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ヒスティマ Ⅱ  作者: 長谷川 レン
第五章 爓巫
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形勢逆転


「すまないな。愛しのリクちゃんが剣で傷つけられそうなのを、俺が黙って見てるわけがないだろう?」


 枯れ葉色のコートを着た男の人が、右手に持っている拳銃をこちらに向けていた。


「雑賀……さん……」


 その隣に寄り添うように自分を覆い隠せるほどの大盾を持つスーツ姿でいるのは女の人。

 男の人の腰ぐらいしかない身長の黄色い寝間着で腕にクマのぬいぐるみを持つ女の子もいた。

 そして、女の人もすごく見覚えのある人だった。


「妃鈴さんも……」


 竜田が一度ボクからステップで離れ、剣が弾かれて地面に置かれているのを取る。

 その間に三人がボクに近寄ってきて、守るように背後へと回らせた。


「大丈夫ですか? リクちゃん」

「はい……。ですが、どうしてここが?」


 何か目印でもあったのだろうか。ここはマナの家の敷地内で、それなりに奥にある。外からではこの場所はわからないだろう。


「それならぁ。悪魔の魔力が面白いぐらいにわかったから直で来たのぉ」


 眠たそうな目を頑張って開けているような女の子が答えた。クマのぬいぐるみを枕にして今にも寝てしまいそうな子だった。


「君は……?」

「寝虚ぉ? 寝虚はぁ。寝虚だよぉ」


 うん。三回も言わなくてもいいと思ったが、一人称がユウと同じで自分の名前だと言う事がわかった。

 しかし、どうしてこんなにも幼い子を連れてきているのかが気になった。透明に揺らめく、相当な魔力を持っている事はわかるが……。


「二丁拳銃に大盾使い。……テメェは何だ?」


 竜田が寝虚に訊く。


「ほわぁ?」


 だが寝虚はただ首を傾げるだけで何を聞いているのかさっぱりというような顔だった。その様子に竜田がさらに苛立たしそうに地面に剣を打ち付けた。地面は抉れ、深い傷を作る。


「しかし……リクちゃんはまたあの魔法を? この家の近くに居たとしても、やはり魔力のケタが半端ではないな……」


 周りを見ると、黒炎はいつの間にか消えている。その理由はボクが〈月華氷刃〉を発動してしまったから黒炎までが凍るという世にも奇妙な現象が起きていたのだ。しばらくすればそれは中に入っていた黒炎は自然と消えていった。

 だからここはすでに暑いフィールドから一転、寒いフィールドへと変わっていた。

 寒いフィールドならばシラの力が存分に発揮できる。そう思ってボクはシラに腕輪になるように頼んだ。


「ですが……りくはもうたたかえません。ここはみなさんにまかせるのです」

「妾も……そう思うぞリク」

「あたしもね」


 ふと顔をあげると、先ほどまで気絶していたルナと飛ばされたツキが傍まで来てボクの肩を持つ。


「ダメ……。ボクも戦う……」


 例え魔力が無くても……。

 ボクは支えになっている三人から離れると、自力でその場に立とうとする。だが脚がふらつき、また倒れそうになるところをツキが支えた。


「ほら。もう休みなよリク」

「そうですよリクちゃん。安心して休んでください」


 シラと妃鈴が心配してくれるがボクは拒んだ。


「ボクがマナちゃんを守るって決めたんです……。やらせて下さい……」


 その揺るがない信念だけを心に止め、ここで自分だけ引くことは一切考えない。

 その姿を見てか、寝虚がとたとたと走り寄ってきて、前から覗きこんできた。


「おねぇちゃん、まだ戦いたいのぉ?」

「うん……」


 お姉ちゃんではないが、ややこしい事はしたくなかったので寝虚の言葉に即答。すると寝虚はう~ん。と唸ると「わかったぁ」と言ってボクの肩をポンッと叩いた。

 すると……。


「あれ……。体が……軽い?」

「これは……」


 今までの重さが嘘のように消えていた。一体どういう魔法を使ったのかは分からないが、とにかくボクの魔力が元に戻ったと言う事がわかった。それも魔力が最大まで回復しているほど。

 その様子に、竜田までが驚いた。


「魔力が……元に戻っただと? まさか時……。いや、時じゃない。そうか……お前、ロスト使いか」

「うん~。寝虚ねぇ? おひるねが大好きなのぉ」


 寝虚がクマのぬいぐるみを高く上げてほわほわとする笑顔で答えた。お昼寝が何を意味するかわからないとでも言うように竜田がハテナを浮かべる。




「おいお前」


 雑賀がそんなのとはお構いなしに、竜田に銃を突き付けて睨みつける。


「なんだ? なんか用か?」


 竜田がそんな雑賀の姿に、剣を肩に担いで訊き返す。

 すると、雑賀はさらに睨みを強くさせて、言い放った。






「俺の妹に手を出した事! その身を持って償わせて貰うぞ!!」






「ボクは雑賀さんの妹じゃありませんし、女の人でもありません!!」




 まさかここでこんな事を言うとは思わなかった。確かにヒスティマでは義妹だが――。


「お前の……妹だと!?」

「真に受けないでください!!」


 意外にも竜田が乗ってきた。乗ってこないでほしかった。


「雑賀お兄ちゃんの妹だったのぉ?」

「だから違いますって! 寝虚ちゃんもボクの話聞いて!」


 まさか寝虚も……いや、寝虚は本気にしていそうだ。見るからに素直そうな目がボクに向けられている。


「…………これは、私も乗らなければいけないのでしょうか……」

「乗らなくていいです!!」


 真剣に悩む妃鈴にもツッコム。まさかこんな状況で四人(正確には三人)にツッコまなければいけないだなんて想定外の事だった。


「まさかここで御機嫌取りをしてもらえるなんて思ってもみなかったぜ」

「ふん。俺は本気で言ったのだがな」

「まだ言ってる……」


 そろそろ怒ってもいいだろうかと思う。


「それじゃあ……貴様らに用はねぇ!」


 竜田が先手を打ち、地面を滑るようにして走ってくる。

 そこを雑賀が二、三回発砲。パパァンッと言う音とともにキィンッと言う剣で弾く音が聞こえる。


「妃鈴! お前も後衛で撃て!」

「わかりました」


 ドンッと大盾を床に置き、大砲のような大筒へと変形させる。そしてすぐさま発砲。


「変形タイプか!」


 剣でその弾を斬る。ボクはその振り切った後に接近して刀を振るった。


「ルナ! ツキ! ここで押し切る! 〈二の太刀 雪麗〉!」


 身体強化と〈雪麗〉で爆発的に上げた速度で乱舞する。その速度に合わせて竜田も剣を振ってくる。

 ぶつかり合うごとに激しい音が鳴り、両腕が悲鳴を上げるがボクは振る速度を下げるどころか、さらに魔力を入れて速さを増した。

 すると一振りの剣を振るう竜田が防ぎきれなくなり、乱舞の何回かは竜田の体に当たるようになっていった。


「……ッ。俺が速度で……ッ。チッ」


 竜田が突然その場からいなくなる。


「!!」


 そして、ボクはこの現象を見ていた。昨夜、竜田が瞬間移動したみたいな現象だ。つまり……竜田はここから離れたずっと奥に居た。



「さすがにあのままだとやばかったな……」






「とりゃぁ」




 バキィッ。




「な……がぁ……」


 いつの間にか竜田の横に居た寝虚がその持っていたクマのぬいぐるみで竜田の横腹を殴っていた。先ほどの鈍い音はクマのぬいぐるみが横腹に入る音だったのだとわかるが、一体クマのぬいぐるみの中に何が入っているのだろうかと疑問に思った。


「テメェ……いつの間に後ろに居やがった……」

「いつの間にぃ? おにぃちゃんが距離を飛んだ後だよぉ?」


 まるで当たり前だと言うように答える寝虚。竜田は剣を寝虚に振るうが寝虚はそれをクマのぬいぐるみで防いだ。ボフッという、音が鳴る。


「一体何が入ってるんだよ!」

「うぅんとぉ。わたぁ?」

「そんなに堅い綿があってたまるか!」


 竜田はまたもそこからいなくなる。寝虚はその場に居て、追う気はないようだ。

 竜田の姿を探すと、割と簡単に見つかった。それはこの空間の二階に居たのだ。


「あぁ……ダリィ……。まとめて斬ってやるよ! 〈悪魔の刃〉!」


 剣の魔力を解放し、黒い魔力が剣を包む。そして竜田はボク達に向け剣を振るいまくった。


「気をつけてください! 竜田は距離を無視できるんです!」


 ボクの声を聞くと、雑賀は後ろに下がり、妃鈴がその間に入って大盾で防ぐ。ボクは強化の魔法をかけた壁の影に隠れてやり過ごす。


「く……このままじゃ近づけない……」

「フハハハハハハハ!!!! さぁ出てこいよ! 出るまでいつまでも振るってやるよぉ!!」


 ところどころ傷つきまくり、床や壁が抉れてくる。ボクの隠れている壁もそんなに長くは持たないと思うと、ボクはどうやって竜田の能力を乗り越えようかと必死に考える。

 雑賀は妃鈴に守られているから大丈夫だとして、ボクは壁を立てとしているからいつかは壁を破壊されてしまう。


 そこで、ボクは寝虚がいない事に気がつく。


「うわあぁ。距離が無くなるなんてすごいなぁ。えいぃ」

「は!? テメッ。どうして――」


 ドゴゥッ。


「ガハ……ッ」


 ズドォォンッ! と音が鳴って下に叩きつけられる竜田。その隣にすとんと降り立つ寝虚。今度は竜田の後ろに居た事に驚く。

 今さっきまで横に居たはずだ。一体どんな魔法を……。


「さぁ。頑張るよぉ」


 寝虚はほわほわとした顔つきで、予想外の戦闘力に、ボクは唖然とした。


誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

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