カムバック!
「はぁ…………」
「えっと、大丈夫か? リク」
最近ここら辺にこれていなかったからなのか、その間にユウがボクのことを女の人だと町のみんなに話していた……。
心の涙を押さえつつ、ボクは帰ったらユウを何時間でもO・HA・NA・SIをするんだと決心した。
最初の八百屋のおじさんがキリの事を彼氏などと言ったせいか、顔見知りなおじさんおばさん達はことごとくキリのことを彼氏だと言った。
田舎ネットワークの伝達の速さがわかる。
なんとかみんなにはボクが男だと言って回ったが、全員が全員、信じてくれる訳ではなかった。それでも、なんとかキリはボクの彼氏じゃない事だけは納得させた。
「そう言えばお腹空いてきたな。どこか食べれるところはあるか?」
キリが話を逸らそうと一生懸命言ってくる。ボクもここのままではいけないと思ったので、立ち上がる。
「それだったらボクがお気に入りのところがあります!」
「へぇどっちだ?」
「こっちです!」
ボクは早くいこうと、キリの手を引いて少し早歩きをする。
「わ、ちょ……」
するとキリは慌てたようにしてボクに静止をかけてきたように感じたのでボクは聞き返した。
「? どうかしたんですか?」
「い、いや……何でも……」
そっぽを向きながら答えるキリに、ボクはハテナを浮かばせるが、お腹もすいたし、聞かずにボクは店に向かって早歩きで歩いて行った。
ボクの早歩きをキリは普通の速さで歩いてくる。
それに少し……いや、ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ悔しさを感じたのでもうちょっと足を速くして見る。
そのスピードにもキリは歩きを少し早くしただけであって早歩きとは程遠い。
「…………」
「ど、どうかしたのか?」
「えっと……今まで歩調を合わせてましたか……?」
「い、いや……そんなことは……」
歯切れの悪い回答を『yes』と捉え、ボクは少し落ち込んだ。
コレハ母サンノ遺伝ダ、コレハ母サンノ遺伝ダ、コレハ…………。
「だ、大丈夫か? リク」
「え? はい。大丈夫ですよ。谷底に何も無しのバンジージャンプをするぐらい大丈夫ですよ」
「いや、それ大丈夫じゃねぇからな? 完全にアウトだから」
冷静に突っ込みを入れられる。だって……よくよく考えてみるとキリとボクが並ぶと完全に凸凹なんですよ!?
「キリさんって……身長何センチあるんですか……?」
「俺か? 確か……174センチだと思った」
174…………。ボクよりも30センチも高い……。
「もうこの話は終わりましょう……」
心に傷を負いながらボクは歩を進めることとした。
何だかきまづい雰囲気になってしまったからか、キリがそれ以上は言わなくなってしまった。
「あ、つきました。ここです」
やっと空気から解放されたと思ったのか、キリが口を開いた。
「ここは……?」
「この町特有のお店です。とはいってもここ一件だけなんですけど、結構おいしいんですよ?」
店の名前は『カムバック』。もっと言うなら『カムバック』の後にビックリマークがついている。
「いや、帰ってきてじゃねぇだろ……」
「ふふ。お店の名前はともかく、ここの店長さんちょっと面白い人なんです」
「名前からしてちょっとどころじゃねぇだろ……」
ここの店は、好奇心のある人は大概面白がって入っていき、この店を知っている人は意気揚々として入って行く。
店に入り、まず聞こえてきたのは店員さんの――。
「お帰り! リクちゃん!」
「違うでしょう!? そこは『いらっしゃいませ』じゃないんですか!?」
「いやぁ。リクちゃんだとどうしても……なぁ?」
隣にいる店員が同じように頷いた。
「クハハ。愛されてんなぁリク」
「愛されてるってことなんですか……? これ……」
キリの苦笑にボクはさらに落ち込む。
その後、店員はいつものボクの指定席に案内すると、奥に入って店長を呼ぶ声があがった。
しばらくす――ガタガタガシャーン。
「うをぅ! すまん!」
訂正しよう。呼んでから数秒で、奥の食器が割れるような音が響いた後、奥から店長が顔をのぞかせた。
「おうリクちゃん! この一ヶ月、全く来なかったから寂しかったぞ!」
覗かせて出てきた人はこの『カムバック』の店長、新塚秀平。巨人のように大きい体に力強そうな腕。屈強の戦士のような顔だが、愛想がいいので怖いとは全く感じないような人だ。
「えっとすみません。母さんに遠くの方へ連れていかれてしまっていて……」
「ガッハッハッハ! またあの人か! 相変わらずだな! カナちゃんは!」
豪快に笑う店長。
そしてこう言うところが店長の人気の理由で、その人気によりこの店は、突如の臨時休業でも十分やっていけるのだ。
ちなみに突如の臨時休業は大概が母さんの仕業だ……。
そしてなぜか母さんとここの店長である秀平はかなり馬が合うようだ。
「まぁそんなことは今はいい。リクちゃん。こいつは? とうとうリクちゃんにも彼氏が――」
「ユウが話したんですか?」
「いや、カナちゃんだが……。と、とりあえずそのオーラはおさえような? 今のは冗談だよ冗談……」
母さんまで……。
これは二人とも後でO・HA・NA・SIじゃなくてO・SI・O・KIしかないな……。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
――ゾクッ。
「え? な、何? 今の悪寒……」
「どうかしたのか? カナ」
「い、いやぁ……。今、リクちゃんの殺気を感じたようなぁ……」
「は? 何バカ言ってんだ。ほら、資料持って来たぞ」
「ルーちゃん……。私が死んだらルーちゃんに全部託すわね!」
「大丈夫。お前が死ぬなんてことは無いし、もしもそんなことがありえるとしたらリクちゃんが説教するぐらいだな」
「その説教の予感がするのよ……」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「うめぇ! これ、なんて料理だ?」
「ガッハッハッハ! 何の変哲もないただのカルボナーラだ!」
キリを紹介すると、店長とキリは瞬く間に仲良くなった。どこかで馬が合うとことがあったのだろう。
「それよりも店長さん。仕事、いいんですか?」
「ん? ああ、大丈夫だ。最近バイトもたくさん入ってきたし、別に人数で困ってはいないしな!」
そして豪快に笑う店長。いや、仕事はしっかりとしてくださいとツッコミたくなったが、それだとどこぞの天然トラブルメーカーと同じになってしまうので控えた。母さんよりはしっかりと仕事をしているのだ。そんな失礼なこと言えないだろう。
「そんやぁリク」
「なんですか?」
カルボナーラを食べながらのキリに訊き返すボク。
キリは口の中に入れてあったカルボナーラを飲み込み、聞いてきた。
「お前、よく麺類を食べてるように見えるが、好きなのか?」
「えっと、そうですね。麺類が好きというか……スパゲッティとかが好きなんです。ヤキソバはユウが作るんですけど……」
逆も言える。ユウはヤキソバしか作らないと……。
「ってことは家でも作ってんのか?」
「はい。でも、一番得意な料理という訳でも無くて……。ボクが作った物よりも店長さんのカルボナーラが一番美味しいんです。味を盗もうと思ってもなかなかいかなくて……」
「ガッハッハッハ! 三十年の年月をかけて完成させたカルボナーラが簡単に盗まれちまったら元も子もないぜリクちゃん!」
――と、このように店長の一番の得意料理であるカルボナーラは簡単にマネはできない。それ以外の料理ならボクの方がうまいという自信はある。
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