闇の力
視点はマナからリクへと変わります。
男はその魔法に気がつくと、不敵に笑い、剣を止めてその場所からバックステップをして動いた。
男がいた空間を悪魔の力が宿った炎が通り過ぎて行った。
「く……あぁ……。ぐぅ……」
悪魔の力を使った反動か、右腕に痛みのようで痛みではない黒が駆け抜けていった。
「やっと使ったな?」
男が白夜から目を逸らしウチの方に向いてきた。
「はぁ……はぁ……。今すぐ……帰れ……。〈黒火球〉!」
黒い炎に包まれた魔法が男に向かって飛ぶ。その速さはいつも使う〈火球〉の何十倍も速かった。
そのため男は剣を振って魔法を斬った。
「おいおい。そんなに何度も使っていいのか?」
「マナ……ちゃん?」
リクの声が小さく聞こえてくる。その目は何が起きているのか理解していない目だ。
――ごめんね。
そう思いながらも、ウチは魔法を放った。
「〈黒炎〉! 〈黒炎渦〉!」
二つの黒い炎が逃げ場を無くすように迫る。
「おぉっと、さすがに危ないな。〈ウォール〉」
男が初めて言葉を使った魔法を使い、黒炎を防ぐ。
「突き破って! 〈ブラックファイアランス〉」
「ハッ。この程度簡単に突き破れるか」
男は壁の魔法から遠ざかって、突き破ってきた魔法を避けた。
だけど自分は、その魔法を放った自分に驚いていた。
〈ブラックファイアランス〉なんて魔法は自分は知らない。では誰が? なんていまさらだろう。
『右腕を見てみな。後右目。鏡があったら出すよ?』
頭で聞こえた悪魔の声。
そう思って右腕を見ようとして動かそうとしたが動かない。その代わりに動かそうと思っていないのに右腕が動いた。
「……ッ!」
息をのむ。なぜか?
それは右腕の肌色が見えず、代わりに黒く揺らぐ何かが腕を覆っていたからだ。
おそらく、右目も同じように黒く揺らぐ何かが覆っているだろう。
『大丈夫だよ。もっと魔法を使ってあげるから』
「ひ――ッ」
するとまた男に向かって黒炎が飛ぶ。
そして黒がまたウチの体を蝕んでいく。
左手で右腕を押さえるが黒炎が止まることは無い。
「ハッ。これだけ早めれば十分か」
男がそう言うと、放った黒炎をすべて払った。そこで男は何かに気がついた。
「……そういえばお前、持ってんのただの悪魔じゃねぇな……。なんだこれ。あいつが持ってった悪魔じゃ……!!」
そこまで言ってから男はわかったように目を開いた。
「まさか……そんな偶然が……。いや、そうすると徐々に蝕んでいくのが説明がつくな、神を持っていなくたって……。ハッ。そう言うことか」
男がウチに近づいてくる。
だが、ウチはこれ以上魔法を放たないようにするのに必死で男をどうにかすることが出来なかった。
そして、男がウチの目の前に来て、顔を近づけた。
「お前、自分を見たな?」
「え……?」
男が言った言葉にウチは一つだけ心当たりがあった。
それは、ツキと戦った帰り道、一人になった時だ……その時に、今なまに居るこいつこそがウチの形をした……。
「見たんだな? ハッ。あいつには後で説教だな。だが……面白い」
そこまで言って男はウチから顔を遠ざける。
「お前がその悪魔に魂を喰われれば俺はしらねぇが……。お前がもし、その悪魔を従えさせたなら……俺達がお前を攫いに来る」
「なに……を……?」
言っているのかわからない。だが最後の言葉は声にならなかった。
黒が今も浸食しているのだ。
「覚えておけ。俺の名は漆原竜田。お前が悪魔を従わせられたら同士として攫いに来てやる」
「どう……し……? どういう……意味……くぅ」
右腕を強く掴む。右目を強く閉じる。
男、竜田はその場を跳躍、周りの木の一つに立つ。
「ハッ! また会おうなぁ! 聖地様に天使さんよぉ!」
竜田が腕を閉鎖空間〈ルーム・ザ・スペース〉の壁を殴ると、ガラスのような音が鳴って〈ルーム・ザ・スペース〉が崩れた。
「そん……な……」
ソウナが驚いていたが、竜田はそんなことを気にせず、その場から消え去った。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ボクは、ルナが傷を直す間、ずっと白夜とマナが男と戦っていたのを見ていた。
マナが黒炎を放った所も……。
「ルナ……」
――ボクの住んでいる町を燃やしたのはマナなんだろうか?
言葉がそう続いた。だけどそれはマナを少しでも疑ってしまうことだと思い、心の中で書き消えてしまった。
「リク。もう動けるぞ」
ルナが傷を治した手をどけて、動ける事を教える。
ボクは足を地面に付かせてその場に立つ。
まだ完全に痛みが引いていないがそれでも今はマナの所に行かなくてはいけないような気がするのだ。
ボクは少しずつ近寄り、時にはルナに手を貸してもらったりして、マナの隣に行く事が出来た。
「マナちゃん……大丈夫?」
ボクは心配して、左手で押さえている右腕を手に取る。
「リク……ちゃん……? ぐぅ」
何とか意識とかはあるようだ。だが何かがマナを蝕んでいる。
「リク。妾に任せい。これは悪魔の仕業じゃ」
そう言ってルナがマナの右腕を掴む。するとさっきボクにやっていたような不思議な魔力が流れた。
するとマナは少しずつだが額から冷や汗が引いて行った。
「リクちゃん……。ありがと……」
「礼ならルナに」
マナがこちらを向いて行ったのでボクはルナに言うように言った。
「ルナちゃん、ありがと……」
「別にいいのじゃ。それより、いろいろと教えてほしいんじゃが……」
ルナが説明を求める。だがそれはボクだけが欲しいのではないだろう。
白夜も、ソウナも、レナも欲しいのだ。
だからまずはソウナを回復させることを優先した。
ボクはソウナに近づいてツキの魔力を使って回復させた。
「ありがとう……リク君……。もう少しで意識が飛んでたわ……。体、動かないし……魔力はあるのに……。これじゃあ宝の持ち腐れ?」
冗談を言う程度の気力は残っているらしいが、ボクが見る限りじゃぎりぎりのところだと思われる。痛々しい傷口は瞬く間という訳にはいかないが、すぐに塞ぐ事が出来た。これで死ぬことは無い。
「〈治癒の光〉。この光をあの二人に持って行って……」
「え? でも光りなんて持って行けるんですか?」
「大丈夫……。触ればこの光はくっついてくるから」
言う通りにして、ボクは光に手を入れた。すると光はボクの手にくっついた。
それからボクは意識が無いレナに持って行って、光をレナにかざした。手に付いていた光は分散してレナを包んだ。
「う……」
すると、レナは少し呻き、目をゆっくりと開けた。どうにかレナは助かったようだ。
マナも、光を白夜に持って行ったので、動けるぐらいにはなった。
マナは、ルナが不思議な魔力を流したことにより今は自由に動けるらしかった。
「……わたくしは……」
頭を押さえて、上半身を置きあがらせるレナ。
「そうですわ……。あの男! あの男は!?」
「どこかに行きました。それより、一旦白夜さんの家に入りましょう。いろいろと話しておきたいことが……」
「……そうですわね……。ですが、まだ体が思うように動きませんわ。魔法も今は使えませんし……。もうしばらく休みたいですわね……」
気絶したからだろう、レナは魔力解放も、喚んであったウィンディーネも開放する前になっていた。
「それだったら……シラ、ツキ」
ボクが呼ぶと光が出て来てそれぞれ人になった。
「わかりました。『責任』をもっていえのなかまではこびます」
「うん。よろしくね。……ツキも」
「え? あぁ、うん」
ツキのその歯切れの悪い言葉に、ボクは疑問を感じる。
その反応に、ルナは口をムッとさせた。
「わかっておるな? ツキ」
「わ、わかったわよ……」
ルナのきつい言葉にツキが残念そうな顔をした。
もしかして、ツキはさぼろうとしていたのかと考えてしまったが、きっとそれは無いだろうと否定した。
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