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その前日のおはなし

 毎年この時期の一直さんは、とてつもなくブルーになる。

 どうしてかって言うとね。


「ハッピーバースデー、いちなお~。うっふふーまたまたやってきましたねー」

「うるさい」

 そうなのだ、なんと一直さんの誕生日は2月13日。

 あの、製菓会社が始めたという、女性から男性にチョコを送る日の1日前。なので毎年、各方面のきれいどころからの贈り物がハンパじゃない。お誕生日に、スタイリッシュな、もしくはハッとするような贈り物をして気を引いて、そのあとチョコで告白よ!とまあ、気合いが入りまくるらしい。とにかくお誕生日の一直さんのデスクには、どんどんプレゼントの箱が積み上がっていく…と言うのが去年まで。

 今年は結婚したから大丈夫よねー、とは、2ヶ月前のクリスマスとやらの経験からしてみると、とても言えないだろうな~。

 それで、気の弱い?私は、プレゼントやチョコを贈らない方が良いのかしら?などと、気を回しすぎそうになり、いかんいかん!また勝手に悪い方に考えて、って言われちゃう、と、先月のおわりに一直さんに聞いてみた。




「ねえ、一直さん。バースデープレゼントなんだけど…」

「ん?恭がいいな」

 ボンッ!(真っ赤になる音。久々だわ)

 即答ですか?しかも、わ・。私?

「あの…わたしならいつでも…」

 すると一直さんは、極上の微笑みを見せて、

「そう?じゃあ今すぐでもいい?」

 と、結局その日は聞き出せなくなってしまいました。


 次の日。

「ねえ、一直さん。今さらなんだけど、バレンタインにチョコ贈ってもいい?」

「え?ほんと?嬉しいな。恭は俺に義理チョコすらくれたことないよね?でも、他の人には義理チョコ配ってたじゃない。なんでかなーって実は悔しかったんだよね」

「え?あ、ごめんなさい」

 そう。

 毎年バレンタインには義理チョコ配るんだけど、一直さんはじめ、机の上にわんさとチョコが乗るような、イイ男ファンクラブのメンバーには贈らないと決めてたの。

 だって、あんなにたくさん貰ってるんだから、義理なんていらないわよねー、という理由から。去年はお付き合いしてたけど、あんなに高級なのいっぱい貰ってるから、私なんかから贈らない方がいいわよねって言う気の弱い?理由で。

 あ、だから一直さん、去年のバレンタインはいつにも増して不機嫌だったんだ。ごめんね。

 そんなふうに説明すると、一直さんは「ああ、そうなんだ」と、納得してくれたんだけど。そのあと、ちょっといたずらっぽい顔で、

「じゃあ、はじめていただくチョコには、すごいおまけがついててくれると嬉しいんだけどなー」

「すごいおまけって」

「もちろん、恭」

 またまたボンッと真っ赤になって。あたふたすると学習能力がゼロになる私は、しょうこりもなく言ってしまうのよね。

「あの…だからわたしならいつでも…」

「そう?じゃあいますぐ」

 そしてまたどんなチョコが良いのか聞き出せなくなってしまったのだ。




 と言うわけで、バースデー当日の今日。一直さんはちょっとビリビリしてる。それがいきなり最高潮になるできごとが朝一からあった。

「おはようございます」

 あら、なんでまた?

 現れたのはデラルドさん。前に私に告白して、ここを魔の13階にしたのは知るとおり。でも、ルエラさんから聞いたところによると、デラルドさんの狙いは私じゃなくて、どうも悪魔が出て来たときの一直さんらしい。

 そのデラルドさんは、迷うことなく一直さんのデスクに向かうと、スーツのポケットから何やら書類を取り出し、

「お誕生日おめでとうございます。プレゼントです」

 と一直さんに渡す。一直さんがそれをひとめ見たとたん、

「ひえっ」

 あちこちから恐怖の叫び声。ええっ!なに?一直さんの殺気があたりを覆い尽くし、13階が、また魔の空間になった!いったいどうしたの?


 わけがわからずにいると、甚大が怒ったように言いだした。

「恭!あんた奥さんなんでしょ。なんとかしなさい!」

 なんとかしなさいって言われても。私だって怖いわよ!

 でも、仕方がないので一直さんのデスクまでたどり着き、ものすごく恥ずかしかったけど、この際手段は選べないと、えいやっと一直さんに抱きついて言う。

「一直さん。殺気止めて、お願い」

 すると、すっとやむ殺気。

 はあー良かった。えらいぞ、私。

「恭?ごめん。怖かったね」

 言いながらぎゅうっと抱きしめ返してくれる。


 でもね、その手元をのぞき込んで見たものは…。な、なにこれ!一直さんが彼から受け取っていたのはなんと、離婚届。

 私は振り向きざまに叫ぶ。

「デラルド!てめえ!」

 あ。

 おもわず口に手をあてる。あまりの出来事に我を忘れちゃったわ。てめえ、なんてはしたない。でも、でも!

「なんなのこれは?」

 私も思いっきり殺気を出して言ってやる。こんな失礼なことしてたなんて、一直さんを止めるんじゃなかったわ。

「……ジョークですよ、ジョーク」

 デラルドさんは、驚いたような顔で私をまじまじと見返しながら言う。いつもなら打てば響くように返事が返ってくるのに、ちょっと遅れたしね。

「?」

「いやはや、やはり貴女は面白い人だ。私をてめえ呼ばわりですか。私の関心が貴女にも向くはずだ」

「あらそう、それはどうも。でも残念でした。私は一生かけて一直さんに貞操を誓ったの。だから彼はこれからの人生で、ただひとり私を自由にできる人なの」

 すると今度は、私ではなく一直さんをまじまじと見て、さも楽しそうに笑い出す。

 なんだろう、ふと一直さんの方を振りかえると、珍しい、一直さんが少し赤くなっている。訳がわからず首を傾げていると、

「ありがとう、恭。いつも恥ずかしがってあんまり言葉にしてくれないからね、恭は。今のはものすごく嬉しいバースデープレゼントだよ」

 そうやって面はゆそうに微笑む。わあー、こんな顔もするのね一直さんって。

 と、見とれている場合じゃない。


「まあ冗談はこれくらいにしておきましょう。それは好きにお使い下さい」

 デラルドさんが一直さんの持つ用紙を指さして言うと、

「ああ、好きにさせてもらう」

 そう言って一直さんは離婚届をビリビリに破いてしまった。

「おやおや。では、これが本当のバースデープレゼントです」

 口の端を持ち上げたデラルドさんは、またスーツのポケットから書類を取り出して一直さんに渡した。一直さんは嫌そうにそれを受け取って開いて見ていたが、ものすごく驚いた様子でデラルドさんを見返した。

「これは?」

「言ったでしょう?バースデープレゼントです。ですが、私からではなく」

 そう言って出入り口の方を振りかえると、言わずと知れた濃い~社長がお目見えする。

「いえーい!デラルドー、あれ渡してくれたー?」

「はい」

「うんうん、ありがとねー。あ、一直くん、それさ、俺と空ちゃんからの企画書。遠慮せずに受け取ってよねー」


 何だろう。ちょっと気になったので覗き込んでいると、一直さんが「はい」と渡してくれた。私も読んでいいのかな。えーと、企画書?


 それは一直さん宛の仕事依頼だった。しかも期限は本日の終業まで。そして驚いたことに、補佐が今日一日は離れずに仕事を手伝うこと、とある。でね、その補佐のところには[手塚 恭]、なんと私が指名されている!

「なななんですか?これ」

 びっくりして地渡社長に問いかけると、親指を立てた社長は嬉しそうに言う。

「ちょーっとね、今度うちでさ、夫婦用の企画すすめようと思ってねー。ラヴラヴの夫婦に考えて貰いたいって言ったら、じゃあうってつけのがいるよって、空ちゃんが」

 そこへ自分の仕事ブースから手塚社長がやってきた。


「ああ、一直くん、蔵木さん、驚かせてごめん。もう、まだ時間早いじゃない地渡。…えーとあのさ、今日一日は2人で、そこのデスクで、この仕事してもらうよ~。だ・か・ら、一直くんのデスクは本日休業~」

 そう言ってちょっといたずらっ子のような顔をした手塚社長は、一直さんのブースへ行くと、どこから持って来たのかデカデカと「本日休業」と書いた仕切りでデスクにふたをしてしまう。一直さんと私は唖然としてその様子を見ているしかない。


「これでよしっと。もうこれでここにはプレゼント置けないよね~。あのさ、一直くん毎年この時期の2日ほど仕事がはかどらないでしょ。まあ他のイイ男ファンクラブの面々もだけど、彼らは1日だけだし。それに加福かふくくんとか、末山まつやまくんとかは、チョコとか貰うとかえってやる気出すしね」

 だーかーらー、とか言って社長は、

「今日は他の社の子に意地悪。なーんてさ、違うよ。本当に君たちにうってつけだもん、この企画。だから引き受けてよね」

「はい」

「あ、はい…」


 なんとまあ、2人の社長の計らい?で、今日一日、一直さんと一緒に夫婦企画とやらのお仕事をすることになってしまった。


 実はバレンタインのこの時期は、手塚社長が言っていた通り、やたらと他社の女子は出入りするし、贈り物も多くて仕分けをしなきゃならないから、仕事に差し障りが出る事もあるくらいなのだ。

 どうもうちの会社は、けっこうそういうのに理解?があると思われているらしい。

 でも、仕事中にやってきて用事が終わってもなかなか帰らないとか、さすがに目に余る子も出て来たので、社長もどうにかしなきゃと思っていたらしい。

 で、バレンタインはまあ、それでやる気出す人もいるから大目に見て、一直さんにお誕生日くらいはちゃんと仕事させてあげたいから、って。

 けれど、一直さんと私が一日一緒に仕事したくらいで効果あるのかしら。どう考えてもないと思うけど。

 と言うのは私の浅はかな考えだったらしい。社長の狙い通り、今日やってきた一直さんハンター?たちは、仕事する私たちを見て、ほとんどがすごすごと引き下がっていったらしい。

 らしい、というのは何故かって?


「これはどうかと思いますけど」

「ふうん?何でそう思うの?」

「これじゃあ、あんまりにも男性、いえ、夫にしかメリットないじゃありませんか!もっと女性側からも考慮してもらわないと」

「うーん、でも俺は女じゃないし。意見があるなら言って?」

「!、じゃあ言います!」

 私は仕事になると、相手が愛しの一直さんだろうが何だろうが容赦ない。手を抜くのなんてまっぴらだもの。

 一直さんも同じだから、ふたりの意見が食い違うこともしばしば。なので、こんなやりとりがしょっちゅうある。

 でもなんでかなー、一直さんってばなんだかすごく楽しそうだから余計に熱くなるのよね。なによ、もっと真剣に向き合って!


 白熱すると私はまわりが見えなくなるので、一直さん目当てでやってきた女子が何人か、ふたりの熱い?ディスカッションを見て、負けた…と肩を落として帰って行かれたらしい。

 それでもプレゼント渡そうとする強者もやはりいる。

 でも、そんな方には他にいるイイ男たち(社長が言ってた加福さんとか、末山さんとか…そのほかに12階にもいるし)が、その女性落としテクニック?を使ってお相手してくれたり。

 ちょっとショックを受けていたところに、彼らの優しい言葉。

 すっかりぽうっとなって乗り替えた方もいらっしゃったみたい。


 と言うのを終業後、甚大から教えてもらったのだ。

「ホント、社長ったら策士なんだから。あんたたちのあの様子を見てたら、割って入るのは不可能だって誰でも思うわよ」

「あの様子ってどの様子よ?」

「お互いしか目に入ってない状態よ~もう~。まるでこの世に2人きり、で仕事してるみたいだったわよぉ。もしくはベッドであいしあ……!ちょっとおーなにすんのよ!」

 私は思わず甚大の口を手で押さえた。

「なにすんの、じゃなくて、なに言うのはあんたの方でしょ!よい子も見てるのよ!」

「はあー?」

「とにかく、会社は深夜枠番組じゃないの!」



 この作戦は功を奏して、翌年から一直さんのバースデーにやってくる子はゼロになったとさ。めでたしめでたし。



「今日はほんとに楽しかったな」

 駅からの帰り道、一直さんが急にそんな事を言いだした。

「え?」

「久しぶりだった、恭とあんなに意見闘わせるの」

「そうね、私もちょっと熱くなり過ぎちゃった。えへへ」

「会社に入った頃の恭は怖い物知らずって言うか、よくビシビシきつい意見言ってくれて。はっきり言って嫌な奴だって思ったこともあったよ」

「ええー?!……ごめんなさい」

 驚いたフリをしたけれど、自分の中で思い当たることは数知れず。なのでそこは素直に謝っておいた。でも、一直さんは首を振って、横を歩く私の手を取って優しい声で言う。

「でも今考えると、その頃から恭のことがすごく気になってて目が離せなくて。もうその時には、すでに恭に落とされてたんだろうね」

「え?え?」

「お互いに、この時代のこの場所に生まれてきて良かった。出会えて良かった。愛してるよ、恭」

 え、そんな。そのセリフは私の方から言わなきゃならないのに。

「もう、先を越されちゃった!」

 ちょうどそこでマンションのエントランスについたから。

 私はとっととオートロックを開けると、一直さんを引っ張って大急ぎで家へたどり着き、大急ぎで玄関へ入り。

 驚く一直さんに伸び上がってkissをした。


「生まれてきてくれてありがとう。私も愛してる…お誕生日おめでとう、一直さん」







ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


乗っかる日の前日。一直さんのバースデー話です。

もてる人のお誕生日がイベント事の近くだと、大変でしょうね~。

でも、肝心のバレンタインのお話しが出て来ませんでしたね(^_^;)

しばしお待ちを。


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