FILE4:夢の星空I
キラキラ、キラキラ。
上を見れば 幻想的な星空
下を見れば 人の繁栄を感じられる ネオンでライトアップされた街。
地上と空の狭間を
オレ達はゆっくりと歩く。
ふわふわ ふわふわ。
絶対感じることは無いと信じていた 感覚。
空中散歩する人間なんて オレが始めてだろう。
人は『空を飛びたい』と 何度も願っただろうか?
何度も束縛から解放されて 自由になりたいと思ったのだろう?
(きっと鳥は 毎日この光景を見ているんだろうな)
「綺麗でしょ〜」
隣で歩く 幸せ屋は誇らしげに言った。
「・・・うん、綺麗」
ワタシガユメミタセカイハ・・・こんなに綺麗だった。
『夢の星空I』
しばらく歩いていくうちに
浮遊感にも慣れ 風景を観察してみる。
(へ〜、上から見るとこうも違うもんだな・・・。)
見慣れているものも 上から見ると また別の姿を現して
あの東京タワーもちっぽけな存在に感じられる。
「千秋さんの家ってどっちの方向なの?」
「東に真っ直ぐ・・・ほら、東京タワーの方向!」
「東京タワーの方向かぁ〜、わかった♪」
この高さじゃ下の人は オレ達が空中散歩してるなんて
見えるはずも無い・・・・。
オレ達はその時そう思っていたが、この世は広い。
その考えが甘かった事に気付くのは・・・・もうちょっと先の話。
【二十分後】
「ここが千秋さんの家なんだぁ・・」
夢みたいな空中散歩はあっという間に終わってしまって
気がつけば もうオレの家の前。
(・・・・・、手が・・・。)
幸せ屋と手を繋いだ暖かさが まだ残っていた。
「おじゃましま〜す・・・。」
幸せ屋が扉を開くと 見慣れた玄関が顔を覗く。
けれど今日はいつもより、寂しくない感じだった気がする。
「おらっキッチンに行くぞ!なにが食べたい?」
「えーとえーと・・海の香りのグリーンリゾット鳥のムニエル添えっ!」
「作れるかぁそんなもーーんッッ!焼き飯でいいよね!?(怒)」
「え〜〜〜〜ッッ!」
というかそれフランス料理のメインじゃんか!
一般高校生は作れるはずねぇだろーがっ!
予想外の答えに頭が痛くなってきた。
「・・・・じゃあオムライス・・・。」
「オイ、今オムライスをバカにしてるだろ」
せっかくモノ食わせてやろうとしているのに
まぁ、六歳のガキは大体そんな感じだしな・・・マセガキだけど。
「じゃそれ作るから 少し待ってろ」
――― 材料は卵と玉ねぎと鶏肉など・・ケチャップ冷蔵庫にあったか?――
冷蔵庫に材料があるか確認する。
・・・・うん、二人分は作れるな!
「オイ、テメーキライなもんあるか!?」
「えーと・・・ピーマンとネギ・・・。」
「え、玉ねぎダメか!?」
「玉ねぎは大好きだよっ!甘くておいしいもん!」
「なら良かった。10分ぐらいで出来るからな〜。」
そう言って オレは玉ネギを切り始めた。
トン、トン、トン。
リズム良く玉ネギを切る。
たまに涙が出てくるが、我慢我慢・・・。
(そういや、人の為に料理作るのって初めてだな・・。)
昔から料理は得意だったが、あまり作ったことは無かった。
・・・・いや、作る必要がなかった。
料理はいつも母さんが作ってたし。
『千秋ー!ご飯出来たわよ〜、早く来なさい!』
『えー?今日なんなの?』
『今日はお金あったから 焼肉よ〜♪』
『マジで!?やっほ〜〜っっ!』
もう母さんの料理も食べられないし 時間は戻らない。
(もう 一人で生きていくしかないんだ)
それしか、生き延びることができないから。
そうするしか オレには出来ないのだから。
「ほらっ オムライス出来上がり!」
机には 我ながらいい出来栄えのオムライス。
幸せ屋のは 少し甘めにして 玉ねぎを多めにしている。
美味しそうな香りが キッチンに漂う。
「わー♪美味しそう!」
幸せ屋は本当に嬉しそうに笑った。
そう反応してくれると 作ってよかったと思える。
スプーンを手に取り 食べようとする。
その前に!!
「おーとっ、食べる前に一つ」
幸せ屋はちょっと驚いたように「なーに?」と聞いてきた。
「人の家のメシ食べるのに 顔を見せないっのは失礼だと思わないか?」
それとも「幸せ屋」は人に顔を見せちゃいけない掟があるのか?
本当は幸せ屋の顔が見たいって興味で言ったのだが。(オイ)
いや、隠しても表情はわかるけどね?
「それもそっか。ごめんなさい。」
・・・あれ?
オレは思わず拍子抜けしてしまった。
拒否られるかと思っていたが
案外簡単に見せてもらえるようだ。
幸せ屋の手が レインコートの帽子を持つ。
(・・・・ゴクッ)
なんか緊張してきた・・・。
どんな顔してんだ?幸せ屋は・・・・?
声は高めのアルト・・・いや、ソプラノかも・・。
イメージはけっこう可愛いと思うんだよな・・・。
晴香が抱きつくような・・・マスコットみたいな?
いや、案外大人びてるかも・・・?
想像が想像を呼び なんだかわからなくなってきた・・・。
少しずつ帽子がずれていって 少しずつ顔が見えてくる。
顔の輪郭から 幼い感じで
ふわふわとした蜂蜜色のテンパ・・・ 光によってはクリーム色になって。
そして 幸せ屋の顔を見た瞬間
「・・・・・青空。」
少年の眼は 澄んだ青空の色をしていた。
自分は一切持ってない ずっと憧れてきた『青空』
名前とはまるで正反対。 『雨』なんて 一切感じなれなかった。
「・・・?顔になんかついてる?」
幸せ屋が少し怪しんでオレを見る。
危ない危ない・・綺麗な眼に見惚れてたなんて 口が裂けても言えねー!
「ん?いーや? じゃ食うか」
「うんっ♪」
幸せ屋がオムライスを食べ始めた。
幸せ屋が鈍感で・・よかった。
―――――――――――――――――――――――
(なんか味気ねーな・・)
自分が作ったオムライスを食べた時
はじめ感じた感想が それだった。
ケチャップが足りなかったか?それともコショウ?
隣の幸せ屋は とても旨そうにガツガツ食べていた。
アイツは味気ないとか思ってないらしい。
「旨いか?」
そう聞くと 元気よく頷いた。
「むー!むむむーっっ!」
「いや、食ってから話せよっ!」
しかし「うん!おいしいよ♪」と言ってるのがわかる
オレはいったい何なんだろう・・・。
(あ、そっか)
そういや 自分が作った料理って味気なく感じるんだっけ。
だから自分は 料理を作るのを嫌がってたんんだっけ?
しばらく死のショックで こんな当たり前の事を忘れていた。
「ごちそうさまっ!美味しかった!!」
幸せ屋が満足そうに オレに笑いかけた。
本当に 嬉しそうに。
料理を褒められて 嬉しくないヤツなんていない。
その一言に本当に嬉しくなって
「ふんっ、これでも手抜きなんだぞ?」
照れ隠しに嘘を言ってしまった。ホントは本気でやった。
「えぇ?だったら海の香りのグリーンリゾット鳥のムニエル添えもできたん」
「だから一般人にできるかぁあぁあぁああああッッッ!!」
一般人がフランス料理作れたら
レストランなんか存在しないわボケェ!!
というか、六歳が食べるってどうよ!?
心の中でツッコんで 心底呆れてしまった。
しかしそれで冷静になったとも言えて ある問題点に気づく。
「オイ、テメーこれからどうするんだ?」
コイツが腹へらしていたから 一緒に帰ったのだけど。
もう ココにいる理由もない。
妖精・・・というのは空中散歩を体験してしまった今
否定できないが、といっても家族はあるだろうし・・。
「家に帰るなら 送っても・・・」
親が心配しないだろうか?
まだこの年齢は 大人の妖精?に守られているハズ。
「家なんか ない」
その言葉で 穏やかだった空気が凍りついた。
「でも千秋さんとは違う・・・『失った』んじゃない。」
「家族なんて 最初からいなかった。」
その時だ。オレがなんで
怪しいコイツを 家に連れてきたのか。
純粋な眼をしている 不思議なヤツだということもあるだろうが
きっと幸せ屋は オレと同じ・・いやそれ以上の・・・。
『闇』・・・いや『業』を抱えている 眼をしていたからだ。