ドラムリスト 長谷川孝の話
小さい頃は幸福だった。
優しい父親、毎日遊ぶ友人。
その幸福もずっとは続かなかった。
母が父さんを振ったのだ。
『あなたみたいな負け犬、もう付き合ってられないわ。孝まで負け犬にしないで頂戴。』
俺は母親を恨んだ。
『母さんなんて大嫌いだ!!!!!!』
本当のことを叫んだ。
そのとき、初めて殴られたのだ。
最初は普通の母親のように頬をはたくだけだった。
それがだんだんエスカレートしていって、蹴られ、切られ、最終的にはタバコで肌を焼かれるというレベルまで。
あのときの母さんは異常だった。
正直な話、今もだが。
そして中学に入学して、虐待はぱったりとやんだ。
「小さいときだめだった分、中学で挽回しなさい。そうしたら許してあげるわ」
何を許すのか。
意味がわからない。
「一位をとりなさい。あんな低レベルの中学で取れて当然でしょう?」
じゃあどうしてこんな中学にいれたのか。
「友達なんかつくっちゃだめよ。そんなもの不必要でしょう?」
どうしてそう決め付けるのか。
母はとにかく俺を縛った。
いままで突き放していたくせに、なぜいまになってこんなにも縛るのだろう。
俺を偉くしてなにか得があるのだろうか。
(…学校でもあの人のこと考えるのやめよう)
どんどん鬱になってゆくから。
そんなことより、俺がもっと気にしてるのは昔の友人のことだ。
なんとなく、予感がするんだ。
『もしかしたら、
突然、母親の声が頭で響いた。
期待なんかしないで頂戴。あなたは何も出来ないんだから、運なんかに期待しないで。
そうやって、また出てくる。
どんなに俺を縛れば気が済むんだ。
俺だって予感や運にたよったって、いいだろ。
(くそ…)
どんどん自信をなくしてく。
『あなたは駄目だけど、勉強すれば自信なんてすぐつくわよ』
アンタはそういったけど、
勉強したって、自信なんかつかない。
誰かにこう、言ってほしい。
自信なんていらない、と。
でも俺にはもう、そういってくれる人はいない。
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