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妖刀憑きの聖女 ~天下無双の剣士は復讐戦争に加担する~  作者: 結城 からく


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第29話 妖刀は聖女の才を見極める

 領主との戦いから八日が経過した。

 ネアは降伏した都市で優雅に暮らしている。

 肉体の回復に努めている最中で、様々な方法で癒していた。


 一時は立つことも困難だったものの、現在ではかなり改善している。

 外傷を負ったわけではないため、安静にしていれば割とすぐに治るのだ。


 かつての担い手の中には、ネアよりも貧弱な者もいた。

 当初はどうしたものかと苦心したが、最終的には屈強な殺戮者になってくれた。

 そこから俺は学んだ。


 大事なのは育成である、と。

 叱責したり愚痴を吐いたところで、担い手が強くなるわけではない。

 先を見据えて育てるのが一番であった。


 ネアは担い手として完璧ではないが、そんなものは今更な話だ。

 理想像へと導くのが俺の役目だろう。


 そんなネアは、豪邸の一室で食事をとっていた。

 机に並ぶ料理の数々を、丁寧な動きで口に運んでいる。

 貴族の会食でも通用しそうな気品だ。

 さすがは聖女である。


 ネアが淡々と食事を進める中、俺は気だるげにぼやく。


『あーあ、平和だ。たくさんの担い手の間を渡ってきたが、ここまで暇な期間は珍しいぜ』


「歴代の担い手は、よほど血気盛んだったのですね」


『そういう連中とは波長が合うからな。まあ、早死にする奴らばかりだったが』


 寿命で死んだ者など滅多にいない。

 だいたいが戦死していた。

 彼らは、壮絶な殺し合いの末に命を落とした。

 担い手を殺した人間が、新たな担い手となる場合も少なくなかった。


 俺が契約を交わすのは、基本的に戦闘狂ばかりだった。

 特に自らの死すら恐れない者が多い。

 こうして振り返ってみると、なかなかに偏った人選である。

 今回の担い手――すなわちネアは特例に近いだろう。


「なぜ私を選んだのですか。他の担い手の方々とは系統が違いますよね」


『確かにそうだな。あんたほど清らかな人間は初めてかもしれない。だが、俺だって気まぐれに契約したわけじゃないさ。ちゃんと理由がある』


 俺の言葉を受けて、ネアはナイフとフォークを置いた。

 彼女は神妙な様子で続きを促してくる。


「どのような理由でしょうか」


『あんたの執念だ。奥底に見える執念は、本物だった』


 ネアは穏やかな性格で、平和を望む人物である。

 一方で、常人を遥かに凌駕する強烈な意志を秘めていた。


 彼女は、正義と使命のためならば非情になれる。

 俺という人斬りを心の内に飼いながらも、それを許容している。

 この異常な状態を受け入れた時点で、並々ならぬ精神力を持っているのは明らかであった。


 担い手となった直後から、精神に変容を来たして死ぬ者だっている。

 ネアは不自然なまでに平常心を保っていた。


『自覚はないだろうが、あんたは狂っている。根っこの部分は、俺や歴代の担い手と同じなんだ』


「それは光栄極まりないですね」


 ネアは棒読みで返してくる。

 間違いなく本心ではなかった。

 隠す気のない皮肉である。


 俺はそれを面白がりながら話を続ける。


『本当に殺すが嫌で堪らないなら、英雄にはなれない。どれだけ崇高な言葉を重ねようと、才能に恵まれた人殺しさ』


「…………」


 ネアは沈黙する。

 俯いたまま、食べかけの料理を見つめている。


『気分を悪くしたかい?』


「いいえ。自らの甘さを再認識しただけです」


 ネアは小さな声で答えた。

 彼女は顔を上げた。

 その目には、固い決意が宿っている。


「――正義のためならば、この身をどこまでも穢しましょう。必要なら幾万もの屍だろうと築きます。それこそが、私の覚悟です」


 ネアの宣言は、まさに彼女の狂気を体現していた。

 本気で言っているのは確かだ。

 綺麗事のように述べているが、そんなことはない。

 ネアは何の躊躇いもなく実現するだろう。

 自らの正義に背く存在を、嬉々として抹殺するに違いない。


『ハハハ、最高の聖女様だな! あんたはやっぱり担い手だよ。腰に差した妖刀がぴったりだ』


「それはよかったです」


 こちらの本音を知ってか知らずか、ネアは澄まし顔で口元を拭く。

 現代の聖女は、やはり人斬りの才を持っているようだ。

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