第17話 妖刀は戦果を振り返る
夜明けが訪れた。
随伴の兵士達は、砦内を忙しそうに移動している。
彼らは戦闘後の処理に追われていた。
辺りは血生臭く、あちこちに死体が放置されている。
いずれも新王派の兵士達だ。
部下の兵士達は、死体を順に運搬して一カ所に集めている最中であった。
広大な砦での作業は大変だろうが頑張ってほしい。
俺は腕組みをしてその様子を眺める。
(まあ、上々の結果だな)
砦内での戦いは、爽快なものだった。
単独で乗り込んだ俺は、新王派の兵士達を蹂躙した。
次々と斬り殺して死体に変えていった。
そのうち随伴の兵達も参戦し、遠距離から魔術を連打してくれた。
彼らの活躍も意外と馬鹿にできない。
砦内の混乱が助長されて、相手の判断を迷わせることに成功していたのだ。
おかげで迅速な殺戮ができた。
新王派の軍の中に、特筆するほどの戦力はいなかった。
刀を振るっていくだけで簡単に死ぬ者ばかりである。
そういった面では物足りなさもあったが、何と言っても数が膨大だ。
この点に関しては良かった。
数千の人間を殺し放題で、横取りされる心配もない。
ついつい張り切ってしまった。
結果、俺は軍の大半を斬殺した。
屋内を舐めるようにして駆け巡り、屍の山を生み出した。
僅かながらも捕虜がいるのは、一部の集団が早々と降伏したからである。
俺は問答無用で殺そうとしたが、寸前でネアに止められた。
彼女曰く、救える命はなるべく救いたいのだという。
それを敵にも言える甘さはどうかと思うも、聖女らしくはあった。
確かに戦う意志のない人間を殺してもつまらない。
持ち帰って何らかの役に立てる方が有益だろうとのことで、今回は見逃すことにした。
また、何割かの兵士は砦から逃亡していた。
どさくさに紛れて、新王派の領地へと撤退している。
少数の戦力を相手に情けないとは思うが、彼らの気持ちも分かる。
まさか一晩と経たずに壊滅させられるとは思いもしなかったのだろう。
此度の出来事はすぐに知れ渡る。
数十人の兵を連れた聖女が、百倍以上の戦力を圧倒したのだ。
後の世に語り継がれるほどの英雄譚となるに違いない。
どちらの陣営にも大きな衝撃を与えるはずだ。
きっと今後の反撃に役立つ。
聖女は、血と殺戮を築き上げる人斬りに生まれ変わった。
その名は人々に畏怖される。
決して忘れられることのない歴史を刻んでいくのだ。
『さぞ悪名が轟くのでしょうね』
ネアが諦めた口調で述べる。
どうやら思考を読まれたらしい。
過去の担い手も似たようなことをされたが、この短時間でものにした人間は稀だった。
俺は彼女に尋ねる。
「ご不満かい?」
『いえ。正義を為すことが最優先ですから。自分の評価など気にしません』
「そいつは良かった」
ネアは一貫した思考を持っている。
自らの名声はどうでもよく、独立派の未来だけを見据えていた。
「これからさらに殺すわけだからな。もっと有名人になっていこうじゃないか」
『……楽しそうですね』
「楽しいさ。そうじゃないと、妖刀になってまで生きようとはしない」
俺は意気揚々と呟く。
未練と執念を以て、こうして生き延びてきた。
人間として死ぬことを拒否するほどだ。
この衝動は、誰にも負けない自信があった。
そういった点では、正義に燃えるネアと似ているのかもしれない。
その後、俺達は少数の捕虜を連れて帰還した。
奇跡の勝利を受けて、都市は喝采に包まれた。
人々は喜び、そして聖女を讃える。
こうして独立派は、形勢逆転の一歩を踏み出したのであった。




