Episode2.転機をもたらす天使
本作のヒロイン、金城聖南の登場回です。
寺井に撃たれた後、暫く出血多量で意識を失っていた。目を覚ますと、白い天井が視界に入ってきた。どうやら救急車で搬送されたようだ。
生きていることに安堵の気持ちを憶えたが、同時に父が居ないと思うと落胆した。暫く何が起こっていたか脳内を整理していた。
「花京院雫さんですね?」白衣を着た女性が、話し掛けてきた。
「あ……あっ、あの?ここは病院ですか?」脳内で思考に励んでいた俺は、油断していて慌ててしまった。
「そうですよ。医療法人野島会聖フレイドル総合病院です。身体の面は勿論の事、精神面もキツイと思うので暫く安静になさって下さいね。」
「あの?俺の妹は何処にいますか?」彼女に尋ねた。
すると彼女は首を横に振った。俺はとうとう、唯一の肉親である妹さえも失ったのだと確信した。
「そ……そうですか。分かりました。」
俺はこれから何を頼りに生きていけばいいのか。果てしない空虚感に苛まれた。生きる事も放棄したかった。でも、そんな勇気は全く無い。自殺を考えたが、自殺する気力も最早残っていなかった。
太陽に照らされて目を覚まし、与えられた病院食を食べて、テレビを見て、リハビリに行き、昼食を食べ、カウンセリングを受け、夕食を食べて、寝る。
3/25日の事だった。高校に合格していたが、入学しないことにした。精神がまだ落ち着かない。社会に出る状態ではなかった。
その後も起床→朝食→リハビリ→昼食→カウンセリング→夕食→寝るという生活を送っていた。銃弾による傷痕が癒えるまでは。
余りにも色々なものを失ってしまった。受け入れ難い程に俺の心は傷ついてしまった。今の俺は、活きてるんじゃない。白亜の監獄の中で生かされるんだ。
時間の感覚が狂ってゆく。正確には、規則正しい生活をしているので、体内時計が狂っていく訳では無いのだが。24時間が48時間位の速さに感じる。単調な時の流れに飽きてきた。
そんな中、入院生活3ヶ月目を迎えた6月後半に、人生を変える出来事は起こった。神からの贈り物のような素晴らしいことだった。
「お兄ちゃん!調子はどう?」病室に中学生くらいの黒髪ミディアムヘアの女の子が滑り込んで来た。どう見ても深桜とは似ても似つかない。俺のタイプだが、俺はこの子のお兄ちゃんではない。
「人違いじゃないか?俺は花京院雫。君の事は何も知らない。」取り敢えず、正直に聞いた。
「その見た目、間違いなくお兄ちゃんだよ?きっと何かの拍子で名前を忘れて、浮かんだ名前を言っているんだよ。」彼女はそう言った。どうやら俺が彼女の兄であると信じて疑わないようだ。
「そうかな。調子はぼちぼちだよ。名前は何だっけ?」
「私?私は、金城聖南。中学3年だよ!」
彼女は活発な子に見えた。
「宜しくな。聖南。何か用があるの?」
「お兄ちゃんが遠足から抜け出して、行方不明になった挙げ句、この病院に運ばれたって聞いて。」
「そうか……俺も高校生だったんだな。聖南、済まない迷惑掛けて。両親は俺が帰ったらどう思うかな?」
両親……本当のオレには痛い言葉だ。だけど、こいつの兄として居れば、その痛みも忘れる。
「大丈夫だよ。負担掛けすぎちゃって、行方を眩ませるようになってしまったと。父さんも母さんも反省してる。」
「なら大丈夫だな。それだけを心配してた。ところで、俺の名前って一体何なんだ?」
「金城護だよ。最も、当主になれば名前が変わるけどね。」
当主?こっちの家は貴族か何かなのか?今時、貴族なんて居ないはずだが。
「当主?俺の家はどんな役職についてるんだ?」
「世襲制の大統領よ。詳しい事は言えないけど。」
「大統領!?」
「声が大きいよ。お兄ちゃん。」妹に注意された。
「あぁ、済まない。ちょっとトイレ行ってくる。ここで待ってて。」先程から尿意を催していた。行こうと思っていたところに彼女がやって来たのだった。
「大統領と言われてもなぁ。検討もつかんなぁ。」そう言いながら小便器の前に立つ。
「お兄ちゃん、何考えてるの?」隣には、いつの間にか聖南が居た。
「聖南。ここは男子トイレだよ?」
「分かってるよ。個室を使うのは病人か生理中しか使わないよ。」
そう言うと彼女は立ちションをし始めた。
日本国では個室だけの女子トイレに長蛇の列が出来ているというのに、個室を使うのは病人と生理中のみだと?
雫の頭では理解出来なかった。彼女の家がオカシイのかと思っていた。
「男の子とデュエットするのは久し振りね。」 彼女はそう呟きながら放尿を続けた。
少々刺激が強すぎましたかね。