第24話 妖刀は強敵に歓喜する
「怪物め、やりやがったな」
鼻を鳴らした俺は馬車から飛び出した。
岩の落下地点を予測し、そこまで全力で疾走する。
頃合いを見て地面を蹴り、高々と跳躍した。
岩は眼前まで迫っていた。
直撃すれば、悲惨なことになるだろう。
無論、そのような間抜けな姿を晒すつもりはない。
俺は腰の刀を抜いて斬撃を放ち、岩を真っ二つにした。
返す刃でさらに分断し、身を捻るように三度目の斬撃を浴びせる。
高速の三連撃で刻まれた岩は、散らばりながら落下していった。
地上の兵士達は、魔術の障壁で防御する。
元の岩が直撃すれば防げなかったが、小さくなったことで力が分散されたのだ。
幸いにも怪我人はいないようだった。
着地した俺は刀を鞘に戻す。
『……凄まじい力ですね』
「ああ、天性のものだろう。努力で到達できる領域じゃない」
領主は相当な怪力らしい。
投石器を超える膂力で岩を投げてくるとは、下手な魔術より厄介だった。
正門前に立つ領主は、既に二つ目の岩を構えている。
このまま連投されると面倒だ。
一方的に攻撃されることになる。
こちらの魔術は、射程の関係で向こうまで届かない。
さっさと距離を詰めねばならなかった。
「全速前進だ! 俺についてこいッ!」
それだけ命じると、俺は軍を置いて駆け出した。
味方の速度に合わせていては、被害が出る恐れがある。
先んじて仕掛けるのがいいだろう。
直後、領主が岩を投擲した。
今度は山なりではない。
半ば地面を転がるようにして直進してくる。
接近する俺を狙う軌道だった。
その瞬間、俺は領主の魂胆を理解する。
どうやら俺の始末を優先したいらしい。
籠城戦に持ち込まずに彼だけが出てきたのは、余計な損害を抑えるためだろう。
俺を相手に防戦を仕掛けるのは危険だと判断したのである。
新王派も、豹変した聖女の噂を聞いているに違いない。
だからこそ、領主は専用の対策を考えたのだ。
「――上等だ」
笑みを深めた俺は加速し、大上段からの振り下ろしを繰り出した。
刃は迫る岩を縦断する。
速度を落とすことなく、俺は割れた岩の間をすり抜けていった。
(面白いじゃねぇか。受けて立ってやる)
分かりやすい戦いは好きだ。
互いに大将を殺すのが目的ならば、話は早い。
正面からぶつかり合うだけでいい。
俺は領主に注目する。
岩を振りかぶる領主は、兜の隙間から凶悪な笑みを覗かせていた。
どうやら向こうも楽しんでいるらしい。
「……ククッ」
俺は思わず舌なめずりをする。
全身が歓喜に震える。
これは久々にいい殺し合いができそうだ。




