黒い羽根
それぞれが火を消して行きながら犯人を探し始めた。
だけど、人一人もおらず、誰がこの爆発を巻き起こしたのかが全く分からない。
せめて、何か証拠があればいいのだが……。
「ふぅ。これで大体の火は消せたかな?」
額を流れる汗を腕で拭き取る。この火の海の中を走りまわるため、汗が止まらず、体温がどんどん上昇していった。
おかげで体力を余分に使ってしまう。
『おぉ。さすがヘカちゃ……おっと、ルナちゃんが認めることがあるねリク。初めてあたしを使うのにさ』
「でも、武器カテゴリーは刀だし、ツキ、結構使いやすいよ?」
『それはよかった。これからあたしも楽ができ……存分に振るっていいからね?』
今、『楽』とかが聞こえた様が気がしたのだが……。
「〈アイス〉」
少し暑すぎるため、氷を作って体を冷やす。
右腕にはシラの腕輪をつけているため、氷魔法も容易に使えるのだが……。
『りく……。わたしあつくてしんでしまいそうです……』
「がんばって。ほら、氷で冷やしてあげるから」
魔法を使ってシラの腕輪を氷で覆う。
『いきかえります……。ですけどあいかわらずあついです……』
頭の中でシラが唸るけど、これ以上はどうしようもない。
『いますぐ、いますぐに〈フローズン・クリスタル〉をつかうのです……』
「ダメだよ。あれは火だけじゃなくて家の内部まで凍らして崩してしまう恐れがあるから」
『うぅ……あついのはにがてです……』
シラが肩を落とす絵がボクの脳内で写される。
『今回、妾はやること無しかのぅ』
「でも、ルナ、水の魔法なんて使える?」
『記憶があれば、水などいくらでも……』
「その記憶があればね……」
言い返す言葉が無いのか、ルナは黙ってしまった。
「えっと、ルナ? その……ごめんね?」
『いいんじゃ……。魔術の神が魔術を忘れるなど、これほど無能な神は普通おらんじゃろ……』
完全に落ち込んでしまったルナ。
なんとかルナを元気づけようといろいろ声をかけてみたが、どれもあまり効果が無かった。
同じように火を消して行くと、その途中、奇妙な物を見つけた。
「……何? これ……」
そう思って、落ちている羽根を拾う。何かの鳥の羽根だ。しかも黒く燃えている。
そう、赤い火ではなく黒い火で燃えているのだ。
触っても熱くはなく、もうすでにこの炎は燃え尽きている、そんな気がするのだ。
黒く燃えているのに燃え尽きているような感じがする炎。これは一体どういう事なんだろうか?
『これは……』
「ルナ、何か分かるの?」
『うむ。だが、この羽根を持つ何かではなく、この羽根に流れている魔力じゃ』
魔力? こんな羽根から魔力が?
そう思って目を凝らして見ると、悪質に満ちた魔力が流れている事がわかった。
「これ……悪魔?」
『おそらくは。じゃが、黒い炎を纏って羽、もしくは翼がついている悪魔など、いたかのぅ……』
ルナが考えるが、それは期待しない方がいいだろう。シラもツキも知らないみたいだし、これのことはまた今度みんなで考えよう。そう思ってボクはその羽根をポケットに入れた。
「リクさ~ん!」
水魔法で最後の火を消しながら走ってきたのはレナ。ウィンディーネがレナの放った魔法の後にまだ火が残ってる所を通っているため、完全に火は鎮火した。
それにしても、ウィンディーネは火は平気なのだろうか? 氷じゃないからシラみたいに暑いとは感じないのかな?
「はぁ。はぁ。何か収穫はありましたの?」
「ううん。とりあえず、この爆発は悪魔の仕業なんじゃないかなって」
ボクがそう言うと、レナは完全にジト目になった。
「……それが収穫と言わなければ何が収穫なんですの……?」
「え? あ、そっか」
そういえばそうだった。
「他のみんなは?」
「みなさん、火も治まった事ですし、初めについた場所に戻っている最中なハズですわ。先ほど、リクさんを見つけたので合図を送りましたの」
「ボクを見つけた?」
どういうことだろう?
「ええ。リクさんだけがなかなか戻ってこないので何かあったのだと思い、みんなして探していたんですわ」
ボクだけが戻ってこなかった? ということはそれぞれの仕事は終わったってこと?
ボクだけがまだ火を消していなかったってことになる。
そんなに遅かった様には思えないのだが……。
でも、魔法の扱いはボクよりも他のみんなの方がうまいから当然と言えば当然なのかなと思い、ボクはその集合場所に向かった。
つくと、すでにボクとレナ以外の全員が集まっていた。
「リク、無事でなによ――」
「おにいちゃぁぁぁああああん!!」
キリの言葉を完全に途切れさせ、ボクに向かって突っ込んできたユウ。目には涙を浮かべているが、大げさすぎやしないだろうか……。
そしてお腹が痛い……。
「もう! お兄ちゃんダメだよ! ユウとっても心配したんだよ!?」
「えっと、ユウ? ただの火消しに戸惑っていただけのようだし……そこまで泣かなくとも……」
お腹が痛く、言葉が話せなかったボクの代わりにカレンが答えた。
「ダメ! お兄ちゃんは危なっかしいんだから一人で交戦してるかも知れないって思えちゃったの! お兄ちゃん! 誰とも会ってないよね!? 狙われてなかったよね!?」
ユウがボクに抱きついたまま訊いてくる。
「丈夫だよユウ。そんなに泣かなくても、ボクは誰とも会ってないから」
そう言って頭を撫でる。それで安心したのか、涙は次第に治まるまっていった。そしてボクのお腹の痛さも治まっていった。
「それにしても結局。犯人は見つからないし、何の手掛かりも掴めなかったってことね……」
「……(コクコク」
ソウナが腕を組んで悩んでいると、白夜が首を縦に動かした。
まだわからないと言っている人達に、ボクは自信を持って答えた。
「あ、あの。犯人だったら悪魔だと思うんです」
そういうと、全員がこちらを向く。
「なんですって?」
「リク。もう少し詳しく説明してくれ」
キリに詳しくと言われたので、先ほどポケットに入れた羽根を取りだす。
「これです。これが落ちていたんです」
燃えている羽根だが、ポケットもボクの手も焼けてはいない。
「羽根?」
「……でも黒く燃えてる」
「それ、触って大丈夫なんですの?」
それぞれみんなが訝しげに、もしくは興味深そうに見てくる。
「しかし……どうしてその羽根だけで悪魔だってわかったんだ?」
「ユウもそれは気になる……。お兄ちゃんの言うことだから間違いないと思うけど」
二人とも、この羽根を見ても何も感じないようだ。いや、それはキリや白夜やレナも同じだった。
仕方が無いだろう、この羽根に残されている魔力はほんの微量。〝ヘカテ〟がいれば簡単にわかるがそうでなければ……。
その中で、ソウナは偶然か、気づいたようだ。
「この感じ……。前にお父さんの時と一緒……」
「ええ、そうですソウナさん。これ、ほんの微量ですが、悪魔の魔力が残されているんです」
ボクがそう説明すると、みんなそれぞれ驚いた。
「どうしてこんな街中に?」
「それよりも、ここはヒスティマではないですわよ?」
「……異常」
ヒスティマとこの地球が繋がっているゲートは、人以外のあらゆる生物の通行を拒否する。
前にそう雑賀から教わった。
「でも、前例がない訳ではないな……」
カレンがそう言うと、ユウもそれに頷く。そしてカレンはボクの方に向いてきた。
「ヒスティマにいた神がこの世界にこれているのだ。しかもリクという器の中からな。そう考えると……」
カレンがそこで区切る。そしてボクは気がついた。
生物は通行ができない。だが人間の内に隠れている生物は通行ができるということ……。
「ツキはどうかは知らないが、その悪魔。おそらく人の中、あるいはこちらで召喚されたのではないか?」
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