第25話 妖刀は領主と一騎打ちとなる
領主が岩の投擲を行う。
しかも先ほどまでとは異なり、両手を使った連投だった。
どうやら本気になったらしい。
『……大丈夫なのですか?』
「心配すんなよ。すぐに決めてやる」
焦るネアを宥めつつ、俺は怯まずに突進した。
真正面から岩に刺突を繰り出す。
切っ先が僅かにめり込んだところで、刀を傾けた。
そこから身を沈ませるように受け流すと、岩は刃に沿って転がっていく。
飛び散る火花。
岩の軌道が、ほんの少しだけずれていた。
俺はその隙を縫うように走り抜ける。
続けて飛んできた岩には、倒れ込むように回転斬りを浴びせた。
斜めに断ち割って突破する。
領主は荷馬車に積んだ岩を次々と投げてきた。
対する俺は、ほとんど減速せずに切り抜ける。
迂回や防御を選べば、向こうの思う壺だ。
投擲の狙いは、恐ろしいほどに正確である。
減速なんてしたら、畳みかけるように岩を貰って殺されるだろう。
(最高じゃないか。これこそ血の滾る戦いだ……)
俺は胸中で歓喜する。
この時代にも強者が存在していた。
俺の衝動をぶつけるに値する相手である。
いつまでもこの時間を楽しみたいが、残念ながら限界が迫りつつあった。
ネアの肉体が、既に悲鳴を上げているのだ。
高速で飛来する岩を叩き斬っているのだから、相当な負担がかかっている。
本来の肉体なら欠片の疲労もなかったろう。
多少は鍛えたとは言え、聖女は貧弱なままだった。
さっさと勝負を決めなければ、身体がぶっ壊れて自滅する羽目になる。
それはあまりにもつまらないし、間抜けだ。
なんとかして領主を仕留めねばならない。
俺はさらに数度に渡って岩を切断して進む。
必死に距離を稼いだ甲斐もあり、領主の目前まで到達することができた。
そこで領主と目が合う。
「……ははっ」
強烈な殺気だった。
それを凌駕するほどの喜びを伝わってくる。
領主も、俺との殺し合いを満喫しているようだった。
自らの死すら恐れていない。
まさに強者の心構えであった。
俺は犬歯を剥き出しにして笑う。
握り潰さんばかりに柄を保持すると、最大速度で疾走した。
肉体の悲鳴すら無視して突き進んでいく。
「――――ッ!」
領主が咆哮を轟かせた。
掴んだ岩を持ち上げると、そのまま叩き付けてくる。
(――勝負は一瞬で決まる)
俺は刀を立てて頭上に向けた。
大質量の岩に刃を添えて、刹那の間に滑らせるように斬撃を放つ。
岩は刀の軌跡に従って切断された。
俺は踏み込みと同時に第二撃を繰り出す。
岩を掴んでいた領主の指が、籠手ごと宙を舞った。
「……ッ」
領主が目を見開いた。
彼はすぐさま指を失った手で殴りかかってくる。
激痛が走っているだろうに、それを感じさせない動きだった。
俺は地面を蹴り、殴打に合わせて刀を一閃させる。
領主の手首から先を斬り飛ばすと、その巨躯を掴み上がって上昇した。
横合いから飛んできたもう一方の拳を、回転しながらいなす。
「――終わりだ」
領主の肩に足を載せたところで、刀を逆手に持ち替えた。
狙いを定めると、狂喜に歪む片目に突き込む。
柄を捻りながら引き抜く。
返り血を浴びながら、俺はさらに刀を振るう。
渾身の一撃は鎧の隙間に割り込み、領主の首筋を切り裂いた。




