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ヒスティマ Ⅱ  作者: 長谷川 レン
第二章 赤砂学園と月光
23/64



 ――また、ダメだった――



 胸の内から込み上げてくる悔しさと惨めさ。あまりにも無力であり、今の自分はあまりにも無価値。



 ――負の感情。それだけがまた自分の中に残ってしまった……。



 最初のキリがリクに決闘をしてきた時も……ソウナやユウを助けるためのジーダス攻略戦でも……。

 足を……引っ張っているだけで……。

神、〝セレネ〟との戦いでも、援護を任せられたのに……少しでも相手の動きを封じれなくて……。


「マナちゃん?」

「!」


 いけない……。今ここでこんなことをしていてはいけない。

 なるべく悟られないよう、ウチはいつも通りに言葉を返す。


「な、何? リクちゃん」

「どうかしたんですか?」


 心配するように聞いてくるリク。


「え? な、何のことかな?」


 わざとらしく見えてしまったであろう仕草に、ウチは自分を叱咤する。

 リクは納得いかない顔をしたが……。


「何かあったら言ってくださいね? 相談に乗りますから」


 そうやって笑顔で言ってくれたリク。


「う、うん。ありがと」



 ――何も知らない癖に――



「……え?」


 振り返る。でも誰もいない。

 あの、ドス黒い感情のこもった声がどこから放たれたのかが全く分からなかった。


「? 後ろに何かあるんですか?」


 そう言ってリクも振り返るけど、何も見つけられなくてハテナを浮かべる。


「ううん。何でもない。ただの空耳だったみたい」


 ただの気のせい。

 でも、頭のどこかでは全否定できなくて、今も鼓膜の奥で響いているような気がする。

 そんなシコリを残したまま、ウチ達はキリ、白夜と食堂で合流し、学園の門で他の四人と合流した。


「解決したし、明日からはお兄ちゃん以外は向こうに帰っていいからねぇ♪」

「でも、まだ記憶の修正をして――」

「ユウがやっとけば問題ないよね♪」

「真一君には私自身がやらないといけないわ。私がやったのだから」


 バチバチとソウナとユウの間で火花が散る。


「そう言えばリクに保留にしていた件があったな」

「「「!?」」」


 その声にレナ、そして火花を散らしていた二人が壮大に反応する。


「そういえばそうでしたね……。えっと、ボクができることなら……」

「ダメよリク君! 私はそんなの聞いていないわ!」

「そうよ! ユウだって聞いていないもん!」


 リクの言葉に、先ほどまでケンカしていたソウナとユウが抗議の声を上げる。


「仙ちゃん? 変なことを言ったら承知しませんわよ?」


 レナが冷たくした目以外を笑顔にしながらそう言うが、あまりキリには効果は無かったようだ。


「何の話か分からないが、少し興味があるな」

「……どういう内容にするの?」

「ああ。そう言えばこっちの世界について、俺はあまり知らんかったしな。こうやって来たんだし、ついでだから明日案内してくれよ」


 キリが軽く、そして他意が無い気持ちでそう言うので、リクは軽くOKをした。


「ってダメ!! それ完璧にデ――」

「……それ以上はダメ。……多分キリも気づいていない」

「いや、リク先輩は男なのだからセーフでは……?」


 ソウナが暴露するところを白夜の〈シャドー〉が口をふさぐ。

 それはユウとレナにもやっていた。


「あれ? カレンはどうしてボクのことを先輩と……?」

「先輩であろう? 別に良いではないか。魔法のことでは私の方が先輩であろうと、学園ではリク先輩の方が先輩なのだから何も問題は無い」


 カレンがそう断定する。確かに、ベレー帽を深くかぶって顔があまり見えない彼女を見ると先輩と言うより後輩と見える。いや、そう言う問題ではないのだろうが……。

 そこで、脱線していた話を戻し、キリが口を開いた。


「別にお前らも一緒で良いじゃねぇか。特にマナ」

「へ? ウチ?」


 全く話に参加していなかったウチに話が振られるとは思っていなかったので、つい聞き返してしまう。


「お前以外にマナなんて誰がいるんだよ。俺が誘った理由は、お前が久しぶりにこっちに帰って来たからだよ」


 やっぱりキリに他意はなかった……。ただ単に見て回りたかっただけなんだ……。

 この街っていろいろあるから……。


「ウチはいいよ~。明日は……」

「何かあるのか?」


 あるという訳じゃないが……。どうしても気が乗らない。


「ちょっとね~……」

「じゃあまた今度にするか……」


 キリが諦めたようにした時、白夜が割って入ってきた。


「……それはダメ。……明日にリクちゃんとキリで二人で行くべき。……私たち五人は明日用事がある。」

「「「!? それはどういう――」」」


 という女性陣三人の口をまたも〈シャドー〉で塞いだ。


「でも、明日だった学校が――」

「リクちゃん。今日は金曜日だよ?」

「そうでした……。じゃあキリさん。明日は二人で良いですか?」

「俺はかまわねぇけど……」


 チラリと見るキリ。その視線の先には〈シャドー〉によって完全に取り押さえられている三人と手で『グット』をしている白夜の姿がある。


「私もいいぞ。ユウの用事があるならそれに付き合うつもりだからな」


 カレンもユウの用事について行くことを宣言したので、キリは「まぁいいか」と言って続けた。


「じゃあリク、明日お前の家に迎えに行くわ」

「わかりました。何時にします?」

「そうだな……。十時ぐらいで全部回れるか?」

「ええ。十分回れます」


 そうリクが言うと十字路の分岐点。リクとソウナが帰るには左。ヒスティマに帰るにはまっすぐ行かなくてはいけない。


「じゃあその時間に。またな」

「……じゃあリクちゃん。……おやすみ」

「おやすみなさいみなさん」


 みんなでそれぞれの道を進んだ。なぜかソウナは白夜に連れられているが……。


 ヒスティマに戻り、それぞれが違う道を使って家に帰っていき、一人になった時だった。


「……誰?」


 人の気配がする。しかもウチが気づくぐらいだからかなりの存在感を出している人。

 普通だったらそんな人がウチを見ているとは思わない。でもその人の気配は違った。

 つねにこちらを見ている視線が感じるのだ。


「我が名はマナ――」


 魔力を解放し、ファイヤーバードを喚ぶ。基本魔法は魔力を解放するだけで十分だが、ウチは基本魔法なんかで感じる視線を撃退できるとは思えなかったのだ。


「いない……?」


 ファイヤーバードが出てきたことにより、辺りは明るく照らされ、そして歩いている場所は一本道。隠れるような場所は無い。

 いや、家の中に入れば隠れるようなところはたくさんあるが、気配はもっと近くからだ。


「…………幽霊……。ではないよね……」


 そんなのだったらここまで警戒しない。幽霊はヒスティマに生きる魔法使いにとってザコ同然。どれだけ弱い魔法使いでも、そこらへんに浮いている幽霊なんて簡単に倒せる。

 その時だった――。



 ――力が欲しい……――



「!?」


 振り向く。だけどいない。同じ声が聞こえた。

 よくよく聞いてみると、その声は……。


 ――力が欲しい……――


「ウチの声……?」


 ゾッとする。背筋が急に寒くなってくる。

 同じ声だからこそ……この冷たく、憎悪に満ちた声に寒気がする……。



 ――そう。思うでしょ?――


「た、確かに欲しい……でも、ウチはこんな憎悪に満ちた、力なんて……」


 ――心では違う。どんな力でもいいから欲しい……――


 ち、違う……ウチは……。


 ――役立たずは嫌だ。ならば、どんな力でも欲しいだろう……?――


「ウチは……力は確かに欲しい……。でも! こんな悪質に満ちた力は――」













悪魔(、、)に求めるほど欲しいんでしょ?」













「!?」


 声がした方向に振り向く。そこには、ウチと同じ姿をした…………。


「だから……力をあげる。悪魔の力を」

「い、いらない……。悪魔の力なんていらない!」


 後ずさりする。すると、足が何者かに掴まれる感触がして、その場が動けない。

 そして掴んでいるのを見ようと下を見るけど、そこには何もなく、ただ、掴まれている感触しかない。


「違う……どうして……。どうしてこんなのが……」


 悪魔なんて……悪魔なんて望んで――。



 ――目の前にいたもう一人の自分。そのもう一人の自分が自分の中に入ってきた。



「い、やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!!」


 心が……心がどんどん壊れていく感触。

 黒い……とても黒い力がウチの体を蹂躙していく。

 それは近くにいたファイヤーバードにも影響が及んだ。赤かった炎は次第に黒くなっていったのだ。

 抗おうと意識を保つ。でも……。



 ――ウチの意識がそれ以上保つことは出来なかった。


誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

感想や質問も待ってます。

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