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妖刀憑きの聖女 ~天下無双の剣士は復讐戦争に加担する~  作者: 結城 からく


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第19話 妖刀は兵士に力を学ばせる

 その日の午後、俺は兵士達の訓練場を訪れていた。

 目的は手合わせの実施である。


 前方には、無作為に選出した五人の兵士がいた。

 彼らは木製の剣と盾を装備し、緊張した面持ちで構えている。

 扇状に展開した彼らは、じりじりと移動すると俺を包囲した。


 離れた地点では、他の兵士達が観戦をしている。

 そのうちの大半が、直前まで俺との稽古を味わった連中だ。

 あちこちに怪我を負っている。

 彼らには動きを見て学ぶように言っていた。


「さあ、遠慮なくかかってこいよ」


 俺が告げるも、兵士達は逡巡する。

 聖女に攻撃を仕掛けることを躊躇しているのではない。

 彼らは、幾度となく手合わせを経験していた。

 こちらの戦闘能力を知っているため、迂闊な行動は痛い目を見ると理解しているのだ。

 だから踏み出せない。


 どうしたものかと思っていると、真正面にいた一人が雄叫びを上げて突進してきた。


「うおおおおおおおおッ!」


 盾を持たないその兵士は、代わりに大剣を掲げていた。

 優れた膂力で叩き潰す戦法らしい。

 悪くない気迫だった。

 最初に動き出す積極性も評価したい。


(だが、隙だらけだ)


 大上段からの振り下ろしに対し、俺は踏み込んで間合いをずらした。

 焦る兵士は大剣を振り下ろそうとするも、俺は既に目の前にいる。

 近すぎて斬撃を当てられない位置だった。


「く……っ!」


 兵士は片手を柄から放して、苦し紛れに肘打ちを繰り出してきた。

 悪くない判断である。

 俺は肘打ちを掴んで止めると、もう一方の手で拳を固めた。

 それを兵士の胴体に打ち込む。

 兵士は吹っ飛び、観戦中だった兵士に突っ込んだ。


 間もなく左右から二人の兵士が迫る。

 俺はそれぞれの軌道を見極めた。

 そして両手の指で二人の武器を挟んで止める。


「なっ!?」


「くそ……っ」


 兵士達は驚愕した。

 観戦する者達もどよめく。


 俺は身体を回転させて二人を引き寄せた。

 そのまま蹴り飛ばして退場させる。


「おっ」


 振り向く前に、背後から残る三人が仕掛けてきた。

 俺は地面を蹴って突進し、彼らとの間合いを潰すように接近する。


 三人の兵士は、同時に攻撃を放ってきた。

 俺の突進を読んでいたのだろう。

 常套手段なので当たり前である。


 俺は滑り込むようにして迎撃を躱し、一人を蹴り上げた。

 落とされた盾を空中で掴み取り、すぐそばの兵士の顔を殴打する。


 さらに突き飛ばしながら踏み込むと、最後の一人を投げ倒した。

 その首に足を載せる。

 脛椎を折るような真似はしない。

 ほんの少し圧迫するだけだ。


 首を踏まれる兵士は硬直する。

 やがて降参を示すように、全身の力を抜いた。


 それを確認した俺は足を下ろす。

 盾を捨てて、観戦する兵士に向かって告げた。


「今日の稽古はここまでだ。戦争に備えて、さらなる研鑽を積むように」


 俺はそう言って踵を返そうとする。

 その時、ネアが主導権を譲るように主張してきた。

 俺は素直に従う。

 髪と目の色が変化した。

 姿勢を正したネアは、兵士達を一瞥する。


「お疲れ様です。過度な無理をせず、しっかりと休息を取ってください。貴方達は、大切な存在です」


 疲労困憊の兵士達は、途端に背筋を伸ばすと、揃って威勢のいい返事をした。

 ネアは満足したように微笑んで屋敷へと向かう。


(天然、なのか? とにかく、恐ろしい女だ)


 英雄と呼ばれるのも納得である。

 俺は、聖女の振る舞いに感心するしかなかった。

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[一言] からくさんが描く主人公全員好きです!
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