異世界化学工業・三千世界
三千世界のカラスを殺し、主と朝寝がしてみたい。…ではなくて、三千度の高温を自在に操れる世界では何が出来るようになるのか?というお話。
人造黒鉛。鉛筆の芯に使われる黒鉛=石墨を生成する。
現代工業では黒鉛は応用範囲が広く、要請に応えるため複雑な方法で加工してるようだ。でも鉛筆の芯にするなら簡単でいいと思う。
まずは燃えないように酸素を遮断。そして炭を入れて2700〜3000℃にする。これだけ。原料として現代ではコークスとピッチを使うけど、異世界なら木炭や竹炭でいいんじゃないかな。
但し、時間が掛かる。2ヶ月から3ヶ月。本当に3000℃が自由自在でなければ無理だな。
次は、基本工程はこのままで6GPaの圧力を加える。数日〜数週間でダイヤモンドが出来る!温度は2000℃位まで下げて大丈夫。触媒としてニッケルが必要だとか、種結晶が必要だとか、わずかな不純物で色がついて美しくなくなるとか、色々難しいようだけど。
不純物除去。ゾーンメルティングと言う方法がある。ダイヤモンドには応用できないけど。
溶けた物質が固まる時は面白いもので、不純物は溶けた部分に残り続けようとする。海水が凍る時、氷に塩分は含まれないって話があるよね。あれと同じ理屈だ。
物質を棒状に加工して、一部分だけ加熱して溶かす。溶け落ちないように工夫が必要かな?解説は見つからなかったけど、表面張力とかでしがみつくんじゃないかな。そして溶かす部分を端から反対側までゆっくりと移動させる。何度か繰り返すと、不純物は一方の端に濃縮される。
かつてシリコンはこうやって純度を上げたと言う、半導体産業のお墨付きだ。
そう、シリコン=硅素はこれで純度を上げられる。でも二酸化硅素=硅砂については、事例が見つからなかった。もしかしたら現代地球では経済的に見合わないのかな。最先端技術で需要はある筈なんだけどな、光ファイバーとか。
因みに高純度の硅砂は、天然でも大量に存在する。数百万年前からの古い砂漠の砂。風に揉まれ続けて不純物は微粒子となり吹き飛ばされ、硬くて砕けにくい石英分だけが取り残されて、ほぼ純粋な硅砂になるらしいね。サハラ砂漠なんか、たまに天然のガラスのカケラが転がってるそうだ。
カルシウムカーバイド。ちょっと耳慣れない物質かも知れないが、まぁ聞いてくれ。
生石灰と炭を混ぜて2000℃にする。するとカルシウムと炭素が結びついて炭化カルシウム、つまりカルシウムカーバイドになる。現代だと炭ではなくてコークスを使うんだけど。必要なのは炭素なので、木炭や竹炭でも大丈夫じゃないかな。
このカルシウムカーバイド、水と反応してアセチレンガスを発生する。このガスを燃やすランプが存在する。アセチレンガスは炭素の割合が高いので、炎がとても明るいと言う特徴がある。アセチレンランプを調べてくれ。
また、アセチレンガスは燃焼温度が非常に高い。普通に燃やしても2300度になるようだ。酸素中で燃やすと、なんと3000度に達する!
カルシウムカーバイドにはもう一つ用途がある。カルシウムシアナミド。また聞き慣れない物質だけれど。
窒素ガスをカルシウムカーバイドと一緒にして2気圧1000℃にすると、カルシウムシアナミドが出来る。
窒素を作るのは割と簡単だ。密閉した部屋で物を燃やすと酸素を消費する。燃え切った後の空気を石灰水に通して二酸化炭素を吸収させる。すると概ね窒素だけのガスになる、はず。
このカルシウムシアナミド、別名を石灰窒素と言う。これ、農薬なんだよね。動物はもちろん植物にも効く毒でね。最大の特徴は数日で毒性が消える事。そしてなんと、窒素肥料に変わる!
石灰窒素が水に触れると、炭酸カルシウムとアンモニアになる。このアンモニアが窒素肥料の正体だな。そう、この方法ならアンモニアを作れる。実際にこの方法でアンモニアを生産していた時代もあったらしい。
なぜアンモニアに食い付くのか?それは、ソーダ灰の工業生産の道が開けるからだ。以前説明したソルベー法だね。
ソーダ灰の生産と言えばルブラン法もある。そっちの流れだと、塩素を作れるらしい。
まずは硫酸。少量だったら明礬や緑礬の乾留が手軽だね。鉛室法を使える位の技術力があるならそれでもいいけど、大変じゃないかな。
この硫酸と、食塩水を使って、ごにょごにょして、ソーダ灰と硫化カルシウムと塩化水素を作るのがルブラン法だ。その全体像は調べてくれ。今回は塩化水素に注目したい。
塩化水素を400℃以上に加熱すると、塩化銅(II)を触媒として酸素と反応する。ディーコン反応と言って、水と塩素になる。これを消石灰に吸わせれば晒し粉、漂白剤だ。
そして晒し粉を酒に溶かすと、酸素が出てくる。これとアセチレンガスで3000℃だぜ!
ただね、リアルでやっちゃダメだよ。ダメな理由を知りたかったら自力で調べてくれ。そして真実の奥の更なる真実に… いやこれは余計だな。




