FILE1:青空
両親と親友達が、死んだ。
とても晴れた日。
1000人以上が死亡した 飛行機事故。
生き残ったのは オレだけだった。
ただそれだけのことなのに 心の喪失感がとても大きくて
でも、なぜか涙が流せなくて。
感情に呑まれそうで 泣きたくても泣けなくて ただただ・・・・苦しいだけ。
目の前には 見たくも無い死体が入る 棺。
「ねぇ、あの娘さん 両親が亡くなられたらしいよ・・・。」
「まだ高校生なのに。旅行中 友達と両親を失うなんて・・・」
犠牲者の葬式の途中、ふと 親の知り合いだったおばさん達の話が聞こえた。
無意識に その話に耳を傾ける。
「名前は・・・たしか千秋ちゃんだわ」
あぁ、この人達はオレのことを話していたのか。
ぼんやりとした気分の中、そう思う。
「ホントかわいそう・・・親戚の人と暮らすのかしら?」
「いや・・話によると一人暮らしするそうよ。」
おばさん達は そうオレの事を話し続ける。
オレが聞いている事に気づいてない。
・・・・くだらない。
そう思って ため息をついた。
あぁ、勝手に人に同情するのはやめてほしい。
「かわいそう」なんて・・・今 一生懸命生きようとしているのに・・・。
無意味な同情は 人を傷つけるだけ。
だから大人って 嫌い・・・・・。
いや、もう今では神様も この世界も大嫌いだ!
なんでオレから 大切な人を奪っていったの・・・!?
神様は オレ達子供から 大切なモノを奪っていく。
「いっそのこと・・・・」
「オレも死ねばよかった。」
その言葉が 青空に響いた。
葬式が終わって オレは海に来ていた。
空は憎たらしいほどの快晴・・・まるで 人を慰めるかのように 青い。
ザザーン・・・・ザザーン・・・。
静かな波の音が ほんの少しだけ 心の傷を癒した。
オレは小さいときから『自然』が好きで
落ち込んだとき、悲しいときは いつも海で泣いていた。
海と空がとても広くて、自分がチッポケな存在に感じる。
その二つの偉大な存在に抱かれ 静かに考える
自分は全てを失った。暖かな世界が崩壊してしまった。
でも、もう1つ 一欠けらの『記憶』を失った。
自分の事はちゃんと覚えている、もちろん親友や両親のこともだ。
事故の記憶もはっきりとしてる・・・目の前で人が死んでいった・・・。
でもその後が覚えていない・・なぜ自分だけが助かったのか・・・。
なにか『大切な事』が 忘れてしまった気がする。
どうしても思い出せなくて 水平線を睨みつけた。
空と海が混ざる水平線 その先にあるのは死者の国だろうか?
「母さん、父さん・・・瑠璃・・鈴・・葉月・・・」
その先に 大切な人がいるのだろうか。
「・・・・なんで・・」
なんでオレの大切な人たちが・・・。
「死んでしまったの・・・・・?」
彼らには 何も罪はなかったでしょう・・・?
そう思い、オレは 水平線を睨み続けた。
チリン。
「・・・・・?」
どこかから 鈴のような音が聞こえる。
周りを見ても 自分以外、誰もいない
チリン、チリン。
透明な音色は
まるで 非現実的な雰囲気を秘め
チリン、チリン、チリン。
だんだん 近づいてくる。
「・・・・誰だ・・?」
息を潜めて 気配を探る。
チリン、チリン。
「・・・・音が、止まった・・?」
鈴の音が止まったとき
後ろから気配がして あわてて振り返る。
「・・・・君・・・は?」
小学一年生ぐらいの少年が 後ろに立っていた。
蜂蜜色のふわふわした髪の少年が・・・
不思議な事に 雨なんて降っていないのに
黄色いレインコートを着て 可愛らしいカエルの傘を指している。
レインコートで顔は見えないけれど ふっ と 微笑んで
言った。
「初めまして・・ぼくは「幸せ屋」です」
そして 意識が暗くなった。
大切な人が死んだ次の日 オレの運命は変わり始める。