第21話 妖刀は過去を掘り返される
それから数日後、俺達は遠征を始めた。
行き先は新王派の領地だ。
戦線の只中に位置しており、独立派の進撃を食い止めている場所であった。
領主は相当な強者との噂で、内戦の始まる以前から国防を担ってきた傑物らしい。
その話を聞いた俺は、この目で確かめることにしたのだ。
独立派の反撃を考えても、その領主に居座られると厄介である。
いつまで経っても侵攻が滞ってしまい、兵士達に任せても犠牲だけが膨らむばかりだ。
俺が一気に仕留めてしまった方がいいだろう。
「ああ、楽しみだ……」
行軍の馬車の中で、俺は呟く。
早く刀を抜きたくて堪らなかった。
衝動を抑え込むのが苦しい。
許されるのならば、馬車の周りにいる兵士達を叩き斬りたいくらいだった。
(これだけ多いのだから、十人や二十人は構わないだろう……)
今回、随伴する兵士は二千人だ。
この人数で向こうの領地を攻撃し、短期決戦で領主を抹殺する。
目的を達し次第、一気に撤退する手筈だった。
そこからは入れ替わるようにして味方の軍隊が襲来し、領地を奪い取る予定である。
つまり俺達の隊の役目は、最も厄介な敵を潰すことに尽きる。
「はぁ、斬りてぇな……」
『絶対にやめてください』
ネアが断固たる口調で警告してくる。
有無を言わせない雰囲気だった。
かなり怒っているらしい。
俺は軽く息を吐いた。
「冗談だよ。味方を殺すはずがないだろう」
『鉄の丘の血戦……憶えていますよね』
ネアは探りを入れるように尋ねてきた。
懐かしい言葉を聞いて、俺は目を細める。
同時にネアの意図を察した。
「知ってたのか」
『無論です』
ネアが言っているのは、俺が人間だった頃に参加した戦争である。
三つの軍が入り乱れる混戦で、総勢十万の兵士が殺し合った。
俺はその中で衝動を解放し、他の二陣営を殺戮した。
それでは飽き足らず、味方の陣営も斬っていった。
特に理由があったわけではない。
ただ殺戮衝動が抑えられなかったのだ。
壮絶な蹂躙劇の末、三つの軍は壊滅した。
逃げ延びた僅かな兵士と、俺だけが生き残る結果となった。
『仲間殺しのウォルド。その汚名は末代まで語り継がれていますよ』
「あいつらは仲間じゃない。金で雇われた者同士さ」
俺は弁明するも、ネアの意見が正しい。
当時、俺は傭兵だった。
戦争の後、雇い主からは罵詈雑言を浴びせられた。
もちろんそいつも斬り殺して黙らせた。
今になって振り返ると、全面的に俺が悪い。
依頼を無視して暴走したのだ。
罵られるのは当然だろう。
あの出来事は若気の至りである。
今ならもう少し上手く立ち回っていたはずだ。
ようするにネアは、俺が味方を殺す可能性を示唆しているらしい。
現在は気分も落ち着いている。
そこまでの暴挙は犯さない、と思いたい。




