為す術もなく崩れ落ちる。
「すまないね。手が滑っちまった」
俺は軽い調子で謝りつつ、ローブを脱ぎ捨てた。
もはや隠す必要もない。
赤黒くなった軍服が露わになると、後ろに並んでいた順番待ちの者達の間でどよめきが起こる。
残っていた門兵が、殺気立って槍を突き出してきた。
「貴様……ッ」
俺は穂先を刀でずらし、半歩だけ踏み込んで刺突を放つ。
刀の切っ先が、門兵の眼球を捉えた。
そのまま外壁まで押し込んで串刺しにする。
刀を引き抜くと、兵士は静かに座り込んだ。
貫いた眼窩からどろりと血がこぼれる。
街の出入りを待っていた者達は、悲鳴を上げて逃げ惑う。
そんな中、街の内部にいた兵士が駆け付けてきた。
俺は彼らを斬り伏せながら侵入する。
秩序を失った通りを見て、俺は小さく笑った。
腰に手を当てて頷く。
「よしよし、無事に突破できたな」
『これのどこが無事なのですか……』
「無傷なんだから無事だろう。そういうことだ」
「まったく……」
ネアは呆れ果てているが、彼女はずっとこんな調子だった。
今更、気にすることでもないだろう。
とにかく侵入に成功したのだ。
あとは領主に会いに行くだけである。
簡単な仕事と言えよう。
俺は気を取り直して街中を進んでいくのであった。




