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歪んだ愛とクリスマス

作者: 柚宮春綺



 目を覚ますと見慣れない天井があった。


 そんな空想ではありきたりだが現実に思う筈のない事を俺は思った。


 俺は御澤彰良(みざわあきら)。 平凡な、ホントに平凡な社会人だ。


 「あら、目が覚めたの? 彰良」


 ふふと笑う目の前の女には見覚えがある。 俺の彼女、斎藤彩弓(さいとうあゆみ)だ。


 彼女がいるなら安心だと起き上がろうとしたがガチンッという金属音が響き俺の腕は動かなかった。


 「え?」


 「あんまり引っ張ったらダメよ? 傷が付いちゃう」


 唖然として頭の処理能力をフル回転させてるが目の前で嬉しそうに頬を薄らと染めて笑う彩弓を見て少し背筋が寒かった。 ―――一体どう言う事だと言うのだ。


 「訳が分からないといった顔ね。 そんな馬鹿な貴方も好きよ」


 いつものように彩弓はにっこりと笑って俺の額にキスを落とす。


 「でもね、貴方は私を裏切った。 もう耐えられないわ」


 俺の額から唇を離すと彼女のぷるんと潤った唇からリップ音が奏でられその淡いピンクの唇は弧を描いて言い放たれた。 ―――俺には訳が分からなかった。 彩弓の事は前と変わらずに大好きだ。 むしろ愛している。 その俺が彼女を裏切る事なんてあり得なかった。


 「勘違いしてない?」


 困惑しながら問いかけると弧を描いていた彼女の口はへの字に変わった。


 「勘違いなんかしてないわ。 ねぇ、他の女とクリスマス前に会って何をしていたのかしら?」


 やけに冷たい声だった。 なるほど、そう言う事か……。


 彼女の言う他の女とは、きっと俺の後輩だろう。 そしてクリスマス前に会っていた理由は彩弓の事についてだったのだ。 だがそれを言うのは中々気恥ずかしい。


 「私は自由な彰良が大好きよ。 愛してる。 でもね、私はそこまで寛大じゃない。 他の女に取られるくらいなら貴方を一生この部屋に繋ぎ止めるわ。 貴方が壊れようとも」


 ツーッと少し伸びた彼女の爪が俺の頬を、首筋をなぞる。 ゾクリとする感覚を覚えながらスイッチが入ってしまったかと少し諦めていた。


 彩弓とは所謂幼馴染だ。 昔から一緒にそれこそ兄妹の様に育ってきた。 彼女の家庭環境からか、彼女は物心ついたときには既に歪んだ愛情表現しかできなかった。


 その家庭環境は母親は男に捨てられ泣きじゃくり、娘である彩弓を学校にも行かせずにずっと家の中に繋ぎ止めておいた時期があった。 おそらくそんな歪んだ愛情しか見てこなかったせいなのだろう。


 大好きな猫を押し入れに閉じ込めて餓死させてしまったりなど。 とにかく彩弓には拉致監禁、閉じ込め繋ぎ止めておくことでしか本当に安心できないのだと言う。



 それだけ俺が彩弓を不安にさせてしまっていたのか。 本来ならば犯罪だが特に俺は気にしないので力を抜いた。


 「今日はクリスマス、しかもイヴ。 彰良、愛してる」


 そうか、イヴなのかと彩弓に言われて遠くを見つめた。 正直彼女のこの性癖というかなんというかに関してはそこまで何も思ってない。 今日は仕事休みだったし、今日と明日何とか説得できれば明後日の仕事に行ける。


 「俺も愛してるよ。 彩弓」


 「本当!? 嬉しい! ちょっと待っててね! 何か温かい物作るから」


 まず彼女の不安を取り除かなければ話にならないと思ってこっ恥かしいがいつも思ってて言わない言葉を声にすると寝転がっている俺の胸に頭を預けていた彩弓が起き上がって嬉しそうに笑ってパタパタと部屋を出た。


 さて、どうしたものか。 彼女はまぁ、自分で納得するまでは止まらないだろうなぁ。 こういう態度がダメだったのか? うーん……。 でも昔からこうだしなぁ。


 考えを巡らせるが解決策が思い浮かばない。


 暫くすると彩弓がシチューを持ってきて食べさせてくれた。 手錠を外す様に言ったが断られた。 それはもうものすごく早く。 というか食い気味に言われた。


 「彩弓~。 ちょっと頼み聞いてくれるー?」


 「何?」


 「俺の鞄あるよね、大きい所に箱が入ってるからそれ開けてー」


 俺が言うと彩弓は当たり前の様に鞄を持ってきて口を開けて小箱を取り出した。


 「これ?」


 「そうそれそれ。 早く開けてみてよ」


 俺にせかされて彩弓は首を傾げながらリボンを解き箱を空けた。


 「メリークリスマス。 彩弓」


 にっこりと笑いながら言うと彩弓はほろりと涙を流し俺に抱き着いた。


 俺が彩弓に送ったモノ。 それは指輪だった。 シンプルだが光沢のあるプラチナ。 女性ウケするデザイン。


 それを選ぶために昨日俺は後輩と街を練り歩いた。 それを彩弓に見つかり今愛しの彼女に拉致監禁されているのだ。


 それを知った彩弓は謝りながら俺の拘束を解いた。


 「これからも君を愛し続けるよ。 結婚しよう?」


 「喜んで」


 泣きじゃくりぐしゃぐしゃの顔で笑いながら彩弓は頷いた。



 歪みに歪んだ俺等の愛。


 大丈夫だよ、俺が君の愛を受け止めるから。 だから君は幸せそうに俺の隣で笑ってくれ。










 永遠の愛を聖夜に誓おう。 愛してる







 =歪んだ愛とクリスマス 完 =

後で彩弓さん視点とか書きたいなぁと思っています←


此処まで読んで下さりありがとうございます!


良かったら感想などお待ちしてます←

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