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ヒスティマ Ⅱ  作者: 長谷川 レン
第五章 爓巫
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カタン



 それから全員が、まずは血が付着した服を脱ぐためにお風呂に入った。

 ボクはさすがに一緒に入るわけにもいかず、後からでいいと言った。他のみんなは、特に白夜からも反対の意見は無く、先に入ってくれた。

 待ったのはあまり長い時間では無かった。全員がお風呂から出てきたので、ボクは白夜に借りていた服を脱いでお風呂に入った。まず髪を洗い、そしてタオルで巻いた。これを初めにしておかないと後々面倒なのだ。それから体を洗ってから湯船につかった。


「はぁ……。まったく、不思議だよね……」

「何がじゃ?」


 ボクの目を向けていない方から声が聞こえる。それもそうだ。

 ルナも、シラも、ツキも人型となったままでお風呂に入っているのだからだ。

 当然、ボクは先に入れと言ったが三人は断固として断った。おかげでボクは女の体のまま湯船につかっている。なるべく見ないようにして体を洗うのは困難だった。


「あんなに傷を負っていたのにさ。今はこうやって何の障害も無しに湯船につかってる」

「まぁ……そうじゃな」

「ですが、おふろにはいらなければ『血の臭い』で『白夜さん』のいえがくさくなっていたところです」


 シラが「はい、これでながせましたよ?」と言ってツキの「おぉ。ありがと」と、礼の言葉が聞こえた。おそらくツキがシラの背中を流させていたのだろう。

 それにしても、白夜の家のお風呂がこんなにも大きいとは思わなかった。四人が入っていてもまるで窮屈だとは思わないのだ。

 肌を密接させないくらいに広いので、ボクはその事に感謝する。

 そんなことになっていたらお風呂どころではない。


 カタン。


「? 誰か脱衣所に居るんですか?」


 ボクは三人を見ないようにして脱衣所の扉を見る。だけど人影は無い。

 ただの見間違いかななんて思う。あの男がこんなに早く帰ってくるとは思えないしただの挨拶だとも言っていた。

 すぐにここに帰ってくる理由が無い。


「ふぅ。極楽だねぇ」


 ツキが湯船につかったのでお湯が少しこぼれた。


「あれ? そう言えばシラはシャワーだけでいいの?」


 ルナとツキがつかっているのは知っているが、シラがつかっているのは知らない。


「いいのです? わたしがはいると『お湯』がまたたくまにこお――」

「ごめん。なんでもない……」


 シラがお湯につかるのはNGだった。


「じょうだんですりく。わたしがはいってもそんな『お湯』から『凍る』ことなんてことはないです」

「あ、ああ……。そうなんだ。よかった……」


 さすがにそれはないよね。と心でホッとしたのも束の間。


「『水』ぐらいにはなりますけど」


 うん。やっぱりシラが入るとNGだ。


 冬の女神だと言うことは知っているが、そんなに凍らせるような事が出来るのかは問題だが、シラは普段から他の人よりも体温が低い。

 神様でも体温と言うものがある。それは人型になっている時のみだが、しっかりとある。ルナやツキの体温は、他の人の体温と大して変わらないのに対して、シラの体温は、他の人の体温の2分の1(、、、、)程度だ。

 つまり18℃ぐらい……。


 これを見ると、夏の神様は何℃になるんだろうと考えてしまう。

 シラが2分の1だから夏の神様は2倍何だろうか?

 だとすると……72℃……。いや、違う! 2分の1減るんだから2分の1増えるはず!


 だとすると、54℃。うん。こっちの方が現実味がある。いや、あってはいけないんだけども……。

 しかし、ホントにこんな温度だととっても熱そうだと考える。触るだけで火傷しそうだ。


「って、ボクは一体何を考えてるんだろ……」

「リク。さっきっから独り言多いよ? 大丈夫?」


 ツキに心配されるボク。


「大丈夫ですよ。……でも、そろそろ出ようかな」


 そう言って立ち上がる。


「では、妾達はもう少しつかっていこうかの」

「シラはどうするの?」

「だれかひとりは『契約』したものとしてついていなければいけません。ですからおかまいなく」


 シラがどうやらついてきてくれるらしい。

 ボクは脱衣所への扉を開け、用意されていたタオルで髪を優しく叩くようにして水分を取り、バスタオルで体を拭いた。

 それからボクは、用意されていたパジャマを着――。


「って待った!! どうしてこれがここに!?」


 手に持ったのは白夜が着せると言っていた、もう少しで透けそうな透明感のあるネグリジェだった。


「こんな物着れるはずが無いでしょう!?」


 なるほど、先ほど物音がここでしたのは白夜か誰かがこれを置いて行ったからなんだ。いや、断言しよう。こんな事をするのは白夜しか居ない!


「たしかに、さきほどもりくはいやだといっていましたが……『衣装』にはかわりがないとおもいますよ?」


 ダメだ……。神様に衣装のなんたるかを今度教えなくては!

 いや、それはシラだけなのかもしれない。


「とにかく、他に何か服は……」


 そう思って周りを見渡してみるけど何もない。あるのは右手に持っているネグリジェだけだった。

 戸をあけて調べようとも思ったが、何がどこに入っているかもわからないし、何より白夜の家の戸だ。何が入っているか知りたくないという気持ちがあった。

 つまり……。


「これを……着るしかないと……?」


 震える手。自分の中で葛藤するが答えが出ないまま数分が過ぎた。

 シラと契約していなかったら風邪をひいていたかもしれないが、たぶん仕方のないことだろう。


「まだですか? わたしはもうきがえおわりましたよ?」


 シラがそう言うのでボクは振り返る。

 すると振り返ったボクを不思議に思うかのように首を傾けるシラがいた。


「あ……。そう言えばシラはその服はどうやって作ってるの?」

「これですか?」


 そう言ってシラは服のつまむ。

 ボクが頷くと、シラは簡単に説明した。


「まえにもいったように、これは『魔法』でつくった『鎧』です。『魔法鎧』のいめーじをしっかりとすれば、つくれることができますが……りくにはむりです」

「え? どうして?」


 なぜボクは出来ないのだろうか? そう思って訊き返すと。


「りくはまだ『衣装』に『魔力』をながすことができるほどの『コントロール』がありません。ですから、『魔法鎧』もつくることができないのです」

「つまり、ボクの魔力のコントロールが悪いから作れないと言うこと?」

「そうです」


 こう、真正面から言われると、ボクでも傷つくのだが……実際にそうなのだから仕方がないのだが……。やっぱり傷つく。


 しかし、そうすると……。


「これを着るしかないってこと……?」


 この透けそうで透けない透明感を持つネグリジェを?


 ボクはそれしか選択肢が無い事がわかると、その場に崩れ落ちた……。

 崩れ落ちたボクを、シラが四苦八苦しながらネグリジェを着させてくれた。もう涙しか出ない。


誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

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