異世界化学工業・高温の作り方
ガラス製造には高温が必要だ。最低で1000℃、ショーウィンドウに使うような巨大な板ガラスは1600℃、急冷などの熱衝撃性に強い石英ガラスなら2000℃超。最終製品のガラス細工は800℃前後から何とかなるみたいだけども。
驚くべき事に、製鉄とほぼ同じ温度なんだよね。現代の製鉄だと高炉で最高2200℃らしい。鉄が溶けるのは1600℃弱だから、鉄鉱石からの製鉄の最低温度はその位かな。効率を考えなければ1000℃位で作れて、中世までの製鉄はコレだった。
高温について中二病全開で考えると、数字ばかり追求して1万度とか1億度とか平気で言い出す訳だけども。仕舞には温度の上限を相対性理論から考えてみたりしてね。私にも覚えがあるよ。
それに比べると2000℃ってのはだいぶ見劣りするんだが、これだって相当な高温だ。溶けた鉄の湯に落ちる事故が昔は頻発したみたいなんで、そのとき人体はどうなるかを調べてみてくれ…
問題は、中世ヨーロッパの技術で、魔法を使わずに2000℃を実現できるのか?って事だな。
最も簡単な発熱手段は、焚火だね。薪に火を点けて風を送り込む。安定した所で大きく空気を送ると、燃焼反応が活発になって温度が上がる。これでおよそ1000℃程度だ。鍛冶屋なら親方が炎の色を見て慎重に鞴を操作する。一般家庭なら竈に火吹き竹で息を吹き込む。余談だけどこれがヒョットコだな。
蝋燭のイメージだと、風で火が消えちゃうような気がするけどね。消えなければ燃焼は活発になる。理由は酸素だ。炎の仕組みは中学理科で教わったと思う。そっちを調べてくれ。
次は木炭だな。炭火を熾して風を送ると火の部分が明るくなるから、これは分かり易いだろう。これで約1300℃まで上がる。
石炭も、そのまま燃やすと大体1300℃位のようだ。但し現代ではそんな事しない。理由は不純物で、特に硫黄が致命的みたいだね。鉄の敵だ。だから不純物を事前に追い出す為に蒸し焼きにする。これがコークスだ。ついでに火力も上がる。
コークスは漢字では骸炭と書く。骸炭を熾して風を送ると、石炭よりも温度が上がって大体1600℃になる。
普通の方法で上がる温度はこの辺りが上限だと思う。う~ん、2000℃に届かない。石英ガラスは諦めるしかないか…?
諦めたらそこで試合終了ですよ。という訳でちょっと手段を変えてみよう。
アルキメデスの熱光線、と聞いてピンと来る人は相当の世界史好きだろう。磨き上げた盾で太陽光を集め、沖合の軍船を燃やしたと言う伝説だ。現代においては鏡やレンズを使う装置が存在して、太陽炉と呼ばれている。
太陽光線をできるだけ狭い範囲に集めればどこまでも温度が上がる…と言いたいところだけど、そうは問屋がおろさない。理想的に集中させると、光はそこに像を結ぶ。カメラの原理だ。太陽の場合も同様で、結像の結果、2000℃から3000℃辺りが一般的な上限となる。
像を結ばず狭い範囲に集光する手段は、ある。レーザー光線だ。
おっと中二病っぽい言葉が出てきた!なんて思わないでくれ。これはれっきとした科学技術の話。太陽光線をエネルギー源にしてレーザー光線を出力する物質がある。勿論そんな物が自然に存在する訳は無くて、成分や構造を設計して合成する訳だけども。
レーザー光線ならどこまでも狭い範囲に集中できる。これで2万℃相当の熱エネルギーを作って、工業的に利用しようと言う動きが始まっている。 以前ちょっと触れたマグネシウムでエネルギーが云々の話だ。シズマドライブのリアル版だぜ!夢が膨らむぜ!
ただなぁ… SFならともかく、ファンタジーにレーザー光線は無いよなぁ… 2000℃まで上がれば鉄やガラスには十分、レーザー光線は不要だな。しかし気まぐれな天気次第というのがちょっと困るね。
やはり何かを燃やす方向で考えよう。例えば水素。水素の燃焼温度はおよそ3000℃だそうだ。問題は水素の製造方法。一頃流行した水素エネルギーの時に問題になったんだけど、覚えている人はいるだろうか?
産業革命を起こすのでなければ、木炭ガス発生装置を使えるだろう。かつて木炭自動車として実用化された方式だ。ガラスの時にちょっと触れた例のアレ。合成ガスを発生させる。
あの後調べたんだが、ガス改質という技術がある。一酸化炭素と水蒸気を混合して150℃〜250℃にする。食用揚げ油の温度だね。すると水分子の中の酸素原子を一酸化炭素が奪い取り、二酸化炭素と水素の混合物になる。
但しこの温度では反応速度が遅い。触媒があった方が良さそうだ。面倒臭い…と思って温度を上げると、逆反応が優勢になってしまう。ホント面倒臭い。が、中世ヨーロッパ的な世界で石英ガラス製造の燃料用水素と限定すれば、でっかい図体でのんびりと反応を進める装置で何とかなるのではなかろうか。
剣と魔法の異世界には似合わないかな?知識チートのネタとしては悪くなさそう…?
 




