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ヒスティマ Ⅱ  作者: 長谷川 レン
第五章 爓巫
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爓巫



「クソが……調子に乗ってんじゃねぇぞテメェ等……〈デビルソウル〉!」


 ズドンッ! 氷の床に拳を叩きつけ、黒い魔力があふれ出てくる。それは手にまとわりついていく。


「ほわぁ?」


 次第に腕を通り体を通り、脚や首へとすべてにまとわりつく。

 そして、竜田の体すべてを黒い魔力が包んだ。それは一見すると悪魔のように見える。


「テメェ等ニ見セルノハシャクダガ……見セテヤル。俺ノ本気ヲナ」


 持っていた剣も黒い魔力がまとわりつくと、異形の形となり、禍々しさを感じる大剣へと変化を遂げていた。

 竜田の吐く息は、ボク等のような白い息ではなく、黒く濁った色をしていた。もうすでに人として見れないような気がする。


「まるで悪魔と同化した人間だな」

「ホントですね。悪魔に魂を売ってどうするのでしょうか」


 悪魔に……。これは、本当に悪魔に魂を売っているのだろうか……。少し違うように思える。

 あれは悪魔に魂を売ってじゃなくて……。


「悪イガ、軽口ヲ叩ケルノハ今ノ内ダ」


 竜田が消える。またあの距離を変えてと思い、姿を探す――までも無かった。


「聖地様ハ向コウニ言ッテクレマセンカネ?」

「わ――ッ」


 腕を掴まれ、家のドアへと飛ばされる。何とか受け身を取って壁にぶつかるダメージを押さえる。


「また距離か!」


 雑賀と妃鈴が撃つが、それよりも早く竜田は黒い壁を張った。おかげで弾丸はすべて防がれる。するとまた寝虚が背後から攻撃するが、それを竜田は予知していたようにクマのぬいぐるみを蹴りあげた。


「死ネ。〈暗黒砲・魔破〉」


 あれは……悪魔魔法!?

 魔法陣が寝虚の目の前に展開。「ほわぁ?」とよくわかっていなさそうな寝虚が闇の奔流にのみ込まれていった。


「寝虚ちゃん!」


 ボクが竜田へとたどり着いたのがその後だったため、防ぐ事が出来なかった。

 ツキで水平斬りをするがそれは竜田に防がれる。だがボクの目的はルナで発動中の悪魔の魔法を無効化することだ。幸いそれは成功し、悪魔魔法が無効化された。

 すると、中から淡い光に守られていた寝虚が出てきた。

 とっさの防御魔法で守ったのだろう。その防御魔法はヒビが入ってこれ以上は守れそうもなかったが。


「チッ。〈魔神剣〉」


 竜田がさらに悪魔魔法を発動。まさかこれも発動できるとは思わなかった。


「寝虚ちゃんそこから避けて!」

「?」


 すぐさま寝虚の足元から半径数メートルが黒く染まり黒い光が突きあげた。

 ボクの刀はすべて竜田によって防がれ、悪魔魔法を無効化する事が出来なかった。


「ハッ。マダイクゾ――」


 手をさらに突きあげて何かしらの魔法を唱えようとしたので、ボクは〈雪麗〉を発動させて止めようとするがすべて片腕の大剣だけで防がれてしまったが反対側少し斜めから雑賀と妃鈴の銃撃が竜田の腹に撃たれる。


「グゥ。コザカシイ!」


 竜田がまたもそこから消える。


「〈暗黒酸・魔腐〉!」


 声が聞こえたと思った場所はこの家の天井だった。上を見上げると、そこから黒い液体のような物が降ってくる。


「〈氷柱〉」


 ボクは氷を作ってそれを防ぎ、寝虚は消え、妃鈴が大盾で雑賀を守る。

 ザッパァァァンッと当たったと思ったら、当たった場所がどんどん溶けていった。それを見たボクはすぐに覆いかぶせていた氷をどかせた。予想通り、氷も溶けていて、あのままだとボクまで溶けてしまう可能性もあった。

 氷で受けていなかったら危なかったと思いながら、ボクはハッとして妃鈴の方を向く。そこには大盾が腐敗していくように溶けていく姿があった。


「これでは……魔法が使えない上に魔力解放も……」


 強制的に妃鈴の魔力が納まる。今妃鈴が狙われれば防ぎようが無い。


「妃鈴、下がれ!」

「……わかりました」


 妃鈴は悔しい感情を押さえて、雑賀の背後へと回ってこの場所から退いて行く。


「逃ガサン」

「おにぃちゃんは寝虚と遊ぶのぉ」


 クマのぬいぐるみが振り下される。だがそれを竜田が腕で防いだと思ったらもう片方に持っている大剣で寝虚の体を真っ二つにした。


「!?」

「コイツ……」


 だが、よく見ると斬られたのは寝虚ではなく寝虚のような何かだった。


「ふぅ。寝虚危なかったよぉ」

「寝虚ちゃん!? あれ、どういう……」


 魔法を発動したタイミングが全く分からなかった。寝虚の魔力は確かに斬られたあれから出ていたのだ。

 なのに今隣に居る寝虚から魔力が出ている。斬られたあれからは魔力が出ていなかった。


「ナルホドナ……。貴様、ロストデモ貴重ナ幻想ノ使イ手カ」

「あれぇ? どうして使ってるのが幻想の使い手だってわかったのぉ?」


 幻想使い? それは一体……。


「フン。知ラナクテイイ。〈暗黒砲・魔破〉」


 黒の奔流がまたボク等を襲う。

 ボクはとっさに寝虚の前に出てルナでその魔法を斬り無効化する。

 その間にまた寝虚が背後に現れてクマのぬいぐるみで攻撃していた。竜田はもう寝虚が後ろに来る事が気づいていたのでそれを正確に対処し、そして寝虚をまた斬る。


「うぅん。寝虚の攻撃が当たらないよぉ」


 また斬られた寝虚は本物では無かったと言う事だが、いつまでもそんな事が出来るというのだろうか?

 ボクに何かしらの方法で魔力を戻してくれた魔法も、魔力を相当使っているのではないのか?

 だが寝虚のフラフラとする足取りは完全に眠気からと思われる。


「サァ。終ワラセテヤル」


 竜田の魔力がさらに濃くなる。魔力が圧縮され、攻撃性を増す。


「それは、俺の台詞だと思われるが」


 カチリ……。そう音が鳴って竜田の後頭部に銃口が当てられた。


「気配ガ無カッタガ……」

「生憎と、気配を消すのは得意なんでな」


 そして……雑賀が引き金を引いた。

 パァンッという音が鳴って竜田の後頭部が撃たれた――。






「…………堅いん……だな」


 竜田の頭に穴が開く事はなかった。雑賀の漏れるような声とともに、竜田が雑賀の開いている腹に大剣で斬りつけた。


「邪魔ダ」


 そして回し蹴りが雑賀の頭に入り、雑賀の体が宙を舞う。その先にいた妃鈴が雑賀をキャッチし、衝撃を無くす。


「どうしよう……。これで二体一だけど……」

「ねぇねぇおねぇちゃん。寝虚、もう魔力が無くなってきちゃったぁ」


 コレで、また一体一に逆戻りした。しかも竜田はパワーアップしたままで。


「むぅ。寝虚はここじゃあ死なないからまだ二体一だよぉ」


 寝虚が頬を膨らませながら言ってくる。


「ドウセ終ワリダロウ? 殺サレタクナケレバ今スグニ魔力ヲ納メロ」


 ドウセ三人ハ殺スガナ。そう言って歩いて近づいてくる竜田。

 剣のぶつかり合いは悪魔の姿になる前は勝ったがあの姿では少々難がある。このままでは……。




「待って!!」




 声が聞こえた。それはこの家の入口からだった。そして……ボクが逃がしたはずの人の声だった。


「マナちゃん!? どうして!? 今戻ってきちゃダメです! すぐにここから離れてください!」


 幸いにも竜田とマナの間にボクと寝虚が立っている。だからこの横を抜けられなければ竜田はマナを連れていくことはできないはずだ。


「マサカ獲物ガ自分カラ来テクレルトハナ」

「冗談」


 マナはそう強く言い放ち、ボクへと近づいてきた。


「あ、あの……マナちゃん?」


 ボクの目の前までは無言で近づいてきたマナ。その様子にボクは少し戸惑う。そして、マナは無言でボクの両手を取った。ルナとツキはそっと光となって一度ボクの中へと戻った。


「お願いリクちゃん……。ウチ、やっぱりずっと守られるのなんて嫌」

「でも……それはボクが守りたいから……」


 そう言い返すと、マナはゆっくりと首を振った。


「ううん。違うの。ウチはね。リクちゃんが守ってくれるように、ウチもリクちゃんを守りたいの。この意味、分かる?」

「マナちゃんも……? ……ごめん。ボク、意味が……」


 マナはボクの反応に、くすっと笑う。

 そして、ボクの両手を離して、今度は腕をボクの背中にまわしてきた。マナの体温が伝わり、ボクの鼓動が少し早くなる。


「ま、マナちゃん?」

「リクちゃんがウチを守るなら、ウチだってリクちゃんを守る。どっちも守れば、対等だよね? だから……」


 言葉が途切れる。ボクには、その先の言葉が何となくわかってしまった。




 ――一緒に戦う――




「マナちゃん……」

「別に、リクちゃんの許可なんていらないもんね? ウチが勝手に決めた事だから」


 ボクから離れて、微笑むマナ。

 何かが吹っ切れた。そんな顔をしているマナに、ボクは鼓動が早くなった。

 だって、その顔は……小学生のころマナがボクを守ってくれている顔だったから……。


「オ取リ込ミノ所悪イガ。俺ヲ倒ス気カ?」


 竜田が話に割り込んでくる。マナは竜田を見て、素直に一言、答えた。


「もちろん」


 ブチッと竜田のこめかみから血が出てきそうなほど浮き出る血管。


「悪魔ヲ従エタバカリノ小娘ガ、俺ニ勝トウダト? フザケルナァァアアアアアアア!!!!」


 竜田が吠える。その反響でか、この家に残されていた窓が次々と割れて行き、窓の破片が次々と落ちてきた。

 ボクとマナと寝虚は家の中央に居て、窓の破片が届かなかったが、雑賀や妃鈴そうではなかった。そう思って二人を見るが特に破片が当たったわけではなさそうだった。


「うぅん。寝虚、ここに居たら邪魔そうだねぇ」


 寝虚がそう言って雑賀と妃鈴の方へと走って行く。マナが戦うと言ってくれた今、ボクの近くに居るよりも雑賀達を守ってくれた方が心強い。


「俺ガ! 俺ガオ前等ミタイナ光ニ負ケルカァァアアアアア!!!!」


 完全に頭にきたのだろう。竜田は我を忘れたようにしてそこらの壁や氷の床を破壊しまくる。そして床に亀裂を作りながら走り寄って来た。


「リクちゃん……お願いがあるんだけど……」

「言ってください。大丈夫。今ならどんな願いでも出来る気がしますから」


 今のボクには敵なんていない。そう思いながらマナに答える。

 するとマナは少しうつむき、恥ずかしそうに言ってきた。


「うん……。ウチが呼び終わるまででいいの。手を握って……」


 何を呼ぶ気なのかは分からない。だがボクはマナの要望に従い、そっとマナの手を取った。

 マナの頬が少し赤くなるがボクは気づくことは無かった。


「温かい……」

「それは、当り前です。ボクだって生きてますから」

「うん……」


 マナが目を閉じる。

 そして数瞬が経ったときに、握っているマナの手が今よりも温かくなっていくような気がした。

 温かい魔力と共に……。







 ――美しき金色(こんじき)の炎よ。私の声が届いていますか?――







 マナの詩がこの空間に響き渡り始めた。



 ――私は貴女の声が届きました。殻を破り、今はただ貴女を待ち続けます――



 優しく、それでいてどこか攻撃性の持つ熱さを感じる魔力が辺り一体を覆い尽くす。

 竜田もそれを感じたのか、足を止めて辺りを見回し始めた。



 ――そのお姿は、美しき赤い翼を持つ鳥の王。そしてインドラを滅ぼす者――



 マナは目を瞑り、周りを置き去りにしてただ(うた)う。

 雑賀や妃鈴も何が起きているのかわからない。寝虚は辺りを見回し終わったのか、天井にあるガラス越しにそれを見る。



 ――私は爓巫(エンフ)(いにしえ)より(きた)る炎を呼ぶ巫子――



 マナが詠っているその詩と共に、氷漬けの空間が除所に溶けていく。

 全員が戸惑うその中で、ボクだけは純粋にマナの握る手を感じていた。



 ――私の声が届いたのであれば、今ここで、お姿をお見せください――



 マナの言葉が途切れる。ボクはそれで終わりだとは思っていない。

 だから、マナと繋いでいる手を少しだけ強く握る。



 『大丈夫。傍に居るから』



 マナはボクを感じてだろう、優しく微笑み、手を握り返してくる。



 『ありがとう』



 マナの声が聞こえた気がする。

 そして、マナが目を開けて、空を仰いだ。







「そして私との契約を結び、お力をお貸しください! 〝大鵬金翅鳥〟!!」







 ――天から、炎が降ってきた。

 ただの炎ではなく、金色の色をした炎だ。




「な、なんだあれは!?」

「炎の塊……? いえ、あんな金色の色をした炎なんて見た事が……」

「綺麗ぇ」


 雑賀と妃鈴が驚き、炎を凝視する。寝虚はその炎を口を開けてみていた。

 その中で一番驚いていたのは、その炎と対峙するであろう竜田自身だった。


「バ……バカナ……。アレハ……アンナ巨鳥ガ……。何故オ前ガ呼ビ出セル……ッ!?」


 竜田は何かわかったようだ。いや、マナは叫んでいた。〝大鵬金翅鳥〟と。

 だが、正式名称はこう言うだろう。



 ――〝ガルダ〟、と……。



 インド神話の聖鳥。異名をたくさん持つ金色の炎。

 その炎が割れた窓から入ってきた。大きさは背中に人が四人ほど乗れるぐらい。姿はワシ。胴体が人のような気がしたが今目の前に居る〝ガルダ〟は完全なワシだった。

 だが、マナを見ると、その前まで移動して、炎が全身を囲むように燃えた。そして中一人の女性が現れた。腕から赤い翼が生えていて、鋭い目で金色の瞳。締まった体系に肌は少し焼けている。長い髪は頭の後ろで一つにまとめられていた。


「ようやく御目にかかれましたね。爓巫さん」


 その姿や声は凛々しさを失わせない物であった。


「うん。突然で悪いと思うけど……」


 マナが震える竜田をチラ見する。

 すると、大鵬金翅鳥はそれの意図がわかったのだろうか「承知いたしました」と言うと竜田へと体を向けた。


「ア、アアア、アリエン……」

「安心しろ。我が主となる爓巫さんは貴様の命など欲しておらん」


 だが……。そう付け加えて大鵬金翅鳥は右手を開いて竜田へと向けた。


「主の人生を共にする者を傷つけた罪は重い。ここで罪を償うがいい! 〈大罪の炎〉!」


 金色の炎が竜田に襲う。


「ガァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」


 動かなかった脚のおかげで、竜田はまともにその炎を受けた。

 余程の熱さなのか、竜田はのた打ち回り始める。時には大剣を振って、時には拳で氷の解けた床を殴って。

 ボクはあの炎の魔力がどれほど強いのかがすぐにわかった。


『あいかわらずガルダはやりすぎじゃのぅ』

『ん? そういえばそうだね。ルナちゃん、記憶が戻ったの?』

『そうです。もどったのですか?』

『いや、あやつの激しさを見てあやつだけを思い出しただけじゃ』


 神界でも有名だったのかな。だってルナはギリシャ神話なハズだし……。

 そして、竜田が動かなくなり、次第に金色の炎が消えた。

 それを確認した〝大鵬金翅鳥〟はまたマナの前へと戻ってきた。


「お疲れ様」

「これくらいの事でしたら何でもありません。爓巫さん」


 マナが声をかけて、〝大鵬金翅鳥〟が答えた。

 そしてマナはボクに振り向いた。


「リクちゃん……ありがとね」

「え?」


 マナにいきなり礼を言われ、ボクは少し驚く。ボクは結局最後何もしていなかったのだが……。

 そう思っていると、マナは首をゆっくりと横に振った。





「リクちゃんがいなかったらこんな事出来なかったもん……。だから……ありがとね」




 マナが笑顔になって言ってくる。

 ボクは少し間が開いた後に……。




「はい」



 ボクも笑顔を返した。


誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

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