表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/34

味噌

 味噌と醤油、それは日本人が愛してやまない魂の調味料。洋風世界に飛ばされた日本人なら、いずれ恋い焦がれて探し求めること必至。恋い焦がれる味としては、実は梅干しもあったりするのだがね。大抵の作品で無視されているねぇ。寂しい限りだ。西洋に旅行して3日を過ぎた辺りから無性に梅干しが恋しくなったなんて話もあるんだが。


 味噌か醤油か梅干しかについての議論は別の場に譲るとして、そういった味を探して見つける為には、和風文化が近隣に存在する必要がある。中世ヨーロッパ風に設定した世界の中に日本があるというのは、しかし、なかなかに違和感がある。異世界の中に異世界が存在しているようなものだ。その為か、味噌や醤油は自力で作って堪能する設定も見かける事がある。


 日本の味覚を自力で生み出す事は出来るのか?差し当たって、味噌について検討してみよう。


 日本において味噌を作るのはそれほど難しくない。自作した体験談など掃いて捨てるほどある。江戸時代まで遡れば、どこの家でも自分で作るのが一般的だったようだ。家庭毎に独自の工夫を凝らした美味を自慢して、「手前味噌」という言葉が出来てしまうほど当たり前の事だったらしい。


 では、経験の無い人間が日本以外で作る事も簡単なのか?という問いには、残念ながら否と答えざるを得ない。


 味噌の材料は大豆と麹と塩と水だ。細かい作り方は調べていただきたいが、要するに、材料を混ぜて放置するだけ。材料さえ調達できれば、後は簡単。簡単なのだが、問題は放置する時間だ。これがちょっとやそっとではない。概ね1年くらいになる。味噌作りは1年がかりの大事業なのである。


 はっきり言おう、時間が掛かり過ぎる。やっては失敗し、工夫を重ねてノウハウを蓄積し、やっと恋い焦がれた味を再現する、と書くと美しいけれども。その間、最短でも数年が経過する。小説で読者を惹き付けるリズム感には合わない。


 但し、時間には逃げ道もある。速醸味噌。これは熟成期間を短縮し、経済的に有利な商品を作ろうという流れの中で開発されたものだ。と言っても数週間は掛かる。それでも加速倍率は4倍〜10倍以上で、結構な高速化ではないかな。だがしかし、当然のように代償がある。味も香りも貧弱なのだ。現代の商品では食品添加物でその辺を補っている。批判の的となる所以である。


 伝統的な「正しい」製法ではゆっくりと醸造するのんびりした味噌しか無かったのかというと、実はそうでもない。この話は知らない人の方が多いのではないかな。かの武田信玄は陣立味噌というものを作っていた。出陣前に仕込んでおけば、戦場に到着する頃には味噌になっているそうだ。現代大企業もビックリの超速醸味噌である。作り方は調べて欲しい。他にも同様の味噌はあるのではないかと睨んでいる。俺は見つけられなかったけど。


 そんな超速醸味噌が作られるには、勿論それなりの背景がある。ミリ飯だったのだ。湯に溶いて飲めば腹が持つ。栄養豊富で気分高揚の効果もある。戦国大名はこぞって味噌作りを奨励したらしい。という事は、味はそれほど重視されなかったのだろうという推測も成り立つのだがね。


 舌の肥えた現代日本人が愛してやまないほど味に優れた味噌を作るには、やはり長期熟成は避けて通れない道のようだ。だが剣と魔法の異世界ならば解決方法はある。熟成を促進する魔法を作ってしまえば…!ただ、余りにも地味過ぎるのがなぁ。火炎や暴風や雷撃でドッカンドッカンの舞台では、溜め息がでてしまう。


 魔法属性もどうする?土魔法かな?死と腐敗の制御って観点から闇属性に分類するのは面白そうだ。そうすると熟成促進はネクロマンサーの仕事かな?俺は嫌だよ、腐った死体をいじくった手で味噌の仕込みをされるのは。


 誰の仕事かは置いとくとして、熟成促進魔法には酒造りへの応用という方向もある。ヨーロッパ風の世界で酒と言えばワイン。ワインの速醸が可能なら、チーズも速醸したくなる。多種多様なチーズ作りを楽しむ事も出来る訳だ。まぁカスマルズは遠慮したいけども。まさにネクロマンサーの仕事だな…


 重要な注意点がある。短時間で一気に熟成させると炭酸ガスが心配だ。アルコール発酵では大量の炭酸ガスが出る。狭い密室でやったら酸欠で倒れる危険がある。炭酸ガスは空気より重くて床に集まるので、倒れた人間を助けるのも命懸けだ。気合と根性でどうにかなる話ではない。もしネタにするならその点も考察が欲しい。味噌やチーズでは炭酸ガスの話を聞かないから大丈夫かも知れないが、酒に応用するつもりなら対策を考えた方がいい。


 しかしこの魔法、掘り下げれば意外な方へ向いてくる。熟成促進の正体を時間の圧縮とするならば、自分自身にかければ超加速のチート魔法だ。味噌の熟成の1年間を数時間に圧縮するならその倍率は千倍。しかも数時間は疲労も無く維持できる事になる。つまり戦闘においては、最初から最後までずっと千倍速というチートっぷり。あれ?千倍速で動くネクロマンサー?どうすんだよそれ…


 超加速にも欠点はある。うっかりすると老化を加速するのは最悪だな。体臭も匂いそうだし。半日もせずに猛烈に男臭くなる思春期男子が千倍速をバンバン使ったら、目に沁みるほど臭くなりそうだ。女の子に嫌われそうだぜ。合掌。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ