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種族選択②



────────────


 女神様の愚痴に適当な相槌(あいづち)を打ちつつも、数多(あまた)の選択肢から慎重に種族を吟味していた。


「──そもそも創造神(パパ)が横暴なのよ!こんな終わりの無い仕事を私に押し付けて自分はのんびり隠居生活してるし!(ことわり)を司る絶対神が隠居とか冗談でも笑えないんですけど!?」


 やっぱり異世界での転生といったら“勇者”とかが定番かもしれないけど、折角の転生を殺伐とした戦いだけで終わりたくない。寧ろその逆で無気力で自堕落な生活を送りたいと思う。


「私だって上のお姉さま達みたいに素敵な男神様と一緒に世界を管理して、二人で充実した神様ライフを過ごしたいのに!」


 となると選択肢の“人間”と“魔族”は候補から除外。この二つの種族は波瀾万丈(はらんばんじょう)の代名詞とも言える絶対に選択してはならない転生先だ。どうせ領地争いとかそんな理由で絶対に戦争してる。これは世界の常識。和平を結ぶなど天変地異が起こっても有り得ない。


「世界のバランスを保つ為に異世界から転生させた魂に肉体と“チート”を与えて放逐することに何の意味があるのよ!しかも愚かにも下界の種族は揃って“神殺しの剣”を作って私を滅ぼそうとするし、恩知らずにも程がある!」


 やはりここは“獣族”の一択かな?


 よく目にする設定だと“亜人”やら“獣人”は迫害の対象になってるけど、完全な獣はそれほど不憫な対象にはなってはない。


「“神殺しの剣”が完成する前にいちいち私が“天罰”を振り下ろして消滅させてるのに、数百年経ったらすぐに恐怖を忘れて同じことを繰り返すし最悪ったらないわよ!」


 ならば、ここは“獣族”の項目の中にある“幻獣種”を選ぶのが得策かもしれない。神聖な生き物に刃を向ける愚か者は流石にいないだろう。


「もうイヤだイヤだイヤだぁぁぁあああ!働きたくない働きたくない!」


 仰向けに転がりながら駄々をこねる女神様などいない。僕の目の前にいる女性は清廉(せいれん)な女神様なのだから。


 だからこそ僕は何事も無かったかのように振る舞わなければならないのである。


────女神セレスティン様、転生先の種族を選んだのでご確認下さい。


「────あら、早かったわね」


 僕の思考を読み取った直後、ピタリと動きを止めて(たたず)まいを正す女神セレスティン。


 あまりにも素早い切り替えの早さに驚く。まるで先程の痴態など夢か幻にさえ思えてきた。


「種族は“幻獣種”と。やっぱり最初の願いと変わらずに人間以外を選択したのね。一応、そう決めた理由を聞いてもいいかしら?」


 戦争したくないからです。


「た、単純明快ね。私が送ってきた人間の男の子はほぼ“勇者一択!最強のチート能力を授けて下さい!”だったのに」


 二度目の人生を送れるのにわざわざ死地に飛び込む神経が僕には理解出来ません。ビバ“平和・平穏”ですよ。


「まあ、選択は自由だけど、中々に消極的なのね君は」


 少数派に敢えて飛び込むのが僕ですので。


「じゃあ次は“固有スキル”を選んでね。普通の生物には一つが原則だけど、転生者は二つ所有することが可能だから」


 平穏な人生から逸脱しそうなので遠慮したいのですが?


「ダメ」


 いや、あの。幻獣種と言っても獣ですし、生きる上で“固有スキル”なんて仰々しいものは必要ないかと。


「早く選びなさい。あんまり我が儘を言うと前世の貴方が所持していた“紳士フォルダ”の中身を家族に晒すわよ?」


 選びます!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!お願いですからそれだけは勘弁してください!


 思春期男子の秘密を盾にされたら従うしかないじゃないか!ホントにこの方は女神様なのかと疑いたくなる。


「よろしい。ならこの“固有スキル”一覧から二つ選んで私に報告してね」


 “種族一覧”の時と同じく眼前にプレートが現れるも、またしてもその種類の多さに目眩がする。しかしながら、この選択も今後の快適異世界生活を過ごす上で絶対に必要なので気持ちを入れ換えて臨みたい。


 上から順番にスクロールしていき、豊富なスキルを眺めて若干心を弾ませつつも慎重に選択していく。丁寧な詳細に感心する最中(さなか)、項目の最後まで目を通した瞬間だった、


【固有スキル】


【惑星破壊】


【大気中の全魔素を消費して放つ絶対無比のスキル。使用者の生命と引き換えに発動可能】


 壊れスキルにも程がある。


「・・・・・・選んでもいいのよ?」


 選びません。


「なんでよ!?平穏を願う君にピッタリのスキルじゃない!例えば平和を乱す敵が現れた時に『俺には全てを破壊する【惑星破壊】スキルを持っているぞ!使われたくなかったら大人しくしろ!』と印籠代わりに使えるし!」


 いやいや、スキル説明に【使用者の生命と引き換えに】って記されてるじゃないですか。そんな証明の出来ない脅しなんか通用する訳ありません。


「お願い!所有してるだけでいいから!ちょっと、ちょっと先っぽだけ使ってくれればいいからぁぁぁあ!」


 先っぽでも使ったら死にますから!なんでそんな執拗に勧めるんですか!?自分の管理する世界が破壊されたら困るのは女神様自身でしょうに。


「世界の再構築には時間が掛かるの!大体地球程度の大きさなら千年くらいで直せるし、その間に私はのんびりできるのよ!」


 こらこら本音を隠しなさいって。休みを取るために転生者を使って惑星を破壊させるとか正気じゃない。冗談で入れたスキルじゃないと分かって正直ドン引きした。


「ねぇ~、ちょっと惑星破壊してみたくない?外から世界を眺めて『ふぉっふぉっふぉっ、綺麗な花火ですねぇ』とか言いたくない?」


【状態異常無効】と【治癒】でお願いします。


「聞いてよぉ!」


 聞きません。異世界で充実した生活を過ごす為にはやはり一番は“健康”であること。どんな異常でも耐えれる“精神”と“肉体”さえあれば無敵だ。


 【治癒】は正直おまけだが、痛いのは苦手だから傷を治すというのは有難い。


「あー、はいはい。異世界への転生手順はこれで終了でーす。君の来世に幸あらんことをーだ」


 うつ伏せの状態でやる気無く告げる女神様。不貞腐(ふてくさ)れないで下さいと思いつつ、余計な口出しはしないようにする。だって絶対に面倒くさいことになるから。


 ともあれ、ようやく僕──如月 玲央の第二の人生が始まろうとしていた。


 頭上から降り注ぐ光を浴び、期待と不安を抱きつつも意識がゆっくりと閉じていった。






 


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