口無家
「……それじゃあ、買い物してから帰る」
白夜の家は親はおらず、一人暮らしをしていると言うことで食材は一週間の一人分しか置いていないようだ。そのおかげで、これから買い物に出かけるのだが、お金はどうするのだろうか?
「……レナ。……お金出せる?」
「わたくしですの? ……よろしいですわ。その代わり三十万の間ですませてくださいまし」
簡単にお金を出すと言うレナ、そしてその代金にボクは目を丸くする。
「えっと、いいんですか? 後で、ボクの分とか払いますけど……。いや、それよりも三十万なんて持っているんですか?」
「今回はかまいませんわ。皆様への奢りだと思えば何ともありませんの。それと、代金の心配はありませんわ。一回分のお小遣いでお釣りがくる程度ですわ」
お釣り……くるんだ……。
やはりお金持ちというのは金銭感覚がおかしいのか、それともレナの金銭感覚がおかしいのか……。
でも最大三十万と言ったってそんなに買えないと思われる。だってすべてを食べることが無理以前に、持って帰ることなんて出来やしないのでは? というボクの心配を無視して……。
「買ったね~」
「そうね。これだけだったら夜に食べちゃえるんじゃないかしら?」
はい、簡単に三十万消えました。
大体がスイーツやお菓子で。
そして、荷物はすべて、白夜が〈シャドー〉に持たせている。〈シャドー〉は白夜の影に入っているので周りからは見ることはできない。そしてその中に買い物した食材――大半以上が夜食だろう――も一緒に入っている。
「この場合、ボクがおかしいんですか……?」
いや、自分は何も間違っていないと心の中で強く思う。
じゃなければ金銭感覚が狂いそうだ……。
「えっと、それにしても買いすぎじゃありませんか? 絶対そんなに食べられませんよ?」
「……大丈夫。……デザートは別腹」
「そうそう。これくらいだったら簡単に無くなりそうだよね~」
「私は全部食べられなくても次の日とかに食べようかなって」
「これ、主に食べるの白夜さんですわ。デザートだけはまるで初めから無かったかのように無くなっていくんですの」
どうやら四名中二人のお腹の中身はデザート限定ブラックホールらしい。
一体どこに入っていくのやら……。
「では、そろそろ帰りませんか? 空も暗くなってきたし……」
デルタとガルムの話を聞く限り、人気が無い状況だと悪魔に狙われやすいらしい。そして一番人気が無いとすると夜……もっと言えば深夜だろう。
その前には自分の家につかなければいけないし……。
「……(コクコク」
白夜も同意して、どこにも寄らずに着いた白夜の家。
それは普通の一軒家だと思われる。
庭がついているし、日本と比べるとやっぱり広い敷地だ。正面以外の場所は木が植えてあって隣の家が見えない。
「ここで一人暮しなんですか?」
「……(コクコク」
一人暮らしにしては、大きすぎやしないだろうか?
白夜はまっすぐ玄関に向かい、鍵を取り出してドアを開けた。
「……入って」
白夜が招くので、ボク達は「おじゃまします」を言ってから靴を脱いで家に上がった。
廊下を進んでいると、壁とかに絵が複数飾られている。玄関の所にも別の絵が飾られていたのを思い出すと、白夜は絵が好きなのだろうか?
「白夜さんの家ってたくさんの絵がありますわね……。綺麗ですわ……」
「うん。白夜さんってコレクターとか?」
「……違う。……どれも親が飾った。……私が飾ったのは一つだけ」
一つ? それは一体なんですかと聞く前に、リビングに着いた。
中は綺麗に片付けられており、清潔感が漂っている。置いてある家具はソファに低いテーブル、テレビや戸棚とぎっしりと詰まった本棚。それからまた絵が数枚飾ってあった。後は写真だろうか? それがテレビの前に置いてあった。
「白夜さん。あの写真は何ですか?」
「…………」
ボクの質問を白夜は無言で聞き流し、写真を静かに伏せた。
言ってはいけないことだったのだろうか? と少し心配してしまう。
「……気にしない。……あれに写っているのはただの風景だから」
風景? 確かに人は写っていなかったような気がするが……風景だけを写した写真を白夜が飾るとは思えないのだが。
「それにしても、家の中なのに空気がおいしいですわ」
「……当然。……多すぎず、少なすぎないくらいに植物がところどころに置いてある。……置いてある場所は秘密」
え? と思ってリビングを見わたすけどどこにも置かれていない。
閉めていた家にしては中の空気が悪くないと思っていた。それがまだ見ていない植物のおかげだと言われると驚く。
魔法を使っている形跡はないからどこかに置いてあると思うんだけど……。
「? 白夜さんの家に来たのはみんな初めて?」
ソウナがボク達全員に聞くと、それぞれが肯定した。
「今まではそういう機会がありませんでしたの」
「ウチはあまり学校とかに行かなかったからね~。白夜さんとはそんなに話したことがなくて……」
「ボクも、今まで白夜さんの家には来たことなかったです」
一か月前から三週間は魔法の鍛錬をしようと頑張っていて、その後の一週間はソウナとの稽古に力を入れていて、あまり友達と買い物していなかったのだ。
「……それ以前に、自分の家に友達を入れたのはリクちゃん達が初めて」
「「「えぇ!?」」」
ボク達の声が重なる。
今の今まで友達を家に呼んだことが無いことなんてあるのだろうかと嫌でも思ってしまう。
「えっと、友達は……いましたよね?」
「……いた。……けど、私の友達じゃない」
えっと、それは誰の友達だったのかなと思った。
白夜が一人暮らしをする前の両親の友達だったのだろうか。
「……それじゃあ、腕によりをかけて作る。……リクちゃんのよりは絶対に美味しくないと思う」
「いや、それ言わなくていいでしょう?」
すると白夜は首を振った。
「……これ重要……」
少し落ち込んだ雰囲気を纏ったまま白夜はキッチンへと消えていった。
それからすぐに人数分の飲み物をお盆に乗せて運んできた。
「……じゃあ、何しようか?」
「あれ? 白夜さん料理しなくていいんですか?」
「……〈シャドー〉が頑張ってくれる」
「え!? 自分で料理するんじゃなかったんですか!?」
「……私と結婚したら作ってくれる?」
その白夜の答えにボクは少し顔を赤くした。
「え、えぇ!? ま、まだボクは16……って違いますよね!? 今白夜さんの料理の話をして……」
そこまで言ってからボクはまさかと思い、白夜に訊いてみた。
「……白夜さんって料理出来ますか?」
すると白夜は首を横に振った。まさか素直に否定するとは思えずにボクは少しあっけにとられた。
つまりいつも〈シャドー〉に作らせているということか……。魔法なのに……。
いや、ボクが魔法を知ってから母さんも魔法を使って楽してるけどさ。
「それじゃあ、白夜さんの事を訊こうかしら」
「……何でも」
ソウナが一口飲んでから、白夜に質問をした。
やっぱり、白夜の家に来たのだから、白夜にいろんな質問をしなきゃね。
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