異世界化学工業・耐火煉瓦
中世ヨーロッパ風の異世界で役に立ちそうな、高温を使う産業には何があるだろうか。冶金にガラス。ちょっと温度が下がるけど石灰窯や窯業や炭焼き。日常風景ではピザ焼き窯も耐火煉瓦を使うようだ。
耐火煉瓦は種類も多くて非常に難しい。ちょっとネットで調べた程度では、体系的な説明は見つからない。どれもこれも詳細は企業秘密みたいだしねぇ。仕方が無いのかな。困った。
見つからない話をいつまでも調べ続けたって時間の無駄だ。ここらで纏めたい。小説内で詳細に解説する訳でもないし。あ、詳細に解説したい?すまん、私は諦めた。
定義としては、1500℃でも壊れないのが耐火煉瓦らしいな。例外があって、耐火断熱煉瓦と耐火モルタルは800℃以上。いずれにしろ中二病全開で考えると物足りない温度なんだけどね、現実には結構大変な高温なんだ。高温の実現方法は以前検討したから、そっちを参照してくれ。
耐火煉瓦の成分について。種類が多くて配合が複雑で、更に企業秘密。超面倒臭い。中世を前提に入手方法を考察できた主要成分だけ説明しよう。
私が考えたのは、硅石、アルミナ、マグネシアの3つだ。それぞれ酸性・中性・アルカリ性となる。この違いは超重要。内容物と合わないと中和反応を起こしちゃうからね。何しろ温度が高いんで、化学反応が活性化されるんだ。
まずは硅石、あるいは硅砂。これは二酸化硅素が主成分の岩石や砂で、ガラスの主原料と同じ。
ガラスの時にちょっと触れたけど、古い砂漠の砂は硅砂なんだとか。地質学的な古さだから、一万年とか十万年とかになる。ドラゴンだって生きてたか怪しいな。
それだけの時間を掛けると、気温の上下で石が割れ、あるいは風であるいは海で砂粒同士がぶつかって砕けて、硬くて粉になりにくい硅砂だけが選別される。硅砂以外の成分は、粉になってどこかへ行ってしまうらしい。ブラジルのレイソンス砂丘なんかはほぼ100%の硅砂だとか。
こういう砂を磨り潰して粉にして、水で練って焼けば硅石煉瓦の出来上がり♪
粉の場合、本来の融点よりずっと低い温度で焼き締まるという性質がある。どうも粉の粒の接触点が部分的に溶けるって事らしいんだけど、理由はわからん!科学万能の現代地球でも、その機構は未解明みたいだ。
次はアルミナ。つまり酸化アルミニウムで、この結晶は何と!ルビーやサファイアだ!だからルビーを粉にして練って焼けばアルミナ煉瓦になる。う~ん、べらぼうに高価な耐火煉瓦だな…
アルミニウムは、元素としては非常にありふれてる。とりあえずその辺の石を拾ってくれば、硅石と鉄錆とアルミナの混合物だ。
これを苛性ソーダで煮込む。硅石も少し溶けるけど無視!濾過すればアルミン酸ナトリウム水溶液となる。冷やすと水酸化アルミニウムが綿毛状の結晶となって析出するから、濾過して取り出す。1000℃以上で焼けばアルミナになる。
バイヤー法と言って、現代だと苛性ソーダで煮込む温度が250℃だとか。中世だとちょっと難しいかな。100℃でも原理的にはイケる、と思う。効率は悪いけど。
効率を上げるならボーキサイトが欲しいな。異世界でも見つかるだろう。元々はフランスで発見されてるからね。
変わった所では、明礬を使う手もある。
実は、日本では昔から鉄アルミニウム明礬を人工的に作っている地方がある。湯の華小屋を調べてくれ。多少時間は掛かるが、原料を仕込んだら放っとくだけなのが良いな。
金儲けが最終目的なら、明礬だけで良い。中世ヨーロッパでは明礬は金の卵だった。明礬を見つけたからよろしくどうぞって手紙が残ってるとか。有用な使い道のある消耗品だから、その辺が金になる理由じゃないかな。染物の媒染剤や止血剤だ。皮の鞣し剤にもなるけど、あんまり一般的じゃないかも。
注意!バイヤー法では残渣が出る。赤泥と言う。これは公害の元だ。
最後はマグネシア。マグネシア煉瓦は製鉄の高炉にも使われる。その意味で非常に重要だ。
意外な事に、海水から採れる。海水から塩を採った残りの苦汁に、石灰を混ぜる。すると水酸化マグネシウムが沈殿する。濾過して焼けばマグネシアだ。
しかしこの場合、カルシウム分を含んでしまう。これを1%以下にしないといけない。耐火度が下がるんだ。
石灰が空気中の二酸化炭素で炭酸カルシウムになってしまうのが原因でね。炭酸カルシウムも沈殿するから、混ざっちゃうんだな。だから使う直前に石灰をもう一度焼く。一番良いのは石灰窯の隣に工場を作って、石灰を作る端から使う形かな。
これでマグネシア煉瓦も作れる。けど、現実にはやっぱりコストがなぁ。鉱石のマグネサイトやドロマイトを使う方が安く上がる。
ただね、現代地球では、マグネサイトは地政学的なリスクが高い。そのせいかな、今でも海水マグネシアの生産工場が沢山あるよ。日本にもね。
これで主だった耐火煉瓦は揃ったか。後はコスト低下を模索しつつ、高温の産業を育てよう!




