第34話 妖刀は襲撃する
頭上から矢の雨が降り注いでくる。
とは言え、回避するまでもない密度だった。
俺は抜刀からの連撃で矢を弾く。
慣れた防御手段だ。
掠り傷の一つも負うことがない。
ただし、それは刀の間合いに限った話だ。
当然、同行してきた盗賊を守ったりはしていない。
彼らは矢の餌食となり、全身に貫かれて絶命していた。
辛うじて生きている者もいるが、じきに死ぬだろう。
「あーあ、味方を殺しやがった」
俺は前方の家屋群を見やる。
矢を放った盗賊達が続々と姿を現してきた。
それぞれ武器を持って近付いてくる。
人数差で押し潰す魂胆だろう。
現在、ネアは休んでいた。
身体を返しても、まだ満足に動けないはずだ。
したがってここは俺が出向かなくてはならない。
随分と物騒な展開だが、ここで退くつもりはなかった。
わざわざ盗賊の拠点を訪れた意味が無くなってしまうからだ。
ここに来たのは、使い捨ての戦力を集めるためであった。
単独で行動する方が身軽だが、それなりの人数がいるとやれることも増える。
元が盗賊なら、たとえ戦死したとしても惜しくない。
地域の治安向上にも繋がる素晴らしい案だろう。
過去にも同じ手口で仲間を増やした経験があった。
今回もその流れで実践してみたが、やはりそう簡単には成功しないようだ。
「まあ、少しくらい減ってもいいか」
俺は地面を蹴って疾走し、正面から盗賊達に接近した。
彼らは驚愕と困惑に染まった表情を見せる。
この大人数を相手に、まさか突っ込んでくるとは思わなかったらしい。
俺は彼らが反応する前に距離を詰めて刀を往復した。
それだけで五人の首が飛んだ。
さらに踏み込むようにして刺突を放つ。
一人の心臓を穿ち、引き抜く動作で別の盗賊の胴体を薙いだ。
「どうしたッ! 怖がってないで反撃してこいよォ!」
俺は挑発しながら斬撃を繰り出していく。
勢いを失った盗賊達を血の海に沈めていった。
こういう時は、場の空気を支配した者が勝つ。
人数差も関係ない。
気圧された者から死んでいく。
盗賊達は、俺の殺気に怯み切っていた。
恐怖で思考が鈍り、正常な判断ができなくなっている。
そんな連中を斬り倒すのは簡単な作業だった。
やがて盗賊達が無様に逃亡を始める。
まともな反撃すら試みず、命惜しさに戦いを捨てたのだ。
「情けねぇなおい……」
盗賊達の姿に呆れていると、死角にて殺気が発生した。
それは茂みから飛び出して襲いかかってくる。
「――ふむ」
俺は刀を動かして防御する。
金属音を鳴らして衝突したのは、熱気を纏う戦鎚だった。
互いの武器が密着して押し合う。
相当な力が加えられており、普通の武器なら折れているところだった。
「てめぇ、誰に喧嘩を売ってんだ……?」
怒り狂った低い声が聞こえる。
俺は戦鎚の向こう側に意識を向けた。
凄まじい殺気を帯びて対峙するのは、青い肌に赤い瞳の男だった。




