Prologue
眠り姫の起床時刻がまだ連載終了していないのに、これを書き始めてしまいました。
ここに出てくる主要キャラ6人は、私が作ったキャラの中でも最古で、今の今までずっと日の目を見ずにやってきました。
眠り姫〜はゆるゆるコメディでしたが、こちらはコメディ要素ありつつのシリアスものです。
不定期連載という形になると思いますが、少しでも楽しんでいただけるように一生懸命書きますので、どうかリオたちの旅を見守ってください。
豪奢なシャンデリアを彩る数々のクリスタルが、キャンドルの光を受け、拡散し、室内をまばゆいばかりに照らしていた。この夜のために呼びつけられた国内屈指の音楽家たちが、ありとあらゆる舞踏曲を奏で、それに合わせて男女がステップを踊っている。
絢爛豪華と呼ぶにふさわしいインテリアに負けじと、参加者たちは着飾り、貴婦人の身につける宝石だけで数々の国の貧困層を助けることができるだろう。年配の紳士が手にするステッキの頭の部分に使用される骨は、世界中でも倒すのが難しいと言われている超獣・奇獣のものがあしらわれている。それを知っている紳士は、ことあるごとにステッキのヘッドを満足げに撫で回し、またそんな紳士のプライドに気づいた貴婦人たちは、紳士の財産や権力の恩恵を受けようと、我先にと彼を褒め称える。
黄金色に染め上げられたホールで歓談する男女においては、灯がなければ自分の足元さえも見えない闇が広がっているなどとは考えもしない。そして、その闇が、ほんの一瞬の隙を見せた途端に、自分に刃を向けるだとも思っていない。
ホールに面したベランダに、煌々とした室内を背に立つ、二つの影があった。それは巧妙に、室内からは見られない位置に立ち、そしてまた、併設するベランダの隣同士に立っているため、万が一見つかったとしても両方の人物を同時に見ることは叶わなかった。
「もうすぐ、動き出します」
影の一つが言った。その声は囁きよりも小さく、しかし、もう一方の人物には明瞭に聞こえる不思議な声だった。
「いよいよか」
「はい」
「これを、避ける手立てがなかったことが、悔やまれる」
「しかし、守らなければならないものは」
「守らないといけないね」
影は、二つとも微動だにせず、とっぷりと闇色に溶け込んでいるために、その性別はおろか、背丈や衣服なども何も見えなかった。瞳を閉じているのか、虹彩すらも判別できない。
「夕闇のためだ」
「ええ。わかっています」