II 重なる疑問
ここは田舎である。
民家はたくさんあるし、音もかなり響く。
衝撃音で目覚めたのは自分だけではないだろうし、
その衝撃音が気になった人間も自分だけではないだろう。
なのに事故現場を見に来る人間、つまり野次馬がなぜ自分しかいないのだろう。
あたりを見回す。濃い霧がでている。
...誰も出てこない。それどころか人がいる気配すらない。
本当に周りの住民は気付いていないのだろうか。
仮にそうだったとしても突っ込まれた家の住人まで気付かないのは何が何でもおかしいだろう。
その家の人間の車はすぐそこにある。
会話はしたことがないが、もうだいぶ前からここに住んでいる住人だ。
お互いに顔くらいは知っている。
車があるというところを見ると、まだここの住人はこの家にいる。
様子を見ようと一歩踏み出すと、後方から
ドン!!
という、突っ込んでひしゃげた車を、中から叩くような音がした。
おかしい、あの車には一人しか乗っていなかったはず。
その一人が運転手。さっき見たところ死んでしまっていると思っていたが...
今度は、「ドンドン!!」と、車の中から連打する音が聞こえた。
明らかにあの車の中に生きた人がいる、そう確信した。
がっくりうなだれていたのは事故の衝撃で気絶してしまっていただけなのかもしれない。
しかし呼吸はしていなかったはずだが....。
さらに激しく、「ドンドン!!」と音がする。
もしかすると事故の衝撃でドアのロックが壊れて出られないのかも。
周りに人間が誰もいないのだから、自分が助けるしかない。
すぐにひしゃげた車に向かう。
すると中にいた運転手がしきりにドアを叩いている。
俯いていて顔は見えない。あれだけの出血だ。どこか大怪我をしているはず。
かなり苦しんでいるのだろう。
このドアをなんとかして外さないと運転手を救出できない。
何か使える道具はないか探しに急いで家の中に戻った。
玄関に入り、サンダルを脱いで急いで家の中に上がる。
別にあの運転手との関わりはないし、こんなに必死になって助けなければいけない理由も特にないし、そんな義理もない。が。
やはり目の前で人が生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされて、生きる方に引っ張ることができるのが自分しかいないとわかれば、
どんな出来の悪い人間だとしても助けてやりたくなると思う。
いや自分は別に悪い人間ではないが。




