異変
「やっっっっっったぁぁぁあああ! 勝った! キリさんに勝ったぁあ!」
「ああ、クソ。後百点かよ……」
これまでの惨敗の分だけひとしきり喜んだボク。今まで一度も勝てなかったのだから、嬉しくないはずが無い。
当のキリは、ボクとの点数差が百点というほんの少しの点数に悔しさを感じていた。
「う~れ~し~~!!」
「あぁ。わかったから落ち着け、な?」
心の中で何度もバンザイをするボクを、キリは苦笑しながら落ち着けコール。
嬉しさをなんとか押さえるが、どうしてもニヤニヤは押さえれなかった。
「リク、何時まで良いんだ? 今日は」
「何時、ですか? 暗くなる前までなら大丈夫だと思います」
そう思って外を見てみ……?
そこで、何だろうと思って外を注意深く見てみる。だが、何も無いと感じると、ボクは目を逸らした。一瞬、藍髪と白銀髪が見えたような気がしたのだが……。
「まだあまり暗くないし、大丈夫ですけど……一回家に帰ります?」
そうすれば、歩き疲れた分、三時のおやつみたいなノリでデザートを作ってあげられるのだけど……。
だけど、ボクの言葉にキリは首を振った。
「いや、ヒスティマに行かねぇか? 丁度、面白れぇもんを持ってるからよ」
そう言って見せるのは銀色の細い腕輪。シラの横幅の広い籠手のようなものではなく、細くて、普通のアクセサリーのようなものだった。
「これは?」
「いや、今朝ここに来る前に弦に渡されてな。ロピアルズ魔法研究会が作った、安全に決闘をするための魔具らしい。ちゃんと作動するかどうか、確かめてきてくれって頼まれててな。無理か?」
ロピアルズ魔法研究会が? 弦は魔法研究会に入ったのだろうか?
「別に弦は魔法研究会じゃねぇぞ? 正反対の武芸強化会に入ってるらしい」
最近、キリにもボクの考えを読まれるような気がする……。
まぁそれは置いとくとして、弦は武芸強化会にいるってことがわかった。
「別に、無理にとは言ってねぇぞ?」
「いえ、することも無くなっちゃいましたし、行きま――」
ボクの言葉がそこで掻き消えてしまった。
――とても大きい魔力と爆発音によって。
ドゴォォォォォォオオオオオオン!!!!
「!?」
「今のって!?」
ボクとキリはすぐに反応し、駆け足で外に出た。
そして、音がした方を向くと……そこは火の煙が上っていた。
「なんだなんだ?」
「うわっ。ひっでぇ」
「誰がやったんだ?」
外を歩いていた人や、家の中にいた人が出てきて、ボク達と同じように音がした方を振り向いた。
すると、どこからか、サイレンの音が鳴り、消防車が向かっている事を知る。
「キリさん……あの爆発……」
「おそらく魔法使いだろ。それも相当魔力を持ってる奴だ」
ボクの推測は間違っていなかった。
しかしどうして……?
「お兄ちゃーん!」
ボク達がその場にとどまり、キリと小さく会話していると、それほど遠くない所からユウの声が聞こえた。
走り寄ってきたユウの他に、ソウナ、レナ、白夜、カレンと揃っており、今日はこの五人一緒に行動していたことが分かったが……。
「えっと、連絡も無しにどうやってボク達のいる場所が分かったの? ユウ」
「え!? あ、えっと、それは……」
さっきまでの急いでいた雰囲気と打って変わり、戸惑うユウ。これは何か隠していると思い、もう一言声をかけようとしたところで。
「私達、丁度ここの近くを歩いていて、あの魔力と爆発音がしたからその方向に走っていたの。その途中でリク君達と偶然会ったわけ」
ボクが口を開く前にソウナが答えた。まるでユウへの質問を言わせまいとして。
だが、ソウナは使う言葉を間違えてしまった……。
「ソウナさん。ソウナさん達は今爆発した音の方からボク達に向かって走ってきましたよね?」
「え、ええ……」
ソウナもそれに気がついたようだ。冷や汗が目に見えてわかる。
「どうして爆発音がした方向に走っているのに爆発音がした方向からボク達に向かって走ってくるんでしょうか?」
「そ……それは……そう。あの十字路から丁度こっちが見えて……」
「それだったらボク達が先に見つけるはずですよね?」
「そ、そうかもしれないわね。でも、私達が先に見つけたのは事実で……」
歯切れが悪いソウナ。完全に嘘だとわかってしまったボクは、もうソウナの言葉には騙されない。
「ユウは今までどこにいたの?」
「え? ユウはあの木の……あ!」
急いで口元を隠すユウ。
あの木……ね。
ユウが指した木は確かにここからだと爆発音のある方向で、そして丁度ボクとキリの死角の部分であり、気がつかなかったのも頷ける。
「……それより」
「早く爆発した所に行くべきじゃないのか?」
白夜とカレンがボク達をせかす。レナは落ち着かないようにして爆発音のした方角を見つめている。
「そうですね。行きましょう!」
そしてボク達は音のした方に向かって全速力で走っていった。魔法は使わずに。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
ついた場所はこの町の西区という居住区が多い所だ。この時間帯は、確か誰もいなかったはずだから人の死は考えなくてもいいだろう。
――後日、警察が調べたところ、死人は誰一人としていなかったとのこと。
だけど……人はいなくても家はあるのだ。なのに……今は……。
「何……これ……」
炎によって、家はどんどん崩れ、火の手は周りの家も燃やし始めて行く。
「こらこら君達。ここは危ないから下がってなさい」
消防士がボク達が近づいて行くのを止める。これ以上は進ませないとするが、こちらもそうはいかない。魔法が関わっている以上、ロピアルズに入っているユウ、カレンは黙っている事が出来ないのだ。
「私はRAである劉璃華蓮だ。消防署本部に連絡して、私達を通してほしい」
相変わらず帽子を深くかぶっているカレン。おかげで訝しげに睨まれるが、彼は訊かずに電話してくれた。
そこは普通、何を言っているんだとか言うところなんだろうが、彼はそれを言っても無駄だと悟ったからだろ う、本部の社長に連絡して無理だと伝えるんだろう。
だが……。
「え!? 通してしまっていいんですか!? は!? むしろ俺達は下がってと!? ど、どうして……」
彼がうろたえながら電話の向こうの人と話す。
「えっと、ロピアルズってこっちの人にまで知られてるの?」
「ううん。お偉い人だけにしか知られてないから大丈夫だよ♪ 心配しないでお兄ちゃん♪」
どうやらお偉い人はヒスティマのことは知らなくとも、ロピアルズのことは知ってるらしい。
「わ、分かりました……。では、ここら一体を閉鎖して、俺達は下がります……」
そう言うと、彼は電話を切り、ボク達にしばらく待てと言うと、鎮火に向かっている同僚達を引きあがらせた。
「それじゃあ。あんた達、何物かは知らないけど、あえて聞かないよ。頼んだからな」
そう言って彼は引き上げて行った。まだ炎は鎮火されていない。
「? お兄ちゃんの事やユウのことも知らないのかな?」
ユウがそんな疑問を口にするけど、今はそうもいかない。
「ユウ、魔法を使ってよいな?」
「うん。良いよ。じゃないとこの炎は消えないと思う」
それを聞いたカレンはすぐに魔力解放し、剣を複数顕現。
「我が名はキリ――」「我が名はレナ――」「我が名は白夜――」
それぞれみんな魔力を解放、そして武器を顕現すると、それぞれが水の魔法を使い、炎の鎮火に当たった。
キリや白夜は、水の魔法を基本使わない。それだけでなく、水の魔法はあまり使えない。
白夜はそんな中で水の魔法の基礎の中の基礎の魔法を使い、炎をなんとか消す。キリは水魔法を使わず、他の家に火が回らないよう、もうすでに燃えてしまった家を壊して行った。
「どうしよ……ボク水魔法持ってない……」
『なら、炎を斬ってはどうじゃ?』
あれ? ルナ?
キリと二人でいる時はなんにも喋らなかったのでてっきりボクの中から出ていたのだと思っていた。
『何も炎を斬らなくたって、水魔法が使える神様をもうリクは契約したではありませんか』
シラがそう答えてくる。
えっと、誰かいたっけ……?
ルナ、シラ、そしてツキとしかまだ契約していない。
『はっはっは! あたしだったら〈ムーンレイン〉でこんな炎、簡単に消せるよ!』
頭の中で笑うツキ。しかし、その魔法で消せるならありがたい。
「えっと、武器か防具になれるかな……?」
『うん。なれるよ。だから名前を呼んで』
「わかりました……。出てきて! ツキ!」
そう言うと体から光が出てきた。
その光はボクの右手に収束していき、手を優しく包みこんだ。
そして光が納まったぐらいになると、そこにはツキが契約の試練の時に使っていた武器を握っていた。
「こ、これ……」
『ほら! 一発かましてやれ!』
ツキが元気よく言うので、ボクは手に持った刀を意識しながら、頭に覚えられている魔法を構築して――放つ。
「月の涙よ……〈ムーンレイン〉!」
放たれた光は、炎に向かって放たれ、当たると、炎をごっそりと持っていった。
『よし! どんどん消して行こ!』
そして、これ以上炎を広げないために、外側にある燃え移った家から炎を鎮火するために取り組んでいった。
誤字、脱字、修正点があれば指摘を。
感想や質問も待ってます。




