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妖刀憑きの聖女 ~天下無双の剣士は復讐戦争に加担する~  作者: 結城 からく


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第14話 妖刀は夜の森を歩く

 深夜、眠りから覚めた俺は、伸びをして立ち上がる。

 そばに置いていた水を飲んで周囲を見回した。


 辺りでは兵士達が就寝している。

 一部の者は付近を巡回していた。

 交代で見張っているのだ。

 いつ新王派の軍がやってくるか分からない。


 俺は腰に差した刀の位置を直すと、眠る兵士の間を闊歩する。

 そのまま木々の合間を踏み進んでいく。

 見張りの兵士が俺を呼び止めようとしたので、目配せをしてそれを止めた。


「少し散歩するだけさ。気にしないでくれ」


「は、はぁ……」


 兵士は戸惑い気味の返事をした。

 これから敵軍と戦う状況で、呑気に散歩すると言われて困っているようだ。

 俺はそんな兵士を置いて森の中を進んでいく。


 聖女が夜の森を出歩くと主張するのだから、心配するのも納得できる。

 しかし、自衛程度は可能であった。

 このまま一人で砦に向かってもいいくらいなのだ。


 もちろんそんなことはしない。

 兵士達と共に襲撃するつもりである。

 勝手な真似をして不信感を買っても面倒だ。


 彼らには、聖女の戦いぶりを見せつけようと思う。

 目の前で敵軍を蹂躙する様を目撃すれば、余計な心配をかけずに済むだろう。


 そういったことを考えていると、ネアが俺に疑問を投げてきた。


『本当にただの散歩なのですか』


「まあな。気晴らしってやつだ」


『度胸がありますね。さすがは人斬りです』


 ネアはどこか皮肉を込めた口調で述べる。

 彼女は、俺の単独行動を快く思っていないらしい。

 俺は肩をすくめて苦笑した。


「褒め言葉として受け取っておこう」


 それにしても、ネアはこうして身体を奪われている状態に慣れたようだ。

 たまに主導権を譲るように言うことはあるものの、俺の行動に表立って反対することはない。

 基本的に生真面目で強情な性格だ。

 時と場合によって柔軟性を見せられる。


 担い手の中には、性格的な相性が最悪だった時もあった。

 ネアは歴代でも波長が合う部類と言えた。


「おっ」


 遠い過去の面々を振り返っていると、死角から矢が飛んできた。

 後頭部を狙うそれを掴んで止める。


 俺は矢の先端に注目する。

 鏃には何かが塗られていた。

 微かな刺激臭がする。

 どうやら毒らしい。


 俺は茂みの一点を見つめる。

 何もないように思えるが、そこに潜む者と目が合った。

 俺は矢を捨てて話しかける。


「はは、いい腕だ。狙いは完璧だった」


『大丈夫ですか?』


「問題ない。この程度じゃあ俺は――」


 話している途中、さらに複数の方向から矢が飛来する。

 俺は引き抜いた刀で残らず弾いた。

 攻撃が止まったのを確かめてから、そっと鞘に戻す。

 辺りに散らばる矢を一瞥して、俺は鼻を鳴らした。


「元気な野郎共だ。綺麗な夜に無粋な真似をしやがる」


 柄を叩いて笑っていると、木々の陰や草むらから人間が現れた。

 全員が揃って黒い服に身を包んでいる。

 弓と剣を所持しており、数は十三人だった。

 彼らは自然な動きで俺を包囲する。


『新王派の暗殺者ですか』


「密偵だろうな。砦からこの辺りまでを監視していたんだろうさ。そこに俺達が踏み込んだ形だ」


『……まさか、わざと敵を誘い出したのですか?』


「さあ、どうだろうな」


 俺は舌を出して微笑する。

 実際は誰であろうと関係ない。

 やることは変わらないのだ。

 滾る欲望を抑えながら、俺は静かに妖刀を抜いた。

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