公園
「ありがとうございましたぁ」
「リクちゃん、また帰っておいでよ~」
「はい! また来ます!」
店員に見送られるという他の店だとありえなさそうな挨拶に、キリはちょっと愛想笑いを浮かべた。
「お前、どこ行っても人気者なんだな」
「そうですか? ボクはそうは思いませんが……」
――だって、昔なんて……。
そう思ってしまった考えをすぐに振りはらい、ボクは道に沿って歩いて行く。
しばらくすると少し懐かしい道を通っていて……。
「ちょっと公園に寄っていきましょう」
「何かあるのか?」
「ちょっと休憩です」
先ほど店にいたから別に疲れてはいないが、ちょっと木陰で休みたい気分だった。
立ち寄った公園は子供のころはとっても広いと感じたのだが、今では少し狭いなと思ってしまう。
休日だからか、遊具や砂場などで、遊ぶ子供がたくさんいた。
「あ。丁度アイス屋さん来てる。キリさん、何がいいですか? 払いますよ」
「ん? いや、俺が買ってくる。ここで待ってろ」
「え、いや、でも……」
キリはボクの言葉も聞かずにアイス屋さんの方に向かっていった。
仕方ないのでボクは近くにあるベンチに腰をかけた。
キリの頼んでいる姿を遠目で見て、しばらくするとキリが両手にアイスを持って帰ってきた。
「ほら」
「何円でした? ボク、払いま――」
「気にすんな。さっきの店を教えてくれただけでもありがてぇよ」
財布を開けるのを止められ、そしてアイスを無理やり渡される。
定番のバニラアイスだ。
変な味のアイスを頼まれるよりもずっといいと思い、ボクは一口、パクリと食いついた。
「ん~♪ おいしいですね」
「ああ。暑くなって来たし、丁度いい季節なんじゃね?」
「あはは。そうですよね。真夏はアイスよりもかき氷ですよね。食べるなら」
シラがいるので暑くならないようにできるかもしれないが、それはさすがにズルだろうと思ったので使わない事とした。楽ばかりを覚えてはいけないんだから。
「そんやぁさぁリク」
「?」
キリが何気なく訊いてきた。
「どうして公園に来ようと思ったんだ? のどかな場所だけどよ」
そう言って見ているのは公園で遊ぶ子供達なのか、それとものどかな風景なのか……。
ボクが見ているのはそのどちらでもない。平和な風景……。
「命の掛け合いの無い風景。そんな風景を……中学に入る寸前に、マナちゃんは見たのかなって思って……」
「…………そうだな。見たんじゃねぇか? だからリク達の記憶を消した。壊したくねぇからって」
そうだよね……。ボクもそう思う。やっぱりボクもそうしなきゃいけないのかな……。
「もしかして、こっちでの自分の居場所を無くそうとでも考えてんのか?」
「え!? どうしてわかったんですか!?」
何も声は出していないはずだ……。確かにそんなことも少しは考えてしまった……。一体どうやって……。
「いや、リクの事だからな。そんなことぐらいはわかる」
ボクってそんなにも単純なんだろうか……。
「で、リクは何を考えたんだ?」
「へ?」
「だから、どうするかって意味だよ」
まだ……そんなのすぐ決められる訳ないじゃないか……。そう考えると、ボクって優柔不断なんだなって思う。すぐに決められない。
すると、タイミングよく、視界の端に見慣れた赤いツインテールが見えた。
「あれ? マナちゃん?」
「リクちゃん? どうしてこんな所に~?」
向こうも気がついたようで、少し走って近寄ってきたマナ。
「それはこっちの台詞ですよ。今日は用事があったんじゃなかったんですか?」
「丁度午前中で終わったんだ~。だからちょっと散歩しようと思ってね~」
…………?
マナがいつものように語尾を伸ばした台詞に、何か違和感を感じた。ボクの中の何かが反応した様な気がしたんだ。別に何処も違和感なんてないなと思い、この時のボクはただの気のせいだと思った。
「それにしても、元気になったんですね?」
「どうして~?」
「いえ、最近、ちょっと元気が無いなと見えてしまって……」
「確かに、最近のお前はちょっと元気なかったな」
キリも同じように感じていたようだ。
学校に来なかったりしたときはどうか分からなかったが、来ていた一昨日にも、ボクとかを避けていたりしていた。
話してもオドオドしているというか、何かを遠慮していたというか……。
「そんなこと無いと思うよ~? なんか邪魔しちゃ悪いし、それじゃあまたね~」
マナは特に気にする風もなく、そのまま歩いて去って行ってしまった。
一体こんな所に何の用があったのだろうか……。
「邪魔だなんて思ってなかったけどな。リク。次はどこ行く?」
「あ、そうですね」
今はキリを案内しているんだ。他のことを考えるのはやめておこう。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
そして、マナがここにいた理由を疑問に思っていたのは何もリクだけでは無かった。
「マナさん? 一体どうしてこんな所にいらしたんでしょう?」
「さぁ……?」
マナはリクとキリの二人と一言二言話したらすぐに離れてどこかへ行ってしまったようだ。
ここからヒスティマへ繋がっている次元の穴はかなりの距離がある。
散歩……ということなのだろうか? それだったらこんな場所に来なくとも……。いや、思い出の場所というのならば納得ですが……そういう場合は何かあった時に限りますわ。
「まぁ、どちらでもいいですわ」
「……動いた」
白夜の小さな呟きを聞き、わたくしたちはついていくため場所を移動する。
……って待ってください。
「どうしてアイスを食べているんですの!?」
「買ったから」
「暑かったからね」
「ユウが買ったから私も買ったまで」
「……食べたかったから」
つまりそれぞれ食べたいという理由があったから買ったのだろう。ならば……。
「わたくしの分はありますの?」
「買ってないよ?」
「レナさんは暑くないと思って……」
「ユウが買ってないから私も買ってない」
「……レナ、食べたいなんて一言も……」
なんにも買っていないようだ。
「わ、わかりましたわ……。買ってきますので他の皆様は先に追っていて下さいな!」
「じゃあ私イチゴね♪」
「チョコでいいわ」
「メロンでいいぞ」
「……リンゴとマンゴーのミックス」
「買ったのではなくて!?」
すでに全員手にアイスを持っているのにまだ食べるという。しかも白夜なんて両手に持ってる。
「というか、わたくしに払わせる気なのですか!?」
「「「「それ以外に何か?」」」」
「なぜそんなにも息が合っているんですの!?」
わたくしは覗き込みながら言ってくる四人に後ずさりながらなんとか逃れる言葉を探していると……。
『?』
突如リクが振り向いた。いち早く気がついて、すぐさま木の陰に身を隠す。
『どうかしたのか?』
『いえ……。レナさんの声が聞こえたような気がしたので……』
リクとキリはそれぞれ周りを見渡していないことを確認すると、気のせいだと判断したのかまた歩き出して行った。
「はぁ……はぁ……今、とっても危なかったですわ……」
「……声を荒上げるから」
「どなたたちのせいですの!?」
完全に他人事になっているのは白夜だけではなくて、他の人も大体同じようだった。
この調子では、アイスなんて買える状況でも無いので諦めて、わたくしたちはリクとキリの後を追って再度追跡を開始した。
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