異世界化学工業・幕間 砂糖
氷砂糖に角砂糖、グラニュー糖や三温糖。現代では砂糖は様々な形に加工されて、料理や菓子の材料に供されている。
そこで質問。白砂糖と黒砂糖の2つを比べたら、どちらが好み?
日本人は黒砂糖の方を好むとか。しかも日本独特の好みの偏りらしい。昔から変わらないようだね。
江戸時代の前半、砂糖の全量を輸入していた頃。南蛮船が琉球~台湾~東南アジアの砂糖を運んできた。その目録を精査すると、黒砂糖の取引量が多くて、しかも単価が高かったらしい。
白砂糖の方が手間掛かってんだよ。しかも精製の過程で目減りする。つまりは白砂糖の方が高級品、の筈なんだけど… 安い黒砂糖の方が高く売れるってんだから、売り付ける側としちゃウハウハだったろうな。
全量を輸入に頼ってたこの時代、このままじゃ貴重な金銀が大量に流出する。そこで皆さん御存知米将軍吉宗が、砂糖の国産化を命じた。
その後紆余曲折を経て、かつて高価な薬だった砂糖は、庶民にも手が出る調味料になった。伝統的な和食って意外と砂糖を使うでしょ?あれは歴史の足跡なんだねぇ。
日本の歴史はともかくとして、異世界でも可能な製法を検討しよう。
と言っても問題はサトウキビの発見だけだよね?ヨーロッパ風で涼しい気候ならビートでもいいんでしょ?後は汁を絞って煮詰めれば出来上がり♪ …なんて簡単な話なら良かったんだが。
化学工業シリーズで砂糖を取り上げたのにはワケがある。煮詰める段階で石灰を混ぜるんだ。サトウキビを絞った汁に、牡蠣殻などを焼いて作った食用石灰を混ぜて、それから煮詰める。すると灰汁が浮くので取り除く。
ビートの場合も手順は似たようなもんだけどね。でも中世ヨーロッパ風だと、ちょっと難しいかも。
ビートは、ヨーロッパでは昔から在った。でも最初は葉野菜だったんだって。それから根を肥大化させ、家畜飼料にして、砂糖原料にした。そのせいか、灰汁が強いんだよ。普通に絞って煮詰めちゃったら、とても口に出来ないような激マズの物体Xになるとか。
それに当時の砂糖含有量はとっても少ない。1%以下だったかな。現代のビートは20%前後とか。その差はでかいぞ。異世界で砂糖を作りたかったら、素直にサトウキビを探した方が良さそうだ。
そうしてサトウキビ汁から灰汁を抜いて更に煮詰め、冷やして結晶化させる。製糖の要点は、ここから砂糖結晶だけ取り出す方法だ。それは古代でも現代でも変わらない。
サトウキビ汁に含まれている砂糖の結晶以外の蜜を、廃糖蜜とかモラセスと呼ぶ。
廃糖蜜にも使い道はあるんだ。結晶にならなかった分の砂糖がまだまだ含まれている。砂糖以外にブドウ糖も含まれている。だから醗酵させる事が出来る。これを蒸留した酒がラム酒だ。
意外な事に、製糖方法の歴史はあまりわかってないらしい。
和三盆は今に伝わり、200年前の方法を受け継いでいる場所もある。職人が研ぎと押し舟を3回以上繰り返して…という製法は、実は新しいんだな。徳川吉宗が試行錯誤した頃の製法は、どうも違っていたようだ。
この話は余り知られていない。そもそも当時の製糖方法は、世界的にも文献がほとんど無いんだとか。数少ない文献とフィールドワークを駆使して探った結果が、ネットで公開されていた。これがほとんど唯一の文献みたいだ。
なんと、上から土を被せるんだと!そして半月ほど掛けて廃糖蜜を抜くとか。ビックリポンやわ~。まさか白い砂糖を作る為に、土をかけちゃうなんてね。
詳しくは「覆土法」で検索してくれ。勿論これは歴史的興味ってだけだ。現代同様の超高品質白砂糖を安く量産するには、余りにも効率が悪過ぎる。
そしてサトウキビってのは、栽培が難しい…訳ではなさそうだ。ならば簡単かと言うと、そうでもない。水と肥料をバカ食いする上、とにかく人手が要る。現代においても機械化できない、労働集約型の作物だ。逆に中世なら向いてるかもね。労働単価が激安で、何をするにも人手だったから。
それでも人々は砂糖に魅了され、その味を追い求めた。甘味の王と言っても過言じゃないだろう。
砂糖とは何だろうか。
正式名称は蔗糖。化学的には、ブドウ糖と果糖が脱水縮合した二糖類だ。砂糖水にクエン酸を加えると、逆に加水分解してブドウ糖果糖液糖になる。
そして砂糖やブドウ糖は冷えると甘さが弱くなる。しかし果糖は冷たい方が甘い。果物には果糖が多いから、だから冷やして美味いんだ。
砂糖に酸っぱい果汁、例えばレモン汁を加えてしばらく置いてみよう。砂糖水をコップ一杯くらいなら、レモンスライス1枚を絞って約30分で反応するようだな。風呂の前に混ぜて冷蔵庫に入れておけば、風呂上がりには天然レモンジュースを楽しめるよ。飲んでみればわかるけど、甘さの質が市販ジュースと良く似てる。つまり、美味い。
但し、果糖は体に良くないらしい。肥満や老化との関連が叫ばれているみたいだな。大量摂取には気を付けようぜ。美味いんだけどね…




