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Episode 1.花京院雫の鬱蒼感

新シリーズ、本編開始です。読みやすい文体を心がけていきたいです。

「頑張れよ。雫、此所で死んでは駄目だからな。」

もう、耳にたこができるほど来客者が俺にかけてきた言葉だ。


俺は、花京院かきょういんしずく。苗字は格好良いと言われるけど、中学時代までは、普通の生活を送っていたよ。珍しい苗字だからって、特殊能力を使えたりとかそういうことは無い。決して秀才って訳でもない。平々凡々の男だ。思い出したが、金持ちのボンボンでもないからね。


でも、あの時から運命は悪い方向に向かっている気がしてならないんだ。


「雫。お前ももうすぐ中学卒業だな。早いモノだ。お前が高校生になる姿、母さんにも見せてやりたかったな。」

父の書斎に呼ばれて俺が部屋に入ると、すぐに涙を浮かべながらそんな事を話し始めた。


母さんは、中学生の時に乳癌で死んでしまった。最愛の母だったから受け入れ難かったよ。

でも、あれから気が付くと二年が経っていた。今、見ている風景は母さんが最期に見た風景とは全く違う。

人はいずれ死ぬ。生まれる前の風景も死んだ後の風景も見ることは出来ない。やり切れない感じがするけど仕方ないのかも知れない。


「父さん。それで、何か用があるの?」それだけで、呼ぶはずは無いと思った。何か重大なことでもあるのではないかと、読んでいた。

「実は、元服の歳になったから一族に代々伝わる短刀をお前に託したいと思う。何かあったらこれで討ち滅ぼしてくれ。」


父さん、今の世は基本的に平和だよ。別に短刀なんて必要無いと思っていた。でもそれがいけなかった。

あれは確か短刀を渡されてから3日後だったかな。もうあまり覚えてないけど、あの時……父を失った。


俺と妹の深桜みおは、父がドライブに行くと言っていたので、同乗して回る事にした。楽しい楽しいドライブになるはずだった。父と子二人……母さんが亡くなってから少し気落ちしたけれど、父との距離が縮まって嫌な日々ではなかった。

厳しい父ではなく、いつも会社から帰ると寂しげで、そして憂鬱そうな表情をしていた。酒はあまり飲まなかった。「快楽なんて一瞬。ただ夢のごとく待ち受けるは日々の試練。酒に溺れるわけにはゆかぬ。」父は真面目で、その心は「硝子のハート」という月並みの表現で表すに相応しかった。母が死んだのちも再婚することはなかった。浮気している気がしてならないらしい。

そんないい父だったが、あの日の出来事で人生の歯車が狂ったんだ。


パーン…ガシャン。

一瞬のことだった。父の車の窓ガラスが割れたのは。近所でも有名なギャング、寺井斬蔵によって発砲された弾だった。


「いい気にのるんじゃねえぞ!俺は院卒じゃけんのぅ。降りて来いよ!花京院為康さんよ。」拳銃を手に仁王立ちしている。

「ここで待ってろ。話をつけてくるから。深桜、雫。心配するな。」父は車を降りて、寺井と話をし始めた。


「何の用だ!寺井斬蔵。俺はお前にやられるほど落ちぶれちゃいねえ。」父は今までに見たことなく大声で勇み歩いた。

「どの口が言ってやがる。メンヘラオソマオッカヨ!」寺井はアイヌ語を交えて笑い飛ばした。このころになるとアイヌ語が復興し始めていた。

「誰が精神脆弱糞野郎だ。さっさとここをどけ。」父もアイヌ語には少しだけ通じていたので意味を理解できた。

「誰が退くかよ。言葉遣いがなってねえな。お前みたいなオッカヨは許せねえ。お命頂戴する。」

パーン…その時、父から赤い雫が弾け飛んだ。恐怖と父を目の前で殺された怒りとで悲しみは感じなかった。

「お前らもここで殺してやるよ。そのほうが幸せだろ?」寺井は一歩一歩近づいてきた。

深桜は、残酷な場面を見て泣いていた。余りにも中一の妹には辛すぎる現実だったよ。この出来事は。


「許せない。父を殺しやがって。」家に伝わっていた短刀を引き抜いて襲い掛かった。ここからは記憶があまりない……俺は寺井の銃弾に撃たれながらも、心臓に短刀を突き刺したらしい。


ただ「お兄ちゃんが生きるためなら心臓もあげるから。」意識が半分ない中で妹が慟哭しながら言ったこの言葉だけが脳裏に焼き付いている。



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