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女神の策略と新たな生命(いのち)



────────


 如月 玲央を異世界へと転生させた後、彼女は足元に映る下界の様子を眺めつつ溜め息を吐く。


「はぁ、この仕事辞めたい・・・・・・」


 女神セレスティンは悩んでいた。


「暫くは転生者も天界に昇ってこないし、ようやく私も少しは休める」


 パチンと、小さく指を鳴らす。すると目の前に赤色のクッションとソファーが現れ、セレスティンはクッションを胸に抱きながら勢いよく倒れ込む。


「・・・・・・」


 無言の状態で(しばら)く静止。余程疲れが溜まっていたのか、セレスティンは目を閉じて瞑想する。


 時間の概念が存在しない天界ではあるが、ある程度の時が進んだ(のち)にポツリと独り言を呟いていた。


「──なんでこうも思い通りにいかないのよぉ。いるでしょ、数万人に一人くらい【惑星破壊】のスキルを欲しがる狂人(きょうじん)がさぁ」


 未だに【惑星破壊】のスキルに(こだわ)っていたらしい。未練たらたらにセレスティンは愚痴を吐き出す。


「私は“管理者”だから自らの星を破壊出来ないし、だから代わりに転生者にやらせようと思ったのに!誰か私に長期休暇を頂戴よ!」


 乱暴にクッションを振り回して暴れてから、再び顔をクッションに埋めて倒れる。自分勝手で情緒不安定な女神など笑うに笑えない。


「大体さぁ、私が全部の役目をこなす必要って無くない?人間達でさえ上の役職が下の人間に仕事を割り振ってるのに、非効率ったらないわよ!」


 その疑問は当然だが、現実的に人手不足な為にどうしようもない。


「せめて私にも部下がいたら解決なのに・・・・・・。だけど、無から生命体を創るのは禁止されてるし」


 いなければ“(つく)る”という安直な考えに行き着くも、創造神から禁止されているのを思い出して断念。ますます八方塞がりに陥ってしまいセレスティンは頭を抱えてしまう。


が、ふと思い付いてしまった。


「待てよ・・・・・・“創る”ことは出来なくても、私は生命体に“与える”ことが可能」


 つい先程も“与えた”ばかりである。数百数千の“転生者”へと。


「私はただ“役割”を与えればいい。そうね、例えば【使徒】とか良いかも」


 ピーンと閃いてしまった。世にも恐ろしい女神セレスティンによる“強制支配”の(いざな)い。


「あはっ、あはははは!そうよ!そうだったわ!なんで今までその発想に至らなかったのかしら!」


 水を得た魚のように、彼女は立ち上がって喜びを(あらわ)にする。天才的な自分を誉めてあげたいと喜びを体で大きく表現していた。


「善は急げ!早速──“管理者権限解放”!」


 空中にプレートが現れると同時に、彼女は一人の“ステータス”を呼び出す。その内の【称号】に“一文”を添える──ただそれだけで女神セレスティンの目的は果たされる。


【称号】


【女神セレスティンの使徒】


【神殺しの剣の生成及びそれに関連する製作者・製造場・所有者の破壊と消去。転生者の保護と拘束】


【解放条件】【転生者との対峙(たいじ)又は関連する現象においての発動】


【使徒副次効果】


【固有スキル】【鑑定】【転移】【空間固定】の追加。


【使徒ユニークスキル】【スキル封印】


【転生者の所有するスキルを一定時間使用不可にする】


【解放条件】

 

【転生者との戦闘時に強制発動】


「──そしてこれらを【隠蔽】スキルで所有者に認識出来なくすれば完璧!」


【隠蔽】


【所有者のステータス画面の一部を認識出来なくする】


「ふ、ふふふふふ。これで私は楽が出来る!この調子で【使徒】を増やせば仕事を分散出来て私の時間も余裕が生まれて、その間に天界を留守にして“神コン”も可能ってわけよ!」


 ひたすらに彼女は満足したように笑い、その代償が“転生者”へと課せられていく。如月 玲央の願いとは真逆の展開へと運命は書き換えられていた。





──────────





『────シルヴィア!産まれたぞ!元気な双子だ!』


『────っ!』


 目が覚めた瞬間に響いたのは誰かの声。


 耳からではなく、頭の中に直接届いたかのような感覚。(まぶた)は重くてまだ開くことは無理だったが、鼻だけはなんとか動かすことが出来た。


「・・・・・・」


 スンスンと無意識に匂いを辿る。そのあまりにも鋭敏な感覚に戸惑いつつ、必死に状況を理解しようとしていた。


『ガルド、見て!“レオ”が私達のことを探してる!』


『ああ!“レオナ”も一緒だ!ほら!こっちだ!俺達はここにいるぞ!』


 草木に土、僅かばかりの血の匂いの中にとても心地好い匂いが混じっていた。僕はそれを必死に辿り、産まれたばかりの身体を動かして近づこうとする。


 すると、不意に。


『あぁ、可愛い。ほら、お母さんはここよ!』


 ペロリと額を舌で舐められたような感覚。後になってそれが濡れていた自分の顔を舐め取って綺麗にしてくれたのだと気づく。


「────わんっ」


 だからこそお礼の意味を込めて僕は懸命に喉から声を出して応えていた。


『ガルド!聞いた!?ねぇ、聞いたわよね!“レオ”が鳴いたわ!』


『うむ!俺にも聞こえた!それに“レオナ”もワンワンと元気に鳴いてる!お姉ちゃんの方が大きく鳴いていたな!』


 なぬっ、双子の姉に負けただと?これはイカン、僕の方が元気だとアピールせねば!


「わんっ、わぅ!」


『はぅん、可愛い!私の息子最高に可愛い!』


 えへへ、そんなに褒めないでよ。照れる。


『おいおい、俺には顔を向けてくれないのか?父さんにも元気な声を聴かせてくれよぉぉ』


 シルヴィア母さんの方がいい匂いだからヤダ。オスの匂いをくんかくんかするなんて遠慮したいし、さっきから頑張って目を開けようと頑張ってるから静かに見ていてほしい。


「わぅぅぅ、う」


とにかく気合いだ。雛鳥のような『刷り込み』などは信じてはいないけど、やっぱり最初に見るのは“母親”でありたいと思っている。


『『・・・・・・ドキドキ』』


 母と父も固唾(かたず)を呑む。僕がぷるぷると震えながら瞼を上げようとしている様子を察してくれたのか、静かに成り行きを見守っていた。


 そして、ついに待望の“開眼”が訪れる。


「────わうっ!」


 カッ、と。僕は満を持して目を見開いていた。


 だが、


「────はむっ!」


「────わうぅぅ!?」


 開口一番の光景は期待通りの場面ではなく、寧ろ目の前に現れたのは僕と同じ“小さな顔”。


 驚く隙もなく僕の鼻先を甘噛(あまが)みする双子の姉“レオナ”であった。


『『アハハハハハハハハッ!』』


 微笑ましい小さな双子のじゃれあいを眺めていたシルヴィアとガルドが大爆笑するのを横目に見ながら、僕は改めて両親の顔を眺めていた。


『はぁ~、可愛過ぎるッ!こんなに愛らしい子供が私から産まれたなんて信じられないわ』


『ああ、全くだ!俺のような無骨な男に似なくてホントに良かったよ!やっぱ美人な嫁に似てこそだよな!』


 白銀の体毛に覆われ、どこか神聖な雰囲気を放つ二匹の【幻獣種】。僕が希望した通りの転生先の種族は────。


『これで我ら【幻獣種フェンリル】の未来は安泰だな!よくぞ無事に産まれてきてくれた!』


『そうね、私もようやく肩の荷が下りた。これからの未来────きっと“レオ”と“レオナ”が我ら種族を導いてくれるでしょう』


 伝説の幻獣“フェンリル”としての第二の人生が今、二匹の祝福を受けて始まろうとしていた。




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