敵か味方か
「白夜さんの言ってくれたこともちゃんと言うわ。……さて、これから本題なのだけど……マナさん」
名前を呼ばれ、肩をビクンと跳ね上がらせる。
「別に責めようなんて思っていないわ。お願い。出来る限りのことを話してもらえないかしら?」
ソウナが優しく言う。
マナは、顔をうつむかせてあげようとしない。それは仕方のないことだとボクも思う。
マナはさっき……悪魔を使っていたんだとボクも気づいた。それはここに居る全員が気づいたんだと思う。
すると、マナがようやく口を開いた。
「ウチね……二日前かな。ツキと戦った後一人で帰ってたでしょ? その時にね、ジッとウチを見る嫌な目線を感じたから言葉を紡いでファイアーバードを喚んだの。だけど……」
「その時、悪魔に憑かれたのね?」
「でも、マナちゃん今正気だよね……?」
恐る恐る訊くと、マナは頷いてくれた。
それを見てボクはホッとする。今話しているのが悪魔だったらどうしようかと思ってしまっていた。
「でも、それだったらどうしてもっと早く相談してくれませんでしたの?」
レナが心配したような顔で訊く。
確かに、言ってくれれば、すぐにどうにかできたかもしれないのに……。
「無理だよ……。ウチの中に居る悪魔がそれをさせてくれない。今は大人しいけど、これまでだって何回かウチが答えて無い事があったんだよ?」
「え!? それってつまり……」
首を縦に振るマナ。
ボク達の知らない内に悪魔と話していた場合があったと言うことか……。
「そう。じゃあ今はマナさんなのね? だったら今からでもロピアルズに行って悪魔を追いだしてもらえば……」
ソウナが言うと、ボクは確かにと思ってマナを見る。
だけど、マナの反応は……。
――首を横に振ったのだ。
「え? どうして? マナちゃん……」
「そのままだと汚染されてしまうのよ!?」
ボクとソウナが強く言い放つ。
ここでロピアルズに行かせなければマナは悪魔に取り込まれてしまう。
そんなことはさせない! マナはボクの大切な幼馴染だから!
「ごめん。みんなの思ってることはわかる。でもね。あいつが言ってたんだ。悪魔を従わせることができるか、と」
従わせる? そんなこと、出来るのだろうか?
「マナさん。そんなのはあの男が吐いた嘘ですわ! だって悪魔の力を使った後あんなにも苦しがっていたではありませんか!」
「うん。そうだけど……。でも何とかなると思う」
「マナちゃん!!」
ボクはマナの両肩を持つ。
これは完全に悪魔の力に魅了されているという状態なのだろうか?
だけどマナに悪魔になってほしくない。フェデルの時はソウナつたいの関係だったからまだ何とかなった。
だけどマナが悪魔になんてなってしまったら……。
――その時ボクは斬れるのだろうか?
いや、絶対無理だ。だからどうしてもマナにはその考えをやめてもらいた――。
「うるさいよ」
「え……? ……ッ!?」
ボクはすぐにマナの肩に置いていた手を引いた。
そして引いた瞬間にマナの右肩から黒炎が吹き出た。
「人間さん達。あんまりこの子をいじめないでくれないかな?」
「「「!!」」」
明らかに普段のマナと違う雰囲気に、全員がその場を離れた。
「大丈夫。別に攻撃はしないよ」
「マナちゃんは……」
「安心してよ。まだ生きてるから」
先ほどとは違って、マナは……いや、悪魔がマナの顔で微笑する。
「あなたは、だれですか?」
その中で、シラが人型となって訊いた。
「誰……とは?」
「それほどの『力』をもち、かつ『知能』をもつ『悪魔』なんてそうそういないです。しかも、『憑いている人』に『情』をながすような『悪魔』なんて……しょうじきいって、ありえません。もくてきはなんですか?」
シラは真剣にそういうと、悪魔はフッ鼻でと笑った。
「私のことなんてどうでもいいだろう?」
悪魔の目が笑ってる。それも、さけずんでいる目だ。
それにシラが少し動揺。シラはそれ以上は何も言わなかったが、それでも何かを言いたかったのだろう。いつものするように、シラはボクのネグリジェをギュッと掴んでいた。最近シラはこの行動をよくする。
「あの。さっきのうるさいって、どういうことか訊いてもいいですか?」
悪魔に言うのもどうかと思うが、ボクは少し丁寧に、でも強く言った。敵意を含めた視線で。
「ふん。気づけよ。この子がどうして悪魔に力を求めるぐらいに追いつめられてたか」
その悪魔の言い方。それはまるでボクが原因とでも言いたいようだった。
ボクがマナを追いつめていた? どうして? ボクは知らない内にマナを追いつめるような事を……?
「りく。おちつくのです」
シラがボクの見上げて覗く。
ボクはシラの頭に手を乗せて、悪魔に向き直った。
「まぁいいさ。……こんなとこに居てもこの子にとって毒だな。悪いがこのまま帰らせてもらうから」
悪魔がソファから立ち、玄関に向かって歩いて行く。
このまま帰らせていいものかと思うが、すぐに良いわけが無いと思う。
ボクは後を追い、悪魔の背中に声を放つ。
「どこに行くんですか!」
ボクの声が聞こえると、悪魔は足を止め、顔だけ振り返った。
「この子の家に帰るだけだ。まだ完全に汚染してないし、体の持ち主はこの子だからな」
そう言って玄関のドアを開けた。
「……待って」
いつ隣に来たのか、今度は白夜が悪魔を止めた。
悪魔は足を止めて今度は体ごとこちらに振り返った。
「今度は何だ?」
悪魔がめんどくさそうにして白夜に訊いた。
どうやら答えてはくれるらしい。
「……一つ答えて。……貴方は私達の味方? ……それとも敵?」
白夜の質問に、つまらないような雰囲気で話した。
「私はこの子の味方であり、貴様達の味方ではない。むしろ、この子以外私にとって敵だ。味方にでもなると思ったか?」
悪魔が殺意を込めた声で言うと、強い風が吹いた。
ボクはその急な風に目を瞑ってしまい、次に目を開けた時には……。
――もうすでにマナの体を持った悪魔は消えてしまっていた。
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ボク達は一度、同じ場所に集まると、この事をロピアルズに伝えていいものか迷った。いや、どう転んでもマナの事は伝えないだろう。
「どうしたらいいんだろう……」
「そんなの事。聞かれても困りますわ……」
レナが力ない言葉で返してくれた。ソウナは心配そうにしている。
誰もがなにも言わなくなった時、何処かへ行っていた白夜が戻ってきた。
「……布団の準備が出来た。……今日はもう寝る」
白夜が落ち着いて声をかけてくる。
「そうですわね……」
「私も、そうさせてもらうわ。リク君は?」
ソウナに訊かれ、ボクは少し考える。このまま寝てしまってもいいのだろうかと。
「すみません。もうちょっと考えさせてください」
「そう。わかったわ」
「なるべく遅くならないように、と言っておきますわ」
そう言うとソウナとレナは白夜に案内されて部屋から出ていった。
その間、しばらくボクは考えた。マナを追い込んだのは自分だと言われて考えない人は居ないだろう。
ルナとツキが出てきて、ボクの状態を見て何か言っていたようだが、シラが対応してくれた。
「……リク、これ……」
白夜が隣に来ていることも気づかず、ボクは驚いた。白夜は本を一冊、どこかで見たことがあると思ったらそれはさっきも見せてくれた古書だった。
「いいんですか?」
「……いろいろあったけど、本来の目的を忘れた訳じゃない。……それに、あの悪魔の事も書いてあるかもしれない」
「…………。ありがとうございます」
ボクは、白夜が差し出すその本を丁寧に受け取り、最初のページを開いた。
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