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05,



 スラム街では比較的マシな宿屋の一室。

 そこに置いてある藁が敷き詰められた上にあまり綺麗とはいえないシーツが乗っているだけの簡易なベッドは破損していた。

 その一室を借りた存在の体重に耐えられなかったのだ。


 少し考えれば誰にでもわかるだろう程度の事だったが、まだ多少興奮していた真闇の(ライオネル・)神魔鎧(ブラックモア)の頭にはまったく見事にその辺が欠如していた。


 故の破損。


 幸いにもベッドはとても簡素なものであったので弁償金額は大したものではないだろう。もしかしたら彼の厳つく周囲に撒き散らす様々な成分によりソレもいらないかもしれない。


 しかしベッドを破損させて残っていた興奮は一気に冷めてしまった。

 賢者タイムに突入した真闇の(ライオネル・)神魔鎧(ブラックモア)とは裏腹に未だ口内で魔石を転がしている幸せそうなホニャ。


 そんな対照的な2人は今今後の計画を立てている。


「当面の目標はマイマスターを生き返らせる事だ! それに異存はないだろう?」

「うん」

「しかし必要な魔力は膨大だ。今日頑張った程度では毛ほどの量にもなっていないようだ」

「……そっか……」

「まぁそんなに落ち込むな、マイマスター! オイトは雑魚迷宮! 雑魚迷宮では得られる魔力も雑魚でしかないのだ!」

「じゃあ……強い迷宮に……?」


 雑魚迷宮で頑張っても魔力は毛ほども溜まらない。

 ならば魔力を多く吸収できる強い魔物がいる迷宮にいけばいい。

 当然の結論は8歳の幼女でも導き出せるほど簡単な答えだ。


 しかし悲しいかな。その答えは簡単であるが故に安直だ。


「まぁそうなるが、現状で強い魔物がいる迷宮なんぞに行ったら、例え奇跡の才能を持つマイマスターと素晴らしすぎてみんな黙っちゃう鎧であるオレ様のコンビでも危うい! そう、危ういのだ!」

「……うん……」


 8歳とはいえ、その人生に於いて苦難の道を進んできたホニャにもそれくらいはわかっていた。

 奇跡の才能を有するホニャでも現状使える魔法は初級しかない。

 初級の魔法は本来迷宮の魔物に単独で通用するほどのものではない。

 しかし類稀なる才能がそれを可能としていたが、モノには限度がある。


「一足飛びに行動してもうまくいかないものだ。

 故に準備する。準備! 超! 大事!」

「準備」

「イエス! マイマスター!

 雑魚迷宮は問題ない! となれば準備するものは次の段階へ進むためのものだ!」


 真闇の(ライオネル・)神魔鎧(ブラックモア)の提案は至極当たり前であり、それが故に迷宮初心者には欠けやすいものである。

 大した防具もなしに潜れるような雑魚迷宮が存在するように、迷宮には様々な難易度がある。

 腕試しに雑魚迷宮に入り、楽勝すぎて鼻で笑ってしまう者達は非常に多い。

 そして伸びた鼻は迷宮の難易度を上げた瞬間に大抵へし折れる。死と言う代償と共に。


 雑魚迷宮には大した防具は必要ない。

 せいぜい武器となる物があればよい程度だ。


 しかしそれ以上の迷宮となるとそうはいかない。

 ただの服などという防具としてほとんど意味を為さない物ではあっという間に傷だらけになり失血死するだろう。

 もちろん個人差もある。だが大半の死亡原因は失血死である。


 雑魚迷宮が雑魚迷宮と呼ばれるのは何も魔物が弱いだけではない。

 見通しがよく、ただの草しか生えていない草原もその一因を担っている。


 つまりは迷宮自体が優しい(・・・)のだ。


 雑魚迷宮の一段階上の難易度である初級迷宮と呼ばれる難易度の迷宮は優しくない(・・・・・)

 魔物の強さも上がり、迷宮自体も牙を剥く。

 それは罠であったり、迷宮の構造であったり、迷宮の特性であったりと様々だ。


 その中でも死亡原因、断トツ1位を作り上げているのが、迷宮の特性だ。


 見渡しの良さとただの草ばかりの雑魚迷宮とは違い、初級迷宮の大半は洞窟型である。

 洞窟型の迷宮は足場が悪く、至る所に尖った石や鍾乳石が突き出ている。

 ただでさえ足場が悪い初級迷宮で強さの上がった魔物と戦わなければならない。

 それは容易く転倒を招き、尖った石や鍾乳石が突き刺さる。

 運が悪ければそれだけでも死亡するが大半はそれほど運が悪くない。故に生き残り、魔物に手傷を増やされながらも勝利し……失血死する。


 服ではないもう少しマシな防具であれば石や鍾乳石が当たっても多少は守られるだろう。

 予め止血薬などの薬や傷を塞げる軟膏などを準備していれば死ぬ事はないだろう。


 だがこれらは雑魚迷宮では一切必要ないものだ。


 鼻が高く伸びた勘違いした者達は準備をしない。しても足りない。

 それが故に死んでいく。


 迷宮内では自己責任。

 資源を持って帰ってこなければ街は成り立たないとはいえ、迷宮に挑む者達は吐いて捨てるほどいる。

 それこそある程度の淘汰が必要なほどに。


 故に積極的に生存戦略を施すベテランは少ない。

 将来のライバルを作り出す必要はないのだ。わざわざ作らなくても吐いて捨てるほどいるのだから自然と次々ライバルは製造されていく。


「というわけでまずは準備だ!

 準備のための資金集めだ! 何をするにも金だ! 金が必要なのだ、マイマスター!」

「はい!」


 実に世知辛い世の中を嘆きつつも真っ黒鎧は高らかに宣言する。

 その声は自身の中にいる幼女にしか聞こえなくても彼は意に介さない。

 元気に返事をした幼女の態度で実に満足だからだ。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆







 アンデッドとなったホニャには休息も睡眠も必要ない。

 休息を必要とする肉体も脳もないのだから当然だ。


 真闇の(ライオネル・)神魔鎧(ブラックモア)にも休息も睡眠も必要ない。

 彼は鎧のなのだから当然だ。


 しかして夜という時間は暗闇が支配する空間であり、それを打ち破るには金がいる。


 光を発する魔導具がある。


 しかし魔導具には例外なく燃料となる魔石が必要であり、魔石は迷宮に潜らないならば入手するのに金が必要なのだ。

 松明など魔導具よりも安価に光を得る手段もある。しかし燃やすまきも無料ではない。


 結局のところ、つまりは金がいる。


 スラム街は金がない者達が大半を占める領域だ。

 故に金が必要となる夜は大半は寝る時間でしかない。

 その大半には様々な物資を販売している商人も当然含まれる。彼らが金にならない事を積極的に行う事は稀である。

 商売敵が少ない夜に販売を行っても、それを買う者がいなければ意味をなさない。それどころか赤字だ。


 しかし準備には確かに物資を買うという行動も含まれているが、まずは金である。

 夜であろうと迷宮は活動している。

 入り口が閉ざされることはない。しかし積極的に夜行動するものは少ない。

 先に述べたように明かりには金がいるからだ。


 では金がいらないとしたら?


 それでも視界が制限されるために見通しが良い雑魚迷宮でも難易度が多少上がるために訪れる人々の量は激減する。


 では難易度が多少上がっても問題ないとしたら?


 それが今の真闇の(ライオネル・)神魔鎧(ブラックモア)とホニャ達だった。


「ホコタテワニニの前歯ゲットだぜー!」


 体長1メートル程度で矛と盾を持った2足歩行(・・・・)のワニ――ホコタテワニニは胴体に大きな穴を空けて絶命している。

 その剥ぎ取り部位である大きな前歯をナイフでガリガリ切り取った夜の闇の中でも尚暗い鎧が勝利の雄叫びを上げる。


 ホコタテワニニのこれ見よがしな矛と盾は剥ぎ取り部位ではない。

 ミニドッグワンに引き続き例外的な剥ぎ取り相手なのだ。

 攻撃方法も矛で突いて来るわけでもなく、噛み付き限定。矛と盾は偽装でしかないのだ。


 しかしてホニャのライトバレット(光の弾丸)にかかれば一撃である。


 特段苦戦も何もなく彼らの夜の狩りは続いているが、夜なのに彼らの周囲は明るい。

 これは別に草原に降り注ぐ擬似的な月の光によるものではなく、当然ながら真闇の(ライオネル・)神魔鎧(ブラックモア)の特性でもない。


 ホニャの魔法による効果だ。


 ホニャは初級の魔法を修めている。

 とはいっても魔法には詳細な区分が存在し、属性と呼ばれるその区分は生まれたその時から決まっている。


 ホニャの属性は光。


 光の属性の魔法の初級を全て修めているのだ。

 光の属性の得意とするところは癒しと祝福。

 逆に苦手とするところは破壊と呪い。


 周囲を明るく照らす効果はライトシャワー(光の祝福)によるものだ。

 効果は簡単で数時間周囲を明るく照らすことが出来る。

 それだけではあるが、暗闇という空間では絶大に近い効果を発揮する。

 それだけ闇というものは恐ろしいのだ。


「見ろ! マイマスター! 昼間にはいなかったコウモリだ! でかい!」

「アレはブラックバッドバットだよ。暗闇の状態異常を仕掛けてくるから厄介なヤツ。

 でもライトシャワー(光の祝福)の光の中ならソレも出来ないから安心だよ」

「さすがマイマスターだな! すばらすぃ!」

「えへへ」


 夜限定で姿を見せる魔物は珍しくない。

 むしろ昼と夜どちらにも姿を見せる魔物の方が少ないくらいなのだ。

 迷宮という不可思議な空間でも特に顕著なのがこの魔物の入れ替わりである。

 夜と昼ではまったく別の顔を見せるのが迷宮であり、その境界となる入れ替わりの時間は奇妙な時間となる。


 今までどれほど傷を負っても決して逃げる事無く向かって来ていた魔物がその時間になると突如脱兎の如く逃げるのである。

 その時間だけはまったく狩りにならないほどに魔物は逃げ、そして入れ替わる。


 迷宮とは摩訶不思議な空間なのだ。


「ブラックバッドバットの皮膜ゲットだぜ!」

「そろそろ袋もいっぱいだよ?」

「そうだな! 一旦換金に行かねばなるまい! しかしすぐに袋がいっぱいになってしまうな。もう少し大きな袋を買うべきか……」

「うん、それか荷物持ちを雇う?」

「ここで、か……?」


 迷宮では魔物から剥ぎ取りし、素材を持ち帰らなくてはならない。

 剥ぎ取りを続ければ素材はかさばり、荷物は多くなる。

 だが荷物持ちを雇えばその分継続して狩りが行える。


 今いる迷宮は雑魚迷宮であり、大した準備も必要ないため荷物持ちを雇うなど普通はありえない。荷物持ちだって無料ではないのだ。

 そのため真っ黒鎧は思案する。

 荷物持ちを雇うならもっと上の迷宮に潜るようになってからだろう、と。


 雑魚迷宮では雑魚という名に相応しく、凄まじく広いが1フロアしかないので今いる草原で全てだ。

 だが難易度が上がった迷宮ではそうではなくなる。

 そうなると通常は日帰りなどにはならず、食料や野営の道具など様々な物資が必要となり荷物が多くなる。

 必然的に戦闘を担当する者とは別に荷物を担ぐ者が必要となってくる。

 何も素材を運ばせるだけが荷物持ちではない。彼らの大半は料理の技術なども持ち合わせており、戦闘以外で貢献する事ができるようになっている。

 そうでなければ厳しい荷物持ち業界で生き抜くことは難しい。彼らも色々大変なのだ。


 だが正直に言えば真闇の(ライオネル・)神魔鎧(ブラックモア)とホニャには本当に素材と言う荷物を持ってくれるだけで問題ない。

 贅沢を言えば剥ぎ取りの腕があれば重畳か。


 さらに……。


「オレ様の見た目にびびらず雇われてくれるやつがいるだろうか?」

「ぁ……ぅ……」


 それは非常に切実で、将来必ず問題となるだろう確定したとても悲しい問題でもあった。



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