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妖刀憑きの聖女 ~天下無双の剣士は復讐戦争に加担する~  作者: 結城 からく


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第27話 妖刀は衝動を堪える

 間もなく独立派の軍が合流してきた。

 兵士達は、領主の死体を見て驚愕する。

 見事に言葉を失っているようだ。


 当然の反応であった。

 長きに渡って無敗を誇ってきた都市の守護者が死んでいるのだから。

 まさかこの短時間で戦死するとは、思わなかったに違いない。

 豹変した聖女の実力を痛感したことだろう。


(懐疑的だった連中も、この一件で認識を改めるはずだ)


 聖女の強さは、さらに知れ渡る。

 国内において両陣営も無視できなくなった。

 ここから戦場は乱れていくだろう。

 想像するだけで小躍りしたくなった。


「おいおい、嘘だろ……オレは夢でも見ているのか?」


 馬車から降りてきた奴隷商ラモンは、呻くように言う。

 彼は額に手を当てて、悩ましげに息を吐いた。


 場に何とも言い難い空気が漂っていた。

 向けられる畏怖の視線に、ネアは微妙な表情になる。

 何かを言いかけて、口を閉ざした。

 俺は彼女の心境を察する。


(葛藤か……)


 領主殺しは、厳密には彼女の功績ではない。

 肉体を借りた俺の功績だ。

 そのため素直に喜べないのだろう。


 しかし、紛れもなく彼女自身の手で行われた殺害でもあった。

 ネアは奇妙な事実で板挟みにされている。

 頃合いを見計らって、俺は横から口出しをした。


『まだ戦いは終わっちゃいないぜ。たった一人の敵を始末しただけだ』


「分かって、います」


 ネアは小さく頷いた。

 彼女は痛みを堪えながら、兵士達に向けて声を飛ばす。


「この地の領主は、私が討ちました! 今から都市内に侵攻します。各々、覚悟するように!」


 返ってきたのは、割れんばかりの雄叫びだった。

 最難関の敵が死んだことにより、兵士達の士気は跳ね上がっていた。

 聖女に対する印象も、良い意味で一変したようだ。


 ここからが本番であった。

 数と数の勝負となる。

 軍同士がぶつかり合う血みどろの市街戦だ。


 ただし、俺はあえて参戦しないつもりである。

 ネアの戦いぶりを見せてもらおうと思う。

 今後、彼女を担い手とするなら、ここで確かめて損はないだろう。

 次に備えた改善点などを洗い出しておきたい。


 そういったことを考えていると、背後の門が薄く開いた。

 ネアは反射的に柄に手をかける。

 場の空気が一気に張り詰めて、門の向こうに意識が殺到する。


 静寂の中、現れたのは気弱そうな男だった。

 痩せ身で文官服を着込んでいる。

 明らかに非戦闘員だった。


 緊張した様子の男は、声を張り上げて俺達に告げる。


「我々は全面降伏して独立派に下る! 戦うつもりはないっ!」


「……どういうことでしょうか」


 いきなり宣言した男に対し、ネアは神妙な調子で尋ねる。

 男は領主の死体を一瞥した後、沈痛な口調で説明し始めた。


 なんでも彼は、この都市を代表する使者らしい。

 領主の次に権力を持っているそうだ。

 日頃は戦争以外の分野で領地運営に携わっているという。


 使者である男は、領主から事前に命令を受けていた。

 それは"領主が戦死した場合、速やかに降伏しろ"という内容であった。

 都市内での戦いを避けるために命じてたのだろう。

 妖刀使いの聖女と戦うにあたって、自らの死を予感していたらしい。

 戦闘狂かと思いきや、領主としての矜持も持っていたようだ。


「いいでしょう。降伏を受け入れます」


 ネアは躊躇いなく宣言した。

 兵士から異論が出ることはない。

 俺もわざわざ反対するほどではなかった。


 この都市は、独立派にとって有用なものだ。

 せっかく無傷の状態で手に入れられるのだから、ありがたく頂戴すべきだろう。

 少し拍子抜けではあるものの、こういった顛末は戦争では珍しくなかった。


 こうして亡き領主の一存により、壮絶な戦いを予想した都市戦は、ほぼ無血で終結したのであった。

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