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ヒスティマ Ⅱ  作者: 長谷川 レン
第五章 爓巫
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作戦T



「ここが……マナちゃんの家……」


 ボクは見た事のある大きな門を見上げながら呟く。小学生のころ、ここでよく料理長に料理を教わっていたものだ。まさかヒスティマに居たとは思わなかったが……。

 そしてボクの姿は、ヒスティマだから指輪をして、制服はまだ白夜が乾かないと言うので動きやすい服を貸してもらった。魔力の通った藍色のバトルコートに灰の長ズボンだ。

 サイズもピッタリなのでこれもまた白夜がボクに着せようと用意しておいたのだろう。なぜ暗い色なのかは分からないが……。おかげで、ボクの全身を見ると髪が目立つ。


「まぁ。動きやすいし、このコートって魔法鎧みたいだから余程の強さじゃないと破れる心配は無くていいんだよね」


 これまでは服が破れるといったような事はなかったが、それでも心配していたのだ。いや、フェデルの時は簡単に斬れた。おかげで制服が元の原型を留めていなかった時はどうしようかと思った。

 まぁ真陽が用意してくれたわけだが……。

 これ以上制服を破って真陽に迷惑かけないようにしなければ。


「えっと、どこから入るのかな……」


 かなり昔の事だから入り方なんて忘れてしまった。

 門のいろんなところを見たけどインターホンのような物がどこにもない。家も、門のずっと向こうにあるのでここからでは見る事が出来ないし声が届く事もない。


 どうしたものか……。そう思い始めると、上から声が聞こえてきた。


『どちら様でしょうか?』

「あの……ボク、赤砂リクって言います。マナちゃん……いませんか?」

『赤砂リク様? ……すみません。今現在マナ様にお会いになることはできません』


 会う事が出来ない? それは、ボクだからだろうか……?


「あの……どうしてもですか? ボク……。マナちゃんとどうしても今会わなきゃいけないんです」


 今会わなくては絶対にマナを助けられないかも知れない。そんなのは嫌だ。だから今日、そして今ここで会わなくてはいけない。

 それに対し、聞こえてきた声の主は「少々お待ち下さい」と言ってしばらく声が聞こえなくなった。


「会えるかな……」


 ボクが物憂げに答えると、頭の中から声が聞こえてきた。


『安心せい、リク』

『そうです。きっと『マナさん』ならあってくれるとおもいます』

『それが出来なかったら作戦Tね』

『『さくせんてぃー?』』

『突撃のT』

『『……さんせい!』』

(いや、ダメでしょ!?)


 心でツッコム。そんなことしたらいっさいここには来られなくなりそうな気がする……。主にボクが顔を会わせづらくなって……。

 そして、しばらくして上から声が聞こえてきた。


『申し訳ございません。マナ様はやはり会う事が出来ないと……』

「そんな……。あの……どうしてですか?」

『マナ様は今現在魔法の強化訓練中です。昨日、帰って来てから精が出ていますから私共も、なるべく邪魔をしないようにしているのです』


 魔法の強化訓練?

 まさか……魔法を使っているの!?


「……三人とも……」

『……いたしかたなしじゃ』

『とめましょう』

『まぁこんなことだと思ってたけどねぇ』


 三人から同意の意見を貰う。だからボクは、その自分の体に魔力を巡らせた。


『!? リク様、一体何を――』

「ごめんなさい、カナクさん。マナちゃんの魔法の強化訓練を止めないといけないんです」

『わ、私の名前……どうして……』


 カナク。

 小学生のころ料理長に料理を教わっていた時に彼女もボクの近くによくいた。ボクの下手な料理をよく食べてくれて、応援してくれたのが彼女だ。

 忘れるはずもない声だったからボクはすぐに彼女だと気がついた。

 だが、彼女は気がつかなかったようだ。それもそうだろう。ボクの姿は小学生のころと性別自体が変わっているのだから。それでも……気づいて欲しかった……。


「ルナ。シラ。ツキ」


 ボクは三人の神を神具にして呼び出す。右腰左腰にそれぞれルナとツキの鞘つき刀が顕現され、右首にシラの腕輪が顕現された。

 ボクは、ルナの魔力無効化を付与させたまま門の上をルナを振りながら飛び越えた。


『! 魔法障壁を簡単に!? た、大変です! 侵入者として貴女はつかまりますよ!?』


 ボクの心配だろうか? でも、ボクはそんなのを気にしていられない。

 それから数秒後、豪華な家……屋敷から警報が鳴り響いた。屋敷から、地面から、木の上からたくさんの黒いスーツを着たガードマンが現れた。

 全員、何かしらの魔法使いだろう。手にはいろいろな武器を持っている。


「相手にはしていられない。ルナ。使うよ」

『準備万端じゃ』

「〈一の太刀 鏡花水月〉!」


 ボクは魔力をマナの家全体に振りまき、屋敷に向かって走っていった。ボクが通ったところの魔力を自分の魔力に戻した。じゃなければすぐに魔力が無くなりそうだったからだ。


「真正面から突っ込んできよって……ふん!」


 ガードマンの拳が、ボクの幻影の体を貫く。

 手応えが無い事にガードマンはビックリして、ボクの姿を探すが残念ながら幻影が消えたので、ボクを探す手掛かりが無くなった。

 ガードマン達は魔力感じてボクを必死に探すが、残念ながら屋敷全体に魔力を張り巡らせたのだ。感じれるはずがない。

 わかるとしたらボクが魔力を回収した後だろう。


 ボクは無言で屋敷に向かって走っていった。そして、偶然にも開いている、屋敷の窓から入っていった。


(魔法の強化訓練ってどこでやってるんだろ……)

『そんなことを言われてもねぇ』

『それなら、ガードマンがたくさんいる方に向かったらどうじゃ?』

(いる方に? それはどうして?)


 たくさんいる方に向かってどうするつもりなのか訊いてみた。


『簡単じゃ。あ奴らはリクの目的を知っておる。だったら、姿を消されても、マナのいる場所へ向かえばどうとでもなるということじゃ』


 ルナの答えに、ボクはなるほどと頷いた。

 それならばまずはガードマンを探さなくてはいけない。外には確かにいたが、さすがに門の近くに居ることはないだろう。

 そう思ってボクは周りを見る。

 だが、それをする必要はなかった。


「これは新しい魔法かな? 侵入者くん?」

「!?」


 姿が見えないはずのボクの目の前に男が立っていたのだ。

 ボクは後ずさりして、開いている窓枠に足を引っ掛けて止まってしまった。

 そしてその男をよく見ると、おぼろげながらだが、知っている顔だった。ボクに料理を教えてくれた料理長だ。周りを見ると、ここがどうやら厨房だろう。


「姿が見えないが……どうだい? 解いてもらえないだろうか? いることはわかってるのだよ」


 姿が見えない? それだったらどうしてボクがここに来た事がわかったのだろうか?


「どうしてとか考えているかな? 簡単だよ。ここの窓以外に開けている窓なんてありはしないだろう。なにせ侵入者がそこから入ってくることもありえるのだから。後は入った時の音でわかるさ」

「つまり、ここだけワザと開けてボクが来るのを待っていたんですね?」


 それなら、ボクがこれを発動させていても魔力の無駄使いだ。消えたままどこかへ行くこともできるが……料理長相手にそんなことは出来なかった。

 そしてボクは魔法を解いた。


「ほぅ……。なかなかに綺麗なお嬢さんだが……どうしてマナ様を狙うのかね?」


 料理長は武器も何も持っていない。何より、魔法を使うための魔力が感じられない。戦う気はないという事? それだったらボクの戦いたくはない。


「お嬢さんじゃないです。それと、ボクはマナちゃんを狙ってるんじゃなくて、話を聞きたいだけなんです。料理長さん」

「むむ? なぜ私が料理長だと?」


 料理長が訊き返してきた。当たり前だろう。なぜなら見覚えのある人なんだから……。

 そこで、ボクはある事を思いついた。料理長ならばマナの場所を知っているかもしれない。


「ボクの名前は赤砂リクって言うんです。小学生のころ料理長さんに料理を教えてもらいました」

「赤砂……リク? そういえば……あの子が小学生のころ確かに来ていたが……あの子は男の子だ。君みたいな女の子じゃない」


 なら……そう思ってボクは指にはめてある指輪を見せた。


「これは、身につけると性別の変わる魔法がかけられている指輪です。ヒスティマでは訳あって女の人じゃなければいけないんです。お願いです。信じてください……」

「そんな事を言われてもな……。そんな魔具は聞いた事が無いよ」


 料理長の言葉に、ボクは少し悲しさがこみ上げてくる。ここで料理長からマナの居場所を聞かなければあの悪魔がマナを完全に取り込んでしまうかもしれない。だから……どうしても止めたい……。

 だけど一番の悲しさは別だった。

 女の姿になっても、料理長ならわかってくれる気がしたのだ。料理長は確かにボクの事を男の子扱いしてくれる料理の師匠だ。だから、きっと……。


「……ッ! ……どうして……泣いているんだい?」

「え……?」


 泣いている? ボクが?

 自分の手で目元を手でぬぐう。すると、手には水がたくさんついた。


「あれ……おかしいな……。わかりきってた事なのに……カナクさんの時だって……」


 ボクは両手で何とか水を拭き取るが次々と出てくる水はすべて拭きとる事が出来なかった。

 すると、料理長が近づいてきて……その胸を貸してくれた。


「すまない……。君はこんなにも純情なのに……私はついそれを疑ってしまったようだ。昔のあの子なら、マナ様を狙いはしないだろうと勝手に思い込み、最初見たときにあまりにも似ている君を否定してしまったようだ……」


 その先ほどとは打って変わった優しい言葉に、ボクは小学生の時の料理長を見つけた。

 わかってくれた……そういうことだろう。


「名前を聞いた時、すぐにこうすればよかったな。……どうしてここへ来たのか、いろいろと話してくれないかい?」

「…………はい……」


 急がなければいけない。こんな所で泣いてなんていられない。

 だけど、今度はすぐにわかってくれた料理の師匠に、嬉し涙が吹き出てなかなか止まることはなかった。


 マナの事を話せたのは、それから数分経った後だった。


誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

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