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ヒスティマ Ⅱ  作者: 長谷川 レン
第五章 爓巫
57/64

リク→マナの順に視点変わります。





 しばらくして、マナが泣きやんだのを見計らってボクはシャドウデビルの話を始めた。


「白夜さんが持ってた古書によると、マナちゃんに憑いた悪魔はシャドウデビルって言って、自分自身の半身のような悪魔だそうです」

「半身?」

「うん。だからマナちゃんが自分自身に強く願った事をボクが知っていたのはそう言うことだったんです」


 マナを離し、ボクは一生懸命シャドウデビルの事を話す。

 周りがあいかわらず黒炎が燃えているけど、不思議と火が家全体に回る事が無かった。


「じゃあ、ウチが悪魔に願ったんじゃなくて……」

「うん。自分自身に願ったから悪魔となって顕現されたんじゃないでしょうか? ボクも、まだよくわかっていない所が多いですし……特に現れる方法については」


 それからボクはシャドウデビルがそれぞれ違う能力を持っている事。従わせる方法しか解決策が無い事を説明した。


「でも、克服って……ウチはもう大体克服が出来たよ? リクちゃんに言葉を貰って……嬉しかったから……。焦って強くならなくてもいいんだってわかって……」

「ということはもう悪魔は憑いていない……?」


 そう思ってマナの魔力をよくよく調べてみるが、よくわからなかった。

 マナは目を瞑って悪魔がいるかどうかを探した。


「……まだ、ウチの中に悪魔がいるんだけど……」

「だけど?」


 だけど、どうしたというのだろうか?

 マナが手を胸にあて、目を瞑り、しばらくそのままでいる。そして、何かを決めたようにしてマナは目を開け、ボクを見てくる。


「悪魔が呼んでる。夢に来いって」


 マナの口から出たその言葉に、ボクはこれが最後の試練のような物なのかなと感じた。


「ボクに手伝える事だったら……」


 ボクが何か出来ないかと伝えると、マナはゆっくり首を横に振った。


「ううん。大丈夫。ウチにしか出来ない事だから。……でも、出来ればずっと、側に居て欲しいな」


 マナが真っ直ぐ見てくるので、ボクは首を縦に振る。


「わかりました。……必ず帰ってきてくださいね?」

「うん」


 ボクが「行ってらっしゃい」を言って、手を振る。

 マナが「行ってきます」を言って、その目を閉じる。


 しばらくすると、マナが安定した呼吸を繰り返すようになったので、悪魔の所へと行ったのだろうと解釈した。


「でも、こんな所には置いておけないですよね……」


 ボクはマナの体を持って、家の外に出ようとした。



 ――時だった。



「まさかこんなにも早くシャドウデビル攻略方法を持ってくるなんてな……正直ビックリだぜ聖地様? おかげでわざわざ国に帰らなくてもよくなったから感謝だな」



 昨夜の忘れられない男の声がした――。



「漆原……竜田……」



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 そこは何もない世界だった。

 すべてが黒く染められていて、まるで宇宙にでも放り出されたような感覚をウチは味わっていた。

 そして、あての無い場所へとしばらく歩いていると、前に見慣れた姿。


 ――自分自身が立っていた。


「よくここまでたどり着けた物だよ。ホントにすごいね、リクちゃん」

「リクちゃんはすごいだけじゃない。いろいろな所が強い人だもん。ウチの大切な人」


 ウチは悪魔の声に素直に返した。

 それに悪魔は息を吐いて自嘲気味な笑みを浮かべる。


「そうだね。小学校のころとは大違い。どうしてあんなにも男らしく育ったのかな。あぁ。根本的な話だよ?」

「知ってる。でもあれが、リクちゃんなんだよ……。優しくて、まっすぐで……そして……ほんのちょっとわがままで……。そこのところは変わらないからさ」


 小学生のころは真一と一緒にリクをいじめる(やから)から守っていたのに、今では間逆の立場。

 むしろ自分が守っていられている事に自分自身がイラついていたのかもしれない。だから力を求めたのかもしれない。


 でも今はそうは思わない。

 これまで守っていたリクと一緒に戦えるだなんて幸せじゃないか。

 守る守られるのではなく、支え支えられるの方がいいじゃないか。

 リクの言葉で、強さだけではない事を教えてもらった。


「初めから強さだけじゃない事を知っていたハズなのにね」

「あはは……そうかも」


 少し照れながら答える。恥ずかしい限りだ。

 強さだけだったら、小学校のころ、ウチがリクに惹かれることは無かっただろう。


「まぁそれも、大切な人から学べばいい話……」

「そうだね……」


 そこで、ウチと悪魔の会話が途切れる。

 沈黙だけが降りたって、しばらくの間沈黙がどこかへ行くことはなかった。


 そして、何分経ったのかは分からないが、悪魔が沈黙を破った。


「それで、君は何を望むの?」

「リクちゃんを悲しませたくないから、貴女の力をウチに貸してほしい」


 素直な気持ちを悪魔に伝える。

 ウチは悪魔を従わせるつもりなんて無い。でも、力を貸してと頼むつもりはある。


「それだったら別に今のままでもいいじゃん」

「それはダメ。リクちゃんが悲しんじゃう」


 悪魔に取り込まれてしまえば、リクが涙を流す姿が目に浮かぶ。

 リクの悲しい感情の涙を見たくはない。

 それは、ウチだけじゃない。みんな一緒だって思う。


「それで、力を貸して欲しいから従えと? そう言われてはいそうですかって言う悪魔がいると思う?」

「いる。だって、貴女はウチ自身だから……。ウチ自身の悪魔だから……」

「本気で言ってる?」

「もちろん」

「…………」

「…………」


 また沈黙。

 悪魔はウチをジッと見つめてくるので、ウチも本気なのを伝えようと悪魔の目をジッと見つめた。


 そして、悪魔は何かを諦めたような顔をして……。


「はぁ。わかったよ。降参、降参。私の負け。そう、結局私はあなた自身。話し方ややり方が違っても、気持ちや考え方は何も変わらない。だから、私だってリクちゃんを守りたいという気持ちはある。例えば今、外でリクちゃんが他の人と一緒にあの竜田と戦ってる所をね」

「え……。今、なんて……」


 聞き取れなかった。いや、聞きたくなかった名前が出てきたからだろう。そのためもう一度訊き返してしまった。


「だから、今外でリクちゃんが悪魔の力を辿って来たんだろうと思われる雑賀と妃鈴、そしてもう一人のロスト使いが一緒に、竜田と戦ってるんだよ……。私をウチが従えちゃったからね。攫うって言ってただろ?」


 そんな……。すぐに外に出なければいけないじゃないか……。

 ウチが頭でそう考えていると、悪魔がウチに近づいて額をウチの額にあてる。


「わかってるよ。だから……いつか今から言う事を一言一句、間違えずに呼んで。夢から覚めたらすぐにこの言葉は記憶の彼方へと消えてしまうけど、その言葉を記憶の底から引っ張り出して。もう貴女は私を従えた事で彼女を呼び出せるだけの力を持ってるのだから」

「かの……じょ?」


 それは、一体誰……?


「殻を破るための鍵はウチの心の強さ。羽ばたくのは彼女の仕事。そして、それを教えるために出てきたのが貴女の悪魔である私の仕事」


 目を瞑り、そして両手をウチの両手に合わせて前に持ってくる。


「大丈夫。貴女ならきっと彼女を呼び出せる。彼女は貴女に呼び出される瞬間を今か今かと待っている」


 温かい魔力がウチの手を通って体中を駆け巡る。とても心地よい物で、いつまでも浸っていたいと思える感覚だった。

 だが、ウチは自分自身である彼女の言葉を最後まで聞き逃すまいとして、波にさらわれて遠くなりそうな意識を必死に手繰り寄せて彼女の言葉を聞いた。



「彼女を呼び出すための紡ぎの言葉は――」



誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

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