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妖刀憑きの聖女 ~天下無双の剣士は復讐戦争に加担する~  作者: 結城 からく


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第12話 妖刀は森の砦を目指す

 翌日、妖刀を携えた俺は都市の正門前にいた。

 そばに控えるのは、数十人の魔術師だ。

 彼らは俺に随伴する兵士である。

 志願した者のうち、此度の作戦に適した人間を選んだのだ。


 作戦とはもちろん新王派の軍への攻撃である。

 この都市に侵攻した軍は、南部の森に潜伏しているらしい。

 エドガーが密偵を使って特定したのだ。


 彼らは調子付いて領内の主要都市まで侵攻した結果、思わぬ被害を受けて撤退を余儀なくされた。

 そして戦力不足のため、新王派の領に戻れなくなっている。

 現在は森に魔術による即席の砦を建設して、再攻撃の機会を待っているそうだ。

 それを待たず、こちらから仕掛けることに決めたのであった。


 新王派の軍は近隣の村を襲撃し、略奪した物資を糧にして暮らしているらしい。

 或いは森に生息する魔物を狩って食べているという。

 軍というより、ほとんど盗賊に成り下がった状態だった。

 内戦中とは言え、自国の民を襲って飢えを凌いでいるのだから、非道な連中である。


 まあ、彼らを批難するつもりはない。

 俺自身、正義の味方ではない。

 ただの人斬りだ。

 彼らを殺すのも、俺の蘇りに利用するためである。

 ネアのように崇高な志があるわけでもなかった。


 俺達の見送りには、エドガーがやってきていた。

 彼は詰め寄るようにして俺に忠告してくる。


「くれぐれもネア様のお身体を傷付けないよう、ご注意ください」


「分かっているさ」


 俺は少しうんざりしながら応じる。

 聞き飽きた文言だった。

 昨日の夜から、ずっとこの調子で何度も聞かされている。

 それだけネアの身を心配しているのだろう。

 過保護気味だが、その気持ちはよく伝わってきた。


 それにしてもエドガーは、ネアが幽閉されている間はどのような心境で過ごしていたのか。

 少し戦いに出向くだけでこれなら、気が狂ってもおかしくなかったと思う。

 今は表層に出ていないネアも、なんだか気疲れしているようだった。


 そんなエドガーだが、彼には都市の防衛を任せるつもりだった。

 エドガーはただの執事ではない。

 相当な実力者である。

 万が一、何かあっても任せられるだろう。


 不足気味とは言え、都市内にはまだ兵士達もいる。

 現状、ここを攻めて来るような軍はいない。

 よほどおかしな事態にでもならない限り、何も問題はないはずだ。


 同じく見送りの奴隷商ことラモンは、折を見て話しかけてくる。


「ウォルドの旦那……」


「何だ?」


「相手は正規の軍隊だぜ。この人数で本気で勝つつもりかよ」


 ラモンの主張は真っ当だった。

 百人にも満たない戦力で、数千の軍隊を襲撃しに行くのだ。

 正気の沙汰ではない。


 当然、エドガーには猛反対されたが、俺は意見を無理やり通した。

 妥協点として、魔術師を連れていくことにしたが、実際はそこまで必要ではない。

 これだけの戦力差で殺し合うのは、俺にとって慣れたものだった。

 数の上で勝っていた戦場など珍しかったほどだ。

 少人数の陣営についた方が、たくさん殺せるからである。


 幽閉生活で衰弱したネアの身体も、屋敷での暮らしで健康になった。

 多少ながらも鍛えておいたので、これで向こうの戦力を崩せるだけの力は発揮できる。


 徒歩だと往復で三日くらいはかかる。

 独立派の砦まで、およそ一日半で行ける計算だった。

 兵士達の準備を待っていると、ネアが心の中で呟く。


『……いよいよですね』


「緊張しているのかい?」


『いえ。新たな運命を築けることに、喜びを感じているだけです』


「そいつはよかった」


 高揚しているのはネアだけではない。

 俺も心が疼いていた。

 殺戮の予感に舌なめずりする。


 ――今回も、楽しいことになりそうだ。

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