動き足りないから
キリ→ソウナの順で視点が変わりま~す(==ノシ
リク達がアキに捕まってしまったと同じ時間。
場所は風が吹くベクサリア平原。
木など何もない平原に、キリとその他大勢がいた。
「【一匹狼】!!」
「?」
気づいていなかったかのように顔を上げた俺は、その他大勢に顔を向ける。
その他大勢には装備から武装まで、それなりにたくさんの生徒がいる。
中には二年や三年も混ざっていたりする。
数で言うと……百ぐらいか? いや、百よりは少なそうだな。
「勝負だ【一匹狼】!!」
「我らの女神のため!」
「貴様をここで倒す!!」
「「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉッッッッ」」」
俺を襲う理由がリクのためとは……。
呆れつつも、まぁやる気はあるみたいだから半分くらいの力を出して戦った結果――。
「はぁ。ったく。五分ぐらいは持ってくれよ」
ため息をつくキリ。
その他大勢は全員が全員、山のように積もれている。
「うぅ……くそぉ……」
「つえぇ……」
「これだけいてもダメなのかよぉ……」
「我らの女神さまがぁ……」
山を見るけど、全く動く様子が無い者たちばかり。
「馬鹿ばっかだな。リクも大変そうだ」
呆れつつ答えた俺は、放課後だし、家に向けて足を向ける。
門ぐらいのところに付くと、丁度リクとソウナが門を通り抜けているところだった。
俺は普通に歩くだけですぐに付けたので――周りから見れば少し歩くスピードが上がっていた――俺は軽く声をかけた。
「今帰りか?」
「あ、キリさん」
「え? キリさん? この人が?」
ソウナが驚いて、確認するようにリクに聞く。
「そうですよ? 仙道キリさんです」
「会うのは一ヶ月ぶりだな」
簡単に挨拶をすると、ソウナが「一ヶ月ぶり……?」と困惑した顔で必死に思いだしている。
そこで俺はやっと納得すると、ソウナの記憶には残っていないだろうとわかった。なぜならソウナと会ったのは、カナの策略によって女に変えられた姿でしか会ったことが無いのだから。
「キリさんもあそこにいましたよ?」
「リク、無理もねぇぞ。俺はあの時カナに姿変えられてたんだからな……」
正確には薬を飲んで変わったのだが。
「姿が変わって……?」
「そうでした……。えっと、あの時、黒髪に紫の瞳で幹部のコートを着ていたのがキリさんです。母さんに女の人にされていて……」
そこまでリクが言ってようやく思い出したようで……。
「えぇ!? あ、あの一番女性らしい体つきをしていた人が男の人!?」
つい声を上げてしまった。
「ちょ、声がでけぇ!」
「あ、ごめんなさい。つい……」
目だけで周りを見回すが、一応誰もいなかったのでよしとする。
こんなので注目なんざされたくもねぇ。ってか一番女性らしい体つきってなんだ。
そう言えばリクって最近ソウナと特訓してるみてぇだな。
「そんやぁさぁリク」
「えっと、なんですか?」
「ソウナは強くなったのか?」
「ソウナさんですか? やっぱり神の力を使っているだけあって十分強くなったと思いますけど……真陽さんがボクも、ソウナさんも、まだ剣の振りが甘いって言ってました」
真陽も関わってんのか。
そして俺は、リクの強くなったという言葉に興味を持った。
「ンじゃあよソウナ……でいいよな?」
そう言えば今さっきは何気なく呼び捨てにしてしまったので聞いてみた。
「いいわ。何かしら?」
許可を貰ったので続ける事とする。
さっきのはかなりあっけなく終わったからなぁ。
「少し、決闘しねぇか?」
「決闘を? まだ一週間だからそこまで楽しめないと思うわよ?」
「いいんだよ。別に俺だって本気は出すつもりはねぇさ」
ちょっと動きたい気分だからな。中途半端に動いただけじゃ物足りねぇし。
「だったら、ベクサリア平原もすぐそこにありますからそ――」
「いや、今ベクサリア平原は使えねぇから別のところにしよう」
リクの提案に即答する俺。
今行ったら山積みになった生徒が目に入る。
「使えないん……ですか?」
俺を見上げて、きょとんとするリク。その仕草に顔が熱くなるのをぐっと抑えてなんとか頷く。
「そうですか……。だったら前に真陽さんと決闘した場所にしましょう。そこだったら結構広いです」
その案に賛成して、その場所に向かって歩いて行く。
「にしても……男の人だからって、あの胸は反則……」
ソウナがブツブツと不満そうに何かを呟いているが、ほとんど聞こえなかった俺はほとんど無視した。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
特に何も起きずにリクが真陽と戦ったという場所に着くと、キリはさっそくとばかりに魔力を解放した。
「どうしたら勝ちなのかしら?」
「そうだなぁ。ソウナは回復魔法が使えんだよな?」
「ええ。これでも【治癒天使】を名乗ってるから回復魔法が使えなかったら話にならないわ」
使えるのは〈治癒の光〉、〈清浄の光〉など。この二つで大体は治る。
外傷と内傷は〈治癒の光〉で。毒や麻痺などの異常状態は〈清浄の光〉で治せる。
「だったら一発、どちらかに決めた方が勝ちでどうだ? かすったぐらいのはノーカウントだ」
「わかりやすくていいわね。ディス」
自分の体から光が出てくる。いつも使うような光の玉ではない。神の光……。それと同時に自分の魔力も開放する。
もう一回光が出てくるが、今度はいつもの光の玉だ。この光は回復魔法を使う上で必要なものだ。
そして初めに出てきた光は人の形をとる。それは神〝マルス〟の断片。
剣の名前がグラディウスと長かったので、ディスに直したのだ。別に尊敬の反対の意味では無い。ただの略称だ。本人も、断片の名前は何でもいいと言っていたのだからこれでいいだろう。
ただ……契約した後の一週間で気づいたことなのだが……。
「今度の神は男か」
そうやって呟いたキリに、隣に居るディスは……。
「? 一応僕の体は人で言う女だぞ?」
「…………は?」
キリがポカーンと口を開ける。私も知った時は同じ顔をしていただろう。
姿はどう見ても男だ。だが、女と言われるとどことなく納得してしまうような顔をしているのだ。
一週間の中で同じお風呂に入ったこともあり、体は見ている。正真正銘の女性の体だった。宝塚に出るようなかっこいい女性だって事。胸はDぐらいはあるのだが、サラシでごまかしてる。ディスが言うには動きずらいようだ。
「まぁそんな事、どうでもいいだろう」
「そうね。後でゆっくり話せばいいと思うわ」
そうして私の手に剣が握られる。白刃の剣だ。実際には私なんてふることもできないだろうが、これはディスの剣。契約した神の神具ならば重さなんて感じない。
「あ、ああ。んじゃぁ。始めるか」
キリがとりあえずディスの事を後回しにして開始宣言をしたと同時。
その場を低く跳躍。まっすぐ私に向かって跳んでくる。
右腕を引いて攻撃してくるのを横に回避しながら剣で流し斬り。
「おらぁ!」
キリはそれを左手で横殴りではじきとばしてタックルしてきた。
タックルを後ろに跳ぶ事で大ダメージを避け、キリとの間に距離をとる。
「〈雷球〉」
キリが手に雷の玉を作って投げてきたので剣を横に振ってかき消す。
さらに跳躍してきたキリに、今度は私から攻撃を仕掛ける。
「荒れ狂え! 〈武乱〉」
速度の上がったぎこちない剣筋で四連。
「チッ」
キリは身を後ろにかわし、ぎりぎりで剣の間合いから外れる。
私はそこをチャンスだと思いい一歩足を踏み出して剣で斬り上げると、それは横から入った蹴りではじかれる。
そこに態勢を直したキリが拳で攻撃してきたので剣がはじかれた力を利用して自分も同じ方に避ける。
「はぁ……はぁ……」
『大丈夫か? 息が上がっているようだが』
「そこまで……体力がある方じゃないの……」
身体強化魔法が使えれば体力が無くても何とかなるのだが、生憎、私は使えない。
それに、この荒れた息は緊張のせいでもある。
まだ、こうやって自分から戦うことは慣れていないし、リクとしか剣を交えていないのだから他の人といきなり決闘って言われるとどうしても緊張してしまうのだ。
そう考えているうちに、キリが詰め寄って攻撃してくる。
「〈雷剛拳〉!」
「く……ッ!」
速度の上がった拳が身を逸らした私のすぐ横を通る。
その拳に少し恐怖感が出てきたのだが、何とか押さえて、剣を振るが、その剣は空を切った。
「喰らえ!」
いつの間にか後ろに移動していたキリの拳がどうしても避けられないと思うと、すぐさま私は防御魔法を展開。
「〈武盾〉!」
透明な結界と拳がぶつかり合い、鈍い音がなる。拳をなんとか防ぐと、私は魔法を発動する。
「〈光球〉!」
光の玉をキリに向かって放つが、キリはそれを拳で撃ち返した。
私はそれを剣で斬り、何とか防いだと思った時だった。
「そこは避けねぇと喰らうぜ? 俺は武装型だからな」
「そう……ね」
剣を振りきった直後。目の前に迫っていたキリの、手加減された〈雷剛拳〉が私のお腹にぶつかった。
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