ギタリスト、増岡竜平の話
平凡です。
はい、平凡ですよーっだ。
ってゆうか。
特別な日常を送ってる子なんか、いますか!?
みんな、平凡が一番だなんて言うけれど、
俺はそうは思わない。
人間、一度はかっこいいと思われたい。
人間、一度はものすごい恋愛してみたい。
人間、一度は人を感動させてみたい。
そうでしょう!?
「ねえ!佐藤先生!!!?」
「おー。そうか。増岡。お前は一度はテストで80点以上いって先生を感動させてくれないか」
くそう!やはり先生に俺のアイデンティティーはわかってもらえないんだな。
あ、どうも。増岡竜平です。
ごく普通の、男子中学生です。
まあすこし変わってるといえば僕の髪の色、おばあちゃまが外人。
それくらいです。
ちなみに髪の色はオレンジだけど、目の色は黒。
僕は大変中途半端なDNAを受け継いだらしく、父さんのように目までオレンジではない。
って俺誰に説明してるんだろう。
ああ先生が睨んでる。
「よし、増岡。お前罰としてあの赤いギター持ち帰ってくれないか。先生アレ邪魔でしょうがないんだ」
持ち帰るだなんて、そんな、拷問だ!
「というかな、増岡。学校には不要物は持ちこみ禁止なんだ」
「不要物じゃありません!アレは俺の魂なんですうう!!!」
ぎろり。
うぁ。
「持ち帰れ」
「…あい」
そんなこんなで、だ。
なんという教師だろう!
生徒の趣味を極限まで伸ばし、それを活性化し、生徒のいいところにすべきなのではなかろうか?
昼休み、一人とひとつで屋上に向かう増岡竜平、今日の名言…と。
ははは。
持ち帰る前にもっかいだけ、野外練習だ。
もちろん、あとで先生に許しをもらいまたもってくるけどね。
俺はあきらめないのだよ、佐藤センセ。
扉の前まで来て鍵がないことに気がつく。
しまった!校内鍵マスターの海棠君にもらうのを忘れていた!
なんと言うミス!
どうしようか。あきらめるか?
なんてね!ナンセンス!こんなことであきらめる増岡君ではないのです。
こんなときこそ女子からもらったヘアピンでございますよ。
はっはっは。増岡竜平、初のピッキング。
いざ、挿入!!
鍵穴にヘアピンをいれて、適当にかき回す。
って、こんなんであくわけないでしょ。
「くそぅ」
あきらめるしかないのか。
ため息をつき、ドアノブに手をかけ立ち上がる。
がちゃ。
あれっ?成功、したの?!
扉が開く感触がした。
悪いことをした、という罪悪感より、成功したという喜びのほうが大きかった。
重い扉をぐっと押す。
ぶわっと風が増岡に向かって吹いた。
(い、目にゴミッ…!)
必死で目をこする。
だがいたみは増すばかりだ。
(あ、そういえばこういうときって涙を流せばいいんだったっけ?)
ぱっと目を開く。
涙で視界がぼやけた。
それを学ランの袖で拭う。
視界がはっきりとした。
(なっ…)
その瞬間、奇妙な光景が増岡の視界に入った。
セーラー服を着た少女が仰向けに寝ているのだ。
ああ、人がいたのか、そういう思いもあり驚いたがもっと驚いたのは、
その少女が手首を切っていたことだった。
(あ、ああいうのって、なんていうんだっけ?)
最近深夜のテレビ報道でやっていたのを思い出す。
確か、
(リスト、カット…?)
自殺願望者。
あの少女は自殺願望者なのだ。
(う、そ…!)
自分とはあまりにも次元が違いすぎるため、吐き気がした。
もしかしたら彼女はいま、自殺しようとしているんじゃないだろうか。
増岡は息を呑んだ。
止めたほうがいい、良心がそう告げた。
(そうだよな!ぜ、絶対、止めたほうがいいよな!)
増岡はぐっと両こぶしを握り、彼女へ近づいた。
「あ、」
声をかけようとしたとき、少女が息を吸う音がした。
「すぅっ…」
増岡の足が止まった。
少女が突然歌いだしたのだ。
「 」
(すご…!)
歌詞は英文でよくわからない。
でも、とにかくわかるのは、
(きれい)
澄んだ声。
はっきりしていて、心臓まで届く。
そうか、このこはきっと人を感動させることができる子なんだ。
俺の目標としたことを、このこはしらないうちにしてるんだ。
すごい!すごい!
「すみません!俺と一緒にバンドやりませんか!」
ごめん、口が滑りました。