表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

06,



 夜の買取所には商人が圧倒的に少ない。

 迷宮に潜る者が激減するのだから当然だ。

 雑魚迷宮オイトに入る時も買取所にいたのはたった1人だった。

 いくら活動するものが少ないとはいえ1人では大変ではないのだろうか。

 もちろん護衛となる存在は同行しているだろうが、彼らは護衛であり商人の活動を補助する者達ではない。


 しかしそれは真闇の(ライオネル・)神魔鎧(ブラックモア)とホニャには関係ない。

 素材を買い取ってくれさえすればいいのだから。


 彼らが迷宮から一時引き上げてきた時にも商人は1人だけだった。

 むしろ真闇の(ライオネル・)神魔鎧(ブラックモア)という恐怖と畏怖を周囲に撒き散らす存在が迷宮に入っていってよく逃げなかったものだと感心すべきだろう。

 この真っ黒鎧はすでに昼間大量に素材を引っさげて換金している。その話もすでに広まっているはずなのだから。

 故に迷宮から戻ってくるのは確定事項だ。


 しかしやはりそんな事は真闇の(ライオネル・)神魔鎧(ブラックモア)とホニャには関係ない。


「お預かりします」


 長机に置かれた袋を丁重に扱い、言葉を発した商人。

 真闇の(ライオネル・)神魔鎧(ブラックモア)は意識しようがしまいが恐怖と畏怖を周囲に撒き散らしてしまう。

 誰もが絶句するそんな中でその商人は言葉を発していた。

 それも至って普通に。


「ほぅ……。大したもんだ。これほどの商人がなんでこんな雑魚迷宮の買取所にいるんだ?」


 彼の持ち主であるホニャにしか聞こえない声故にその声は商人には届かない。

 夜でもしっかりと素材の状況を確認出来るように灯された光はライトシャワー(光の祝福)のものではない。灯りの魔導具の光だ。


 その光の下で作業を始めた商人は比較的若いように感じられる。

 恐らく20代後半。

 とてもではないが真闇の(ライオネル・)神魔鎧(ブラックモア)の撒き散らす恐怖と畏怖に耐えられるような経験を積んでいるとは思えない若さだ。


 この世界にはたくさんの種族の人間が存在している。

 そんな数多くの種族には稀に不思議な力を持つ者も存在していはいるが、この商人からそのような力は感じられない。


 淡々と鑑定作業を進める商人を見下ろしながらも真闇の(ライオネル・)神魔鎧(ブラックモア)は楽しくなってきていた。


「数は多いのですが、剥ぎ取りが少々雑です。

 ここで採れる素材ならば問題はないでしょうが、上に行かれるならば剥ぎ取り職の者を雇う事をお奨めしますよ」


 やはり。


 真闇の(ライオネル・)神魔鎧(ブラックモア)は自身の思いに確信を持った。

 この商人は彼等、正確には真闇の(ライオネル・)神魔鎧(ブラックモア)に会う為にここまで来たのだろう。

 この真っ黒鎧はどうしても目立つ。

 そもそも目立たないようにしていないのだから余計目立つ。


 雑魚迷宮にそんな目立つ存在が現れれば、興味を持つものはたくさん出るだろう。

 その1人がこの商人というわけだ。


 しかも同じように迷宮に潜っている者達ではなく、商人が来た。

 真闇の(ライオネル・)神魔鎧(ブラックモア)に金の匂いをかぎつけて来た最初の1人ということだ。


 彼の判断ではもう1日、2日はかかるだろうと思っていた。

 どう見てもこの真っ黒鎧は尋常ではない。故に躊躇する、と。

 だが実際には目の前に最初の1人目が現れている。

 これは彼にとってこの商人に賞賛を送るべきほどの行動力だ。或いはただの考えなしの馬鹿か。


 その見極めを今からしなければいけない。

 しかし彼はまだその打ち合わせをしていない。

 彼の声は持ち主であるホニャにしか聞こえないのだから、交渉するのは必然的にホニャとなるのだ。


 ホニャは確かに魔法の才能は奇跡的だ。

 しかし他は幼女のソレでしかない。何の打ち合わせもなしに海千山千と思われる商人相手に交渉するのは無謀にすぎる。


 故に真闇の(ライオネル・)神魔鎧(ブラックモア)は決断した。

 今回はパス。


「合計で5600ミトゥとなります。よろしいですか?」


 商人が弾き出した金額は昼間に比べるとかなり少ない。

 しかしこれは適正金額ギリギリといえるものだ。どうやら彼を侮り、低く金額を見積もるような馬鹿な真似はしないようだ。


 ギリギリというのもなかなかに曲者だ。

 商人として決して損はせず、しかしこちらにも益を出している、絶妙な金額。


 それだけでも目の前の商人が馬鹿ではなく、賞賛すべき行動力の持ち主であり、海千山千の商人であるということが彼にはわかった。

 逃すにはとてもとても惜しい。しかし機会がこれで終わりという可能性はまずないだろう。

 彼は計画を何度も修正し、今最も最適な行動を実行に移すことにした。


 商人の言葉に厳つい兜を縦に振る。了承の意。


「ではこちらをどうぞ」


 お盆に載って差し出されたのは5600ミトゥ。正確には5000ミトゥコイン、500ミトゥコイン、100ミトゥコインが各それぞれ1枚。


 そして……1枚の折りたたまれた紙。


 疑問や言葉は一切なく、コインと紙を受け取る漆黒よりも尚暗い闇を凝縮したような色をした厳つい鎧。

 同じく商人からも特に返事はない。


 それをずっと見ていた鎧の中の幼女からも特に何も言われることはなかった。今は。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







「グレートシルバーウルフワンの牙2本……か」

「ワン種の中でも高位に位置する魔物だね」


 再び雑魚迷宮オイトの中に戻った真闇の(ライオネル・)神魔鎧(ブラックモア)とホニャは折りたたまれた紙に書かれたクエスト(・・・・)について吟味していた。


 クエストとは、個人または集団からの特別な仕事である。

 その内容は様々だが、大抵の場合迷宮に存在する珍しい魔物の部位の入手となる。


 特別な仕事のためクエストにはとある強制力がある。

 クエストを発行するには専用の魔法を使わなければならず、少なからず金がかかる。

 しかし発生する強制力はクエスト成功時に提示された報酬を間違いなく払うという一点のみ。

 クエストを受けた者にとって利点となるだけであり、発行した側には特に利点にはならない……と思われるだろうが、わざわざ少なくない金額を払って発行し、成功時には間違いなく報酬を払うという誠意を見せることが出来る利点がある。


 これが意外と馬鹿に出来ないものだ。


 クエストを受ける者から信頼を得る事が出来れば次へ繋げ易くなる。

 信頼関係が結べればクエストをわざわざ発行する必要もなくなるし、専属とはいかないまでも有用な関係が結べる。


 クエストとはそういった信頼関係を構築するために用いられる先行投資なのだ。


 しかして真闇の(ライオネル・)神魔鎧(ブラックモア)に持ち掛けられたクエストは雑魚迷宮には決して存在しない、高位の魔物。

 これは商人からの試験であり、挑戦状でもあるのだ。


「さすがは一番乗り。なかなか面白い事をしてくれるじゃねぇか」


 口角を引き上げてあくどい笑みを作ろうとしてやはり出来なかったので心の中でだけ行う。

 しかし周囲に撒き散らす恐怖と畏怖は明らかに増大している。彼の心のうちを表すかのように。


「期限は……特にないみたい、だね」

「まぁ早いことに越した事はないんだろうがな!」

「今のわたしでは……無理、かな」

「だな!」


 しかしながら結局のところこのクエストは今現在の彼等では達成不可能なものだ。

 グレートシルバーウルフワンは中級迷宮でもずっと奥の階層に存在する魔物である。

 ワン種の中でも高位という位置は伊達でも酔狂でもない。

 それだけの強さを持ち、雑魚迷宮とは比べ物にならないほどの難易度を誇っているのだ。


 そんな魔物をクエストの対象とする。


 それだけで真っ黒鎧に向ける関心と評価の高さが伺える。

 しかし雑魚迷宮で狩りをしているという事実とまったくの無名であるという事。

 それが通常設定されるはずの期限が空欄となっていた原因だろう。


 つまりは将来性を買われたのだ。

 それも誰よりも早く行動し、一番乗りで。


 侮る事など決して出来ない海千山千の商人から向けられた期待。


 応えるためには準備がいる。

 準備をするには金がいる。

 金を手に入れるには。


「さぁマイマスター! 狩りの時間だ! にゃっふー!」

「うん!」


 まだまだ夜は始まったばかり。


 漆黒よりも尚暗く、闇を凝縮したような色をした厳つい2メートル半を超える全身鎧とアンデッドとなってしまった幼女は草原で殺戮の宴を再開させた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ