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第二章『村の秘密』

 キクリは村長の家にいた。今回の事件の報告のためだ。

「では、始めから説明させていただきます」

重々しい空気の中でキクリは村長に言う。村長はそれを承諾(しょうだく)する。

「うむ…頼む」

そして、今回の事件の発端(ほったん)が明らかになる。

「我々『自由なる騎士団』はこの村…阿弥陀市(あみだし)の農村の村長から依頼を受けました。あなたは『村では災厄が起こっている。助けてほしい』といい、私たちに食料と引き換えに契約しました。その災厄というものは、村人が消える。俗にいう神隠しというものに()っているというものでした。ここまでは、よろしいですか?」

概要(がいよう)の説明を終え、村長に正誤(せいご)の判断をさせる。村長は静かにうなずいた。それを見て、キクリは続ける。

「この神隠しには周期があり、一定の日にちで村人が消えました。我々はアリバイのないものを全員容疑者にし、ある情報を流しました。外に出ると神隠しに遭うので、しばらくの間、外に出ないでほしい、と。もちろん家の中にいても、消えた人はいました。しかしそれを知ってるのは、村長と我々のみ。そして外に出た人はもちろん、怪しいということになります。いや、ほぼ確実に犯人でしょう。周期通りに人をさらわなければ、いけない理由があると私は考えたのです。そして、その情報を流した後、2人が外に出ました。一人は記憶喪失でこの村に拾われた有馬」

「有馬…そういう名前でしたか」

「ええ。彼を容疑者にして、殺そうとしましたが失敗。そして、彼は犯人ではありませんでした。犯人はもう一人だったのです。その犯人の名は…」

平田(ひらた)…じゃろう」

村長が続きを言った。

「ええ。平田はあなたの側近でもっとも次の村長候補で有力だった男です。彼は明美(あけみ)さんを誘拐(ゆうかい)し、村から出て、この近くで川が流れている唯一の山に逃げたという情報がありました。現在明美さんの奪還(だっかん)は成功し、しっかりと家に送り届けましたので、安心してください。しかし、明美さん以外はすでに…」

「そうか…」

村長は天井を見上げる。いくつもの木の柱が家を支えていた。

「犯人もわかり、これからは犯人との『戦い』になりますが、村長…あなたは何かを隠してませんか?」

「…なぜじゃ?」

「犯人の動機がまだわかりません。犯人が平田であるということに関して、何か知っているようでした。そして、依頼内容を聞いた時から、ある推測がありました。その推測が正しければ、この事件の元はもっと前にあるはずなのです」

村長はキクリを見据(みす)える。そこには可愛さと美しさが両立しているような少女がいた。その黒い瞳は黒真珠のような輝きを放っているようにも見えた。そして、その目には村長のすべてを見透かしているような不気味さもあった。

「…なるほど。すみませんが、(わし)についてきてくだされ。そこですべてがわかるはずじゃ」

「わかりました」

村長は立ち上がり、家の奥に進む。キクリはその後ろについていった。そして、おおよそキクリの予測が当たっていたことを知る。



 夢。有馬(ありま)はここが夢の中だということを知っていた。黒い空間。そこには光があった。たくさんの光があるにも関わらず、背景が黒かった。その光の一つ一つが有馬の記憶であり、存在そのものでもあった。有馬は手を伸ばす。光に触れた瞬間、少しだけ思い出した。それは自我(じが)が目覚め始めた時、子供のころの記憶。世界大戦の前の時代であった。


 過去   2000年2月

 「こっちだ!こっちこっち!」男の子が走る。

「待てよ!誰が鬼なんだ!?」男の子が走りながら、聞く。

「有馬に決まってるだろ!」男の子が答える。

そして、有馬は目を閉じた。

「1!…2!」数を数える。

10秒たつと、走り出す。

それは…遠い記憶。遠い遠い、はるか昔にも感じるほどの遠い記憶。平和な日常。平凡な生活。子供らしい遊びで楽しんでいた有馬。そして、走馬灯(そうまとう)が終わった。



 現在

有馬は目を覚ました。キクリに負けた後、ベッドに運ばれ、少しばかり介抱(かいほう)されたのだ。そんなことを知る(よし)もない有馬はベッドから体を起こす。

「…いったい俺は…?」

「リーダーに運ばれてきたんだよ」

有馬は驚き、声が聞こえた方に目を向ける。そこには少年が立っていた。有馬は少年に尋ねる。

「…あんたは?」

少年は笑顔で答える。

「僕の名前は純。丸山純(まるやまじゅん)。よろしくね、有馬さん」

急に名前を呼ばれ、戸惑(とまど)う有馬。

「…なんで俺の名前を知ってんだ?」

「リーダーから、キクリから聞いてるからね。それに兄さんを倒してた時の勝負も見てたし」

「兄さん…だと」

有馬は目を()らして見た。よくよく見ると、瞬の面影(おもかげ)がある。

「まさか…(しゅん)の弟か!?」

「そうだよ。双子の弟」

「どう見ても、お前の方が幼いだろ」

有馬は不思議に思っていた。それは小さな違和感(いわかん)。しかし、有馬にはとても気になっていた。有馬から見れば、瞬は同じぐらいの年齢に見えた。しかし目の前の少年は瞬より幼く、有馬よりも確実に年下のような姿だった。そして気配にも違和感があった。キクリとこの純という少年の気配は年相応の気配ではなく、まるで様子見をしている獣のような気配。今は様子を見て、いつでも殺せるぞと脅されているような、怖いと感じるほどの気配があった。キクリは対峙(たいじ)した時に、その気配を放っていたが、この少年からは常にその気配がもれていた。

「そうだね。僕はとある事情で歳を取らないんだ」

「とある事情?」

「そのことはまだ話せないな」

純は苦笑(くしょう)交じり()で言った。有馬は気配についてきく。

「わかった。まぁ、そのことは別に良いとして……お前のその気配…なんとかならねぇか?こっちはまったく気楽(きらく)に話せないんだが」

「ごめんなさい。あなたが気になっちゃって。僕はあなたと戦いたい」

「…なるほど。まぁ、今はケガしてるから、またの機会でいいか?」

「はい!ああ…楽しみだな」

純はかなり嬉しそうだ。しかし、有馬は別のことが気にかかっていた。この事件の真相…それがとても気になっていた。



村長は立ち止った。そこは村長の家の地下の…さらに奥。洞窟(どうくつ)みたいな薄暗(うすぐら)い場所だった。先には墓があった。

「誰のお墓なんですか?」

「儂の父…佐田五条(さだごじょう)の墓じゃ」

現村長の佐田清二(さだせいじ)の父親の墓があった。

「これから儂が話すことは…とても信じられん話になるだろう。しかし、事実じゃ…儂はその光景をしっかり覚えておる」

「はい」

キクリが返事をする。そして村長は語る。この村の過去の話を…。



半世紀前…村があった。その村は2代目村長の佐田五条が管理している村だった。その村は人が少なく、また土地も悪かった。畑を作ろうにも、土地がやせ細り、良い質の野菜はできなかった。五条は毎日朝昼晩と祈りを欠かさず(おこな)った。祈りは村の繁栄(はんえい)と土地を(ゆた)かにすること。しかし、祈りは(むな)しく、5年が過ぎた。そして、やっと祈りは叶った。

五条の夢に神様が出てきた。その夢は豊穣(ほうじょう)(つかさど)る神が、土地を豊かにするという夢。朝起きると、本当に土地が生き生きとしていた。前までの土と比べ物にならないほど、触っただけで違いがわかるほど、質が良くなったのだ。そして、五条は祈り続けた。感謝を込めて。しかし、土地が豊かになるのは一日だけ。次の日はまた悪くなっていた。一日だけでは野菜は育たない。なんとか土地の豊かさを保つ方法を神に聞いた。神は言った。供物を捧げよ、と。次の日から、村長は寺づくりに励み、供物を捧げるようにした。貴重な食料、衣服、土地。さまざまな供物を捧げたが、結局保つことはできなかった。

1か月した頃、村人が一人消えた。五条は探した。村人全員が探した。そして、唯一川が流れている山の中腹で…見つけた。村人たちは絶句した。中には涙を流している村人もいた。娘の親子は壊れた。娘は生きていた。しかし…言葉では言い表せない姿であった。村長は何が起きたか理解できなかった。その時、村長の頭の中で声が響いた。豊穣の神からだった。これが供物…これから若い女子を1か月に一度、生贄(いけにえ)にしろ、と。五条は怒りに震えた。その怒りはその神、そして自分に向けてのものだった。祈りは間違いだったと。あれは神ではなかった。悪魔だったのだ。



   現代

「悪魔…ですか」

キクリは村長に聞いた。

「ああ…そして、どうするか五条は考えた。その結果、神はあてにしない。だから自分が神になろうとした」

その言葉でキクリはすべてを理解したようだった。

「…なるほど。悪魔は契約を第一とする。だから、その生贄を捧げなければ、村全体が襲われる。ならその悪魔たちを上回る力を得るしかない。とすると、神しか思い浮かばない」

「そういうことです。詳しいですな?」

「いろいろ…縁がありましてね。そして、その墓は神をめざし、近づいた聖者の墓ですね」

「そうです。儂はその意思を受け継ごうと、このことを隠してきました。この村は結界によって護られている。悪魔たちは村に侵入できない。だから、村の者がさらって外に出さなければ、こんなことにはならない」

「…それが犯人、ですね。平田はこの村で一番村長に近い地位にあった。どこかでこの悪魔というものを知っても、おかしくはない」

「…儂は父の行為を無駄にしてしまった。父は自分が聖者になり、この土地を豊かにした。その神聖なる行為を儂は…」

「違いますよ」

村長の言葉を否定するキクリ。そのことに村長は驚いた。

「…違うじゃと?」

その問いにキクリは頷いた。そして、笑いもせず、真顔で言った。

「ええ、彼は愚かだった。聖者、なんて人間はこの世にはいません。人はどうしようもなく下衆(げす)で、どうしようもなく優しい生き物なのです。だからこそ、彼はその通りに生きるべきだった。自分を聖者という生贄にするなんて、やはり愚かだとしか…」

「貴様!!」

村長は怒る。キクリの胸倉をつかんだ。それでも、キクリは続ける。

「人は受け継ぎ、成長しなければなりません。認めなさい。あなたたちは村を守るだけで、戦おうとはしなかった。いつでも人は戦わなければならないということを知りなさい」

その言葉はまるで教師が生徒を叱るような言葉だった。村長はキクリの目を見た。見てしまった。その目は深い深い悲しみが見え隠れしていた。

「……あなたは…」

「私は騎士団にリーダーです。あなたの依頼通り、この事件を終わらせましょう。私のすべてを賭けて」

キクリは村長の手を振り払い、村長の家を後にした。これから起こる戦いはキクリ一人で終わらせる。おそらく、すぐに終わってしまうだろう。キクリの両目の色が変わり始めた。その色は怒りと悲しみを表しているようにも、思えた。



  半世紀前

 五条は地下に籠った。次の村長は自身の息子、清二を選び、自分はこの村を守ろうとした。自分だけではあの悪魔たちには勝てない。なら、次の世代が悪魔たちに勝てるように、土台を作ってやらねばならん。五条は次の世代に託したのだ。村の未来を。そして、願った。このことを悪しき心を持つものに知られないことを。五条は自分の目に尖った石で突き刺した。何度も、何度も…。聖者という生贄は神聖でなければならない。視界という(けが)れたものを見てしまう目を潰したのだ。あとはただ時を待つのみ。彼は静かに待ち続けた。村は近いうちに結界が生まれる。結界が生まれるまで、五条は待つ。そして…死してなお、この村を立て直し、悪魔と戦える者を待ったのだ。

ついに、村の事件の全貌がわかりました。もう少し作りこんだ話であれば、もっとわかりやすく書けたかもしれません。多少わかりづらいところは申し訳ありません。まだまだ続かせる予定なので、よろしくお願いします。

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