そして当日は
さて、当日は一直と恭のお話しです。
バレンタインの朝。私は朝食のデザートに、那波に教えてもらいながら作ったチョコレートケーキを出した。
「へえ?これを恭が作ったの?ありがたくいただきます……うん、美味しいね」
「エヘヘ、ありがとう。私だってやれば出来るでしょ?」
「なんで?恭は料理嫌いなだけで、ヘタじゃないし」
えっへん!そうなのよ。料理はただ嫌いってだけで、出来ないわけじゃないのよ、実は。
那波とルームシェアしてる時も、朝ごはんは私が作ってたしね。
というのは、那波はどうも朝はちょっぴり苦手で、あの性格と同じく、のんびりしてしまう方なんだって。私は朝はパパッと目が覚めて、シュタッと起きて、とっとと用意してって言うのが出来るから、朝ごはんはいつも私の担当だった。
今朝もトーストにサラダにスクランブルエッグとベーコン。珈琲になぜか味噌汁。
そして、いつもはつかないけど今日は特別にスイーツを。那波が某有名菓子店のチョコレートケーキを研究して作り上げたレシピを使ったから、美味しいのは確実。だから、美味しいよって食べてくれている姿を見ると…
バレンタイン一番乗りってちょっと嬉しいかも~。
と、にやけてる私を怪訝そうに見ていた一直さんが、
「今日は車で出勤しようか」
と言い出した。
「え?なんで?」
今度は私がほへっとした顔をして見ていたのだろう。吹き出しそうになりながら言う。
「バレンタインってさ、いろんな風習があるけど、日頃の感謝の気持ちを贈る日だっていう気がしない? だからさ、今日は帰りにドライブに連れてってあげる。ちょっとした小旅行気分で。それに明日は休みだし」
そうなのだ。今年のバレンタインはちょうど週末。
うわー嬉しいな。ドライブも久しぶりだし、けっこう好きなのよね。
「じゃあ、私にも運転させてね!」
とお願いして、その日は渋滞を考慮して、少し早めに家を出たのだった。
さすがに我が「ソラ・コーポレーション」。
今年のバレンタインもチョコがハンパじゃない。私は、そんなに仕事が忙しくなかったので、会社便などで贈られてきた荷物を仕分けしていた。
ふむふむ。
今年は一直さん宛が少なめ。よーしよし、昨日の社長の策略が、もう功を奏してる。
あ、でも、アスラ宛が増えてる。まだ那波と婚約したこと知らない子たちね。
これは加福さん。こっちは末山さん。やる気いっぱい出して下さいよー。
あ、これは12階の、とか。
こんなこと考えてると、なかなか楽しいのよね、仕分けも。
そして、あっという間に今日も1日が終わり。
お昼前から一直さんに「今日は定時のチャイムとともに消えるからね」と言われていたので、定時30秒ほど前に机を片付け終え。
そして……
私は制服から私服に早着替えコンテストって言うのがあったら、間違いなく優勝するタイムで着替えを終えて、終業3分後にはすでに、一直さんに手を引かれて、全力疾走して地下駐車場に到着していた。
「ハア…ハア……あっははは、こんなに必死で走ったのいつぶりだろ、もう…一直さん、ちょっと、ひ・ひどくない?」
「ハハハ、大丈夫だよ。社長には了承とってあるし」
「!」
一直さんってば、確信犯~。
1階のエレベーターホールに降りると、お待ちかねしてる人たちがたくさんいるから、スルーして一気に地下まで降りる作戦だったの。
で、その理由が「クリスマスに恭を泣かせちゃったからね」って。
あ。
気にしてくれてたんだ一直さん。
ありがとう……
そうして今、車はベイサイドへ向かっている。
港の上にかかる橋を通る前、一直さんは通行所のようなところを通って、なにやら受け取っていた。
不思議に思いながらそのまま乗っていると、橋の真ん中あたりですうーっと車が止まる。
「え?一直さん!こんなところで止めちゃダメよ!」
私は思わず言ってしまってから、でも外を見ると、他にも何台か同じように止まっている車があるのだ。
「あのね、今日は抽選で100台に限り、10分間だけここに駐車出来るんだよ。ちょっと面白そうだから応募しておいたら、あたっちゃったんだよね」
「そうなの?!」
さすが一直さん、100台にあたるなんて~。
でも、車を降りて、ベイコーストブリッジから眺める夜景は最高だった。高所恐怖症気味の私は、足下に海が見えて、フルフルと震えちゃったけどね。
そんな私を笑って見ながら、怖くないようにと肩を抱いて、それでも10分間を充分楽しんだのだった。
そしてね。
思った通り、一直さんは港にそびえるホテルに部屋を予約してくれていた。
港が見渡せる上階フロア。
ふと見下ろすと、この前、那波の誕生日に花火を上げてもらった埠頭も見える。なんだか可笑しくてなつかしくて。フフッと笑ってしまった。
さて、本日のメインイベント。
車を運転するから、家に帰ってからと思っていたチョコを取り出す。
珍しくワインが入ったボンボンショコラだ。
「今日はありがとう。お礼に」
そう言って差し出すと、
「あれ?恭が食べさせてくれるんじゃないの?」
とか言うから。
もう、きっとそうくるんじゃないかと思った私は、えーい!と、勇気を振り絞って?
そのひとつを口にくわえると、一直さんに突撃?していったのだった。
「HAPPY VALENTINE ! 」
了
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
いろんな思いのこもるバレンタイン。
ちょこっと遊んでしまいました。
幸せそうな一直と恭を見て、ほっこりして頂ければ幸いです。