プロローグ
「────っ!?」
人々の悲鳴と雑音が飛び交い、騒がしい車体のブレーキ音と暗闇を照らすランプが少年に降り注がれる。
それは不運としか思えない程のタイミングであり、たまたま携帯端末を片手に下を向いた直後であった。
「────あ」
僕──如月 玲央の命は今まさに危機的状況に陥っていた。
何故ならば、目の前に迫るのは大型のトラック。急停止によるブレーキの音が鼓膜を震わせ、玲央の冷静な判断力を失わせる。
ほんの少しの時間だった。
下を向いて歩いていた為に、横断歩道手前の段差に気が付かなかったのは。
ガッ、と。
前のめりに倒れ込み、両手と膝を固いアスファルトに打ち付けてしまう。右手に持っていた携帯端末が宙に投げ出され、通り過ぎた車のタイヤの下敷きになって液晶画面が音を立てて割れていく。
誰かの悲鳴が周りに響いたと同時に、玲央の体に凄まじい衝撃が襲う。ひどく揺れる視界の中、玲央の身体は空中に投げ出されていた。
「・・・・・・・・・っ」
ぐしゃっ、と。鈍い音。
口に出すのもおぞましい程の悲惨な状況を彷彿とさせる。四肢はあらぬ方向へと曲がり、折れた肋骨が肺に刺さってまともに呼吸すら出来なかった。
ごぽっ、ごぽっ。
口から溢れ出る血の塊を吐き出しながら、玲央は朧気な意識の中で明確な“死”を覚悟する。あまりにも呆気ない人生の終わりに、ただ悲観するしかない。
真っ赤に染まる視界。段々と閉じる瞼の中、呑気にも玲央は有り得ない“願い”をしていた。
────もしも“異世界転生”があるのなら、今度は人間以外になりたい。
特に理由は無く、咄嗟に思った願い事。四足歩行の獣や羽を持つ鳥のように、ただ自由に空と大地を駆け巡りたいと願った。
まさかと思いつつも、何故か玲央は薄れる意識の中でそんな“想像”をする。
そして────。
「──じゃあ、その期待を裏切って転生しちゃう?」
運命の悪戯が玲央に訪れていた。