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妖刀憑きの聖女 ~天下無双の剣士は復讐戦争に加担する~  作者: 結城 からく


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第11話 妖刀は策を巡らせる

 その後、俺達は屋敷で優雅な暮らしを送った。

 新王派の攻撃を受けたとは言え、街の物資には余裕があった。

 美味い食事ができるし、稀少な酒も飲める。

 王都での幽閉生活で弱ったネアの身体は、だんだんと調子を取り戻している。


 人々は聖女の帰りを歓迎した。

 二日前には、ちょっとした宴も開かれた。

 屋敷の備蓄が都市の人々に振る舞われて、全体の雰囲気は明るくなった。

 やはり聖女の存在は大きかった。


 しかし、楽観的に構えていられないのも事実だ。

 この都市で生活を始めてから一週間。

 領内の問題は、浮き彫りとなっていた。


 まず民が少なからず疲弊している。

 聖女の帰還を喜んでいるものの、困窮した生活はいつまでも誤魔化せない。

 都市の復旧作業も停滞していた。


 そして兵士の数も少ない。

 先の戦闘で犠牲になり、さらには領内各地に派遣されているせいだ。

 主要都市の戦力を回さなければいけないほど、領内は人材不足に悩まされている。

 近いうちに食料不足も訪れるだろう。

 供給元が無いため、掻き集めることも難しい。


 領内は緩やかな速度で滅びに向かっていた。

 このままだと、持ち直す前に崩壊する。

 独立どころではなかった。

 他でもない俺達が、次の一手を打たねばならない。


「はぁ、美味い……」


 そういった悩みを抱えつつ、俺は屋敷の一室で火酒を飲んでいた。

 焼くような香りが喉と内臓を満たす。

 心地よい酩酊感を味わいつつ、俺はグラスを傾けた。

 ソファで寝転がりながら満喫していると、ネアから苦情が飛んでくる。


『私の身体で飲みすぎないでください』


「固いこと言うなよ。酒は心の薬なのさ。そうだろう、ラモン?」


 俺は向かい側に座る奴隷商――ラモンに意見を求める。

 ラモンは、ちびりと火酒を飲んで頷いた。


「あ、ああ……そうだな」


 グラスを空にしたラモンは、何かを言いかけて中断する。

 先ほどからそれを何度か繰り返していた。

 なんとも挙動不審な姿である。

 やがて意を決したように、ラモンは俺に尋ねた。


「ウォルドの旦那、こんな悠長に怠けていていいのか?」


「おいおい、お前も真面目なことを言うのかよ」


「だって、ずっと酒を飲んでばかりじゃねぇか。早く新王派を潰さないと、こっちがやられるだろう」


 ラモンは苦言を呈した。

 グラスを置いた俺は、しゃっくりを洩らす。

 鼻を啜りつつ、苦笑した。


「奴隷商とは思えないくらいの正論だな」


「状況を客観視しているだけだ」


 ラモンは厳しい眼差しで返してくる。

 俺と手を組むと言った以上、彼も独立派の一員となった。

 他人事ではなくなった分、真剣に考えているのだ。


 粗暴な外見とは裏腹に律儀である。

 俺よりは未来を見据えて考えているだろう。


 とは言え、俺も馬鹿ではない。

 ラモンを宥めつつ、グラスに火酒を追加した。


「まあ、落ち着けよ。俺だって無策で怠けているわけじゃない。そろそろ事態が動く頃だ」


「それは一体どういう――」


 ラモンの言葉を遮るように、部屋の扉が叩かれた。

 扉の向こうに気配がある。

 常人では気付けないほど存在感が薄められていた。


 俺は座り直しながらグラスを手に取る。


「そら来た」


 間もなく扉が開いた。

 入室したのはエドガーだ。

 彼は無音で俺のそばまで来ると、片膝をついて発言する。


「ウォルド様。ご報告に参りました」


「待っていたよ。見つかったかい?」


「はい。間違いありません」


「何が見つかったんだ?」


 一人だけ状況が読めないラモンは、怪訝そうに言う。

 グラスを呷った俺は、熱い息を吐きながら答えた。


「この都市を襲った軍さ。そいつらをこれから叩き潰す」

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