MVPは誰?
「いやはや。頑張りましたねぇ。ところで、その危なそうな拳を下げていただきましょうか」
「一発殴らせて貰ったらな」
拳を振り上げて顔を完全に黒くしているキリ。
「くっくっく。殴らせるだなんてとんでもない。私はまだ死にたくないんですよ」
ケオズは笑いながら断った。すごい度胸だなと思う。
キリはその笑いながら言うケオズに人が殺せるような視線を送り、今にも殴りかかりそうな所をボクとカレンが二人がかりで押さえる。
魔力強化をしないかぎり押さえることができない。キリを離すと今すぐにでも殴りそうだ。
そこにマナが口をはさんだ。
「キリ。そこらへんにしときなよ~。ケオズさんだって頼まれてやったんじゃないの~?」
「は? どういう意味だ?」
キリから力が抜け、ボクとカレンはホッと一息入れた。
「ほぅ。もしやそちらのお嬢さんはわかったのですかな?」
「うん。だって、それじゃなかったら最初から強いのを出しておけばそれでよかったんじゃないかな~って思って。何も弱いのから順に強くしていく意味がわからないもん」
マナの答えに「ほぅほぅ」と頷くケオズ。
「そして頼んだのはカナさんかな? もしかして、ウチ達の力がどれくらいなのか確かめたかったのかな?」
マナが不敵に笑いながら言うと、ケオズはマナに向かって口を開いた。
「いやはや。貴女は探偵か何かで?」
「ううん。これくらいはなんとなくわかるかな~って」
「そうです。カナ様が私に頼んだのですよ。息子が行くから死なない程度に相手してくれと。まぁ残念ながら、あの程度じゃ相手にならなかったみたいですけどねぇ」
そうでもない。あの大犬型は〈鏡花水月〉を見破った。マナが攻撃しなかったら多分今も戦っていたような気がした。二つ目の部屋のあの人もボクは一人だったら絶対に負けていただろう。マナと一緒に戦ってぎりぎりで勝ったのだ。
白騎士はマナの予想外の魔法の力で簡単に勝てた。
どれもマナのおかげだと思われる。
「それでは、ここで出口で御座います。お疲れさまでした」
ケオズの声とともに、前から声が聞こえてきた。
「お兄ちゃ~ん!」
出口で手を振っているのはユウ。ボクが手を振り返すと、走って寄ってきた。
他にもシーヘルに棺、弦がそろっていた。
四人とも先に出口に居たらしい。
「大丈夫だった!? 怪我してない!?」
「大丈夫だよユウ。それより、ユウ達は一体何をしてたの?」
ボクは訊き返すが、ユウはスルーしてキリに顔を向けた。
「そうだキリ! あんた絶対に許さないからね!」
「は? なんでだ?」
「あんたお兄ちゃんの見たでしょ!? あれを見ていいのユウだけなんだからね!? 後で絶対に斬る!」
「はぁ!? あ、あれは不可抗力だ!」
待って。どうしてユウ知ってるの? それに見ていいのは誰もいません。
「リク君とマナちゃん。見事な連携だ。白騎士もああもあっさり倒したのは十分称賛できる」
「え? そ、そうですか?」
「あ、ありがと~」
シーヘルの言葉にボクとマナが照れながら言う。
やはり褒められると嬉しいもので、照れるのは仕方がない。
ユウがシーヘルをじーっと見つめているが、一体何を言いたいのかはわからない。
「ってそうです。どうしてボク達の事がわかるんですか?」
どこかで見ていないと出来ないだろう。なのに出来ているのだからどこかで見ていたのだと思う。とすると……。
「もしかして、ずっと見ていたんですか?」
「ああ、まぁな」
「俺達はケオズと一緒にモニターで見ていたんだ」
短く返す棺と、頷く弦。どちらも肯定を表していた。
つまりずっと見ていたと言う訳だった。
「お兄ちゃんカッコよかったよ!」
「ありがと、ユウ。でも、今回一番頑張ったのはマナちゃんだよ」
「へ?」
マナが目を丸くする。どうして? という顔をしていたが、ボクは何を当たり前な……と思う。
「だってマナちゃんがいなかったら大犬型アンドロイドをあんなに早く倒せなかったし、二部屋目だってマナちゃんの支援のおかげで倒せたでしょ? 白騎士の時だって外殻を壊してくれてとても助かったもん」
「う、ウチは……別に……」
照れるマナにボクは微笑みかけた。
「そうね。今回の一番の手柄はマナちゃんね」
「……(コクコク」
ボクの感想にソウナと白夜も賛成する。
するとマナはさらに照れて声が何も出なくなる。
「まぁ。確かにユウもマナ姉が一番のMVPだと思う♪」
「…………ありがと……」
小さく答えたマナ。それ以上は何も言わなかった。
「さて。私はお邪魔ですかな。研究も進めたいので、これから力を試したいと思いましたら是非来てくださいね? 私がいくらでもアンドロイドを用意してあげましょう」
そう言ったケオズにボクは「え?」と声をかける。
「待ってください。検査結果は……」
忘れてはいけないあの黒い羽根の検査結果。ボク達がロピアルズ魔法研究会を周り終わるころには終わると言っていたではないか。
「あぁ。あれですが……すみません。少々時間がかかりそうです。また後日来てもらえませんかね?」
「はぁ……。わかりました……」
ボクは検査結果が出ていない事に肩を落としつつ、ケオズの言葉を了承した。
「それでは、またいずれ」
くっくっく、と笑いながらケオズの姿が徐々に消えていった。まるで……幽霊みたいに。
ゾゾッと背筋を寒くさせるが、脳内で生きている人だ生きている人だを繰り返す。
「……そして今、リクちゃんの後ろにゆうれ――」
「――ッ!?」
すぐに振り返る。そこには白夜がドアップで写される。
「白夜さん……。やめてくださいよ……」
「……怖かった?」
「…………」
あえて何も言わなかった。それでわかったのか、白夜は顔を少し遠ざける。
「……そう。……肩が大きく揺れたリクちゃん。……可愛かった」
可愛いと言われて喜ぶ男はいませんと心の中で答える。
「……それは置いといて」
勝手に喋っといて白夜は勝手に話題を変えた。
何をしたいのだかと思いながらも次の言葉を待った。
「……今日の夜。……私の家に来る」
「へ? どうしてですか?」
何かあるのだろうかと訊き返したが、白夜は何を言っているのと言う顔を……いや、雰囲気で出した。無表情だし、読み難いのだが何となくそう思う。
「……前に古書を見してと言った。……だから来る」
そう言えば……と思う。
初めて白夜と会った日の午後の授業。古書と引き換えに放課後、レナと一緒に家に招くことを許可した。(※ヒスティマⅠ(修正版)参照)
完全に忘れていたのだが、白夜が来てと言うのでボクはそれに肯定する。
「えっと、何時に行けばいいですかね?」
「……このまま来てくれてかまわない。……ここからだと少し歩くけど」
「わかりました。じゃあこのまま白夜さんについて行けばいいですね」
「……(コクコク」
ボクはこの時、一度家に帰ってから行けばよかったと思ったのは、日が暮れて白夜がお風呂の話を持ち出したころだった……。
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