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ヒスティマ Ⅱ  作者: 長谷川 レン
第一章 進軍する者
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進軍する者



 目を開けると、そこはいつもの何もない世界だった。

 いや、いつものとは少し違う。今回は隣にソウナがいる。


「ここ……は?」

「多分ですけど……神様が現れたんだと。シラと会ったのも、こうやって何もない空間だったし……」


 そう言って周りを見渡す。すると、遠くの方に光を出す剣が見える。

 その隣に誰かいる。長身の人だ。


「ソウナさん、行きましょう。〝マルス〟が待っています」


 そう、〝マルス〟。

 ソウナが本の題名を言ったときにこの剣が鼓動した。それは名前を呼ばれたからであろう。


 『大冒険』が名前と言うのは明らかにおかしい。だからその前に言った〝マルス〟と言う名が神様の名前だろう。そしてその名前は正解したご褒美にとルナからこの空間に出てから聞いた。

 戦いの神の名前だ。確か、軍神と呼ばれていたらしい。

 そして『進軍する者』とはこの神様の事を指しているのだとわかった。


「ええ、行きましょう。私は……あの人と契約しなければいけないのだから」


 唯一の去り際の父からの贈り物。それは、生きるための力。

 ボクはソウナと顔を見合わせてそれぞれ頷く。


 足を踏み出して近づいていく。

 暗い空間で、どれだけの距離があるかわからないが、ボクとソウナは歩くスピードを緩めなかった。


 そこまで時間はかからなかっただろう、神様の元にたどり着くと、神様は口元をほころばせ手をパンパンと鳴らした。

 あっけにとられたボクとソウナは目を丸くしたまま固まった。


「素晴らしいぞ君達。悪魔に先代が操られていたとは言え、この僕を使う魔法使いに勝ったのだから」


 服装はまるでどこかの王子で右腰にはしっかりと剣を携えている。

 耳がぎりぎり隠れないぐらいの短い金髪に目が大きく、どこか愛嬌のある顔の少年だった。


「あなたが……マルス?」

「そう、この僕こそが戦いの神である〝マールス〟、日本では〝マルス〟と呼んでいたね」


 ソウナの意外そうな声に神様はふふっと声を漏らした。


「もっと屈強な姿かと思ったかい?」

「そうね。でもその姿の方がいいわ。話しやすいもの」

「ははっ、そうだね。〝トール〟とかだったらかなり屈強な姿だね。僕はあの人は苦手なんだ。ところで……」


 そうして神様が見るのはボクの腰についている刀と腕についている腕輪だった。


「君、すごいね。神を二体も持っている。しかも聖地まで……。君が……」


 君が?

 ボクは神様の気になる言葉に疑問を持つ。


「ボクはすごくないですよ。たまたま二人が……」

「二人? 人間は何体って呼ぶ方が多いぞ?」

「だって二体っておかしいじゃないですか。こうも人間らしいのに」


 ボクは刀を掴みながら優しく言う。


「そうか。さて、君達がここに来た理由を教えてもらおうかな。大体想像付くけど」


 そう言って何かに座る。背もたれがあるようで、背中を預けている。

 そうしてソウナが本題に入る。


「なら話が早いわ。お願い、私と契約してほしいの」

「断る。僕は人に仕えるのが一番嫌いなんだ」

「そう、ありがと。契約してくれるのね」

「え? だ、だから僕は断ると」

「え? 私には契約してくれると聞こえたわ」

「い、いや。だから僕は契約しないと……」


 神様がうろたえる。

 もう少しで何だか流せそうな気がしていたが、ソウナは一旦やめると、目を伏せた。


「契約してほしいの、私のお父さんのためにも……。力になってほしいの」


 目尻から涙。


「ソウナさん……」


 感情が入った瞳。その瞳に〝マルス〟は先ほどよりもうろたえてしまっている。


「あ、あぁ。その、落ち着け。別に力を貸さないとは言っていないではないか」


 焦る〝マルス〟。こう言うのを見るとやっぱり神様は人間染みていると感じる。だからこそ何人と呼ぶ。


「でも……。私には剣を自由に操るような力なんて……」

「う。そ、それは……」


 口ごもる〝マルス〟。

 ……あれ? 今、ソウナの口元がにやけたような……。


「だから、剣を自由に扱うためにも、私と契約してほしいの……。お父さんが最後に残してくれた、生きていくための力なんだもの……」

「じ、自分の親の……」


 ボクの中で、一つの仮定が出てくる。


「だからお願い。私と契約して。これから、私のために力を貸して」

「ぼ、僕は……。僕は……」


 ボクの中でほとんど確信に近い考えが浮かんできた。

 もう、多分これは確実だと思う。ソウナはよく考えたものだと思う。いや、考えちゃダメだと思うんだけど……。


「私と、契約……してほしいの」


 それが最後だった。


「……名を聞こう」

「ソウナ・エンジェル・ハウスニル」


 すんなりと答えを返すソウナ。それを聞くと、手を空へと掲げるようにする神。



「僕は進軍する者である。

 ――神〝マルス〟軍神として数多の戦を勝ち上がってきた

  ――汝、僕と契約せんとする者〝ソウナ〟……ここに、契約を結ぶ」



 その声とともに、ソウナは苦い顔をして右手の甲を押さえる。

 手には光の紋章が浮かんでいる。だけどそれは光が納まると同時に跡形もなく消えて行った。


「これで、契約完了なのかしら?」

「ああ、これで終了だ」


 いつの間にかいる場所が違う。

 さっきまでの真っ暗闇の世界ではなく、どこかの城の王座の間的な部屋にいた。

 神〝マルス〟は王座に座っているのだ。


 そして頭の中で会話が聞こえる。


『ソウナ……悪い子じゃのぅ……』

『『マルス』はながされやすいですからね……。『情』にもあついですし……』


 この二人の会話を聞いてわかるだろう。

 さっきまでのソウナの言葉は本当だとしても、涙や仕草はすべて演技だったってことだ。


 神様相手になんてことを……。ボクは心の中でため息をつく。



 それから元の世界に戻り、一週間。みっちりと自分から戦ったことなど無いソウナの剣の扱いにつきあったのだった。

 これが、ソウナがスペィレイトハンドゥ組に入れた理由だった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 だからと言って、得意なアシスタント組で十分だったんじゃ……。


「席は……丁度リクの隣が開いてるな。ってそこに持って来たんだけど」

「わかりました」


 そう言って静かに自分の席に座るソウナ。


「まさかスペ組に入ってくるとは思っていませんでしたよ……ソウナさん……」

「まぁいいじゃない。真陽さんにだって許可は貰ったわ」


 彼女はウインクをすると同時にボクは呆れたため息を出さざるをえなかった。


 キーンコーンカーンコーン


「もう時間か。んじゃ遅れずに次の授業に出ろよ~」

「きりーつ。れい」


 そうして先生は外に出て――ザッ。

 一瞬にして囲まれたソウナ。


 ボクはその前に避難していた。


「真っ先に逃げましたのね……リクさん……」

「こうなるだろうとは思っていましたからね……」


 隣に藍色の髪を伸ばした女生徒、レナ・ルクセルが呆れた感情を声に混ぜて言ってきたのでボクはその感情をスルーして普通に返した。もう二度とあれには巻き込まれたくない……。


「リクさん、止めてあげなくてよろしいのですの?」

「うぅん。多分ソウナさんだから的確に対処できるんじゃないかな……」


 完全に助ける気が無いボクがそう言うと、レナはやれやれっと言った風に呆れていた。

 ちなみに、ここからではソウナの姿が見えない。他の人が隙間なく埋めているからだ。

 そうしていると、教室のドアから赤い髪をツインテールにしているボクの幼馴染が出ていく姿が見れた。


「あれ? マナちゃん?」


 最近、あまり姿を見せない彼女を見たので、ボクは教材を持って追って言った。

 後ろでは、ボクの時同様、レナの手の叩く音と声が聞こえたので、ソウナの質問攻めは終わったのだろう。


「待ってマナちゃん!」


 廊下で叫ぶとマナは気づいたようでツインテールをピコンとはねさせた。

 恐る恐ると言う風に振り向く彼女にボクはさらなる疑問を抱く。


「どうしたのマナちゃん? 最近、あんまり話せてないけど……」

「そ、そんなことないよ! あ、そうだった。ウチ、先生に呼ばれてるから先行くね!」

「え? マナちゃん!?」


 そう言うと、ボクの言葉も聞かずに走り去って言った。


「マナちゃん……一体どうしたんだろう……」

「さぁ。わかんねぇけどジーダス終わったころからあんな調子だよな」


 返事なんて返ってこないであろうと考えていたボクは、返ってきた声にビックリして振り向く。

 そこには黒髪黒瞳を短髪にした学校で一番恐れられてる【一匹狼】仙道キリがいた。


「キリさん。いつの間にいたんですか?」

「いや。廊下に出てきたらリクとマナが喋ってるとこに出くわしたんだけどマナが急いでるように立ち去ってくからよぉ」


 キリも心配しているようだ。一体全体マナはどうしてしまったと言うのか……。

 最近、あまり姿を見せないと言ったのは、学校に出席をしていないと言うことだ。

 今日は学校に来ていたのだが、昨日や一昨日などは休みだった。

 ここ一週間休みだったので学校に来たのは一週間ぶりだってことだ。

 ただ、一週間前ぐらいもあまり話さなかった気がするのだが……。


「とりあえずクソババアにでも言ってみるか?」

「うん。今日の稽古で言ってみようかな」


 そうしてボクは最初の授業に出るためにキリ(、、)と共に向かって言った。


「おい……今日もやるか?」

「そうだな……。今日の放課後、襲撃するぞ……」

「私たちも手伝っていいよね?」

「ああ、人数は多い方がいい……」


 歩いていたら、たまたま見た教室の隅の方で集まって、何やら話しこんでいる生徒が数十人ぐらいいた。

 楽しそうと言うよりも、なんだか怖さがあるような気がするのだが……。

 そんな事を考えているボクの隣でキリが呟いた。


「今日は昨日よりは楽しくなりそうだなぁ」

「何がです?」

「クハハッ。リクは知らなくて良いことだよ」

「???」


 訳のわからないまま歩いて行く廊下。

 最初の教室に着くと、ボクはキリと別れを済ませ、教室に入っていった。



誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

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